「橋本病と甲状腺機能低下症の違い」はご存知ですか?それぞれの症状や治療法も解説!

甲状腺ホルモンとは?メディカルドック監修医が甲状腺ホルモンの働きや分泌が高くなる・低くなる原因や増やす方法などを解説します。

監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。内分泌代謝・糖尿病内科専門医。

「甲状腺ホルモン」とは?

甲状腺ホルモンとは、のどにある甲状腺という臓器から分泌され、全身の新陳代謝を調整するホルモンです。主に「サイロキシン(T4)」と「トリヨードサイロニン(T3)」の2種類があり、T4・T3の数字は、ホルモン1個に含まれる「ヨウ素」という成分の数(4個・3個)を表します。血液中ではT4が多く、必要に応じて、より作用の強いT3へと変換されて働きます。甲状腺は血液中のヨウ素を材料にして甲状腺ホルモンを作るため、ヨウ素は甲状腺ホルモンに欠かせないミネラルです。ヨウ素は昆布やわかめ、のりなどの海藻に多く含まれています。甲状腺の病気は女性に多く、決してめずらしいものではないため、症状を知っておくことは早期発見に役立ちます。

甲状腺ホルモンはどこから分泌されるの?

甲状腺は、のどぼとけの下あたりで気管(空気の通り道)を包むように位置する、羽を広げた蝶のような形をした臓器で、重さは10~20gほどです。その分泌量は脳がコントロールしています。脳の視床下部から出る指令を受けて、下垂体から「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」が分泌され、これが甲状腺を刺激してホルモンを作らせます。血液中の甲状腺ホルモンが増えるとTSHが減り、少なくなるとTSHが増える、というエアコンの温度調整のような仕組み(ネガティブフィードバック)で、量が一定に保たれています。

甲状腺ホルモンの働き(役割)

甲状腺ホルモンは、全身のさまざまな臓器に働きかけて、からだが健やかに活動できる状態を保っています。ここでは代表的な3つの働きを紹介します。

全身の新陳代謝を整える

甲状腺ホルモンは、食べたものをエネルギーに変えたり、タンパク質を合成したりする代謝を活発にし、からだが元気に働く状態を保ちます。いわば全身の「アクセル役」のホルモンで、分泌量が適切であればエネルギーの産生や体温が安定します。

心臓や体温などを調整する

心拍数や体温を適切に保つのも甲状腺ホルモンの役割です。多すぎると動悸や暑がりに、少なすぎると徐脈(脈が遅くなること)や寒がりといった変化が現れます。

成長や脳の発達を促す

子どものからだの成長や、脳・神経の発達に欠かせないホルモンです。とくに胎児期や乳幼児期には、骨や脳の発達に重要な役割を果たします。

甲状腺ホルモンの分泌が多くなる原因

バセドウ病(自己免疫の異常)

甲状腺ホルモンが過剰になる最も多い原因がバセドウ病です。本来は細菌などを攻撃する免疫が、誤って甲状腺を刺激する抗体(TSH受容体抗体)を作り、甲状腺がホルモンを作りすぎてしまう自己免疫の病気で、若い女性に多くみられます。

機能性結節(プランマー病)

甲状腺にできたしこり(結節)が、脳からの指令と関係なく勝手にホルモンを作り続けることで、過剰になるタイプです。

甲状腺の炎症(破壊性甲状腺炎)

亜急性甲状腺炎(甲状腺の痛みや発熱を伴う)や無痛性甲状腺炎では、炎症で甲状腺の細胞が壊れ、蓄えられていたホルモンが一時的に血液中へ漏れ出て過剰になります。多くは数か月で自然に落ち着きます。

甲状腺ホルモンが過剰分泌されるとどんな症状が現れる?

動悸・体重減少・暑がり

代謝が活発になりすぎて、じっとしていても動悸がする、脈が速くなる、食べているのに体重が減る、汗をかきやすく暑がりになる、といった症状が出ます。エネルギーを消耗しやすくなるため、疲れやすさを感じることもあります。

手の震え・イライラ・不眠

手指の細かな震え、イライラして落ち着かない、よく眠れないなど、神経が高ぶった状態になります。下痢や疲労感を伴うこともあります。

甲状腺のはれ・眼球突出(バセドウ病)

バセドウ病では、のどの甲状腺が全体的に腫れる、目が前に出て見える(眼球突出)、目が閉じにくいといった特有の目の症状が現れることがあります。こうした見た目の変化から気づかれることもあり、気になる場合は早めに受診しましょう。

甲状腺ホルモンの分泌が少なくなる原因

橋本病(慢性甲状腺炎)

甲状腺ホルモンが不足する最も多い原因が橋本病です。自己免疫によって甲状腺に慢性的な炎症が起こり、少しずつホルモンを作る力が落ちていく病気で、中年女性に多くみられます。抗体が陽性でも甲状腺の働き自体は正常に保たれている人も多く、その場合は治療せず経過をみることもあります。

手術・治療の後やヨウ素の過不足

甲状腺の手術後、放射性ヨウ素(アイソトープ)治療の後、抗甲状腺薬の効きすぎなどでも機能が低下します。また昆布などヨウ素のとりすぎや、逆に不足でも、機能が低下することがあります。

脳(下垂体・視床下部)の異常

まれに、甲状腺に指令を送る脳の下垂体や視床下部の障害(腫瘍や外傷など)によってTSHが十分に出ず、甲状腺ホルモンが低下することもあります(中枢性甲状腺機能低下症)。

甲状腺ホルモンの分泌が少なくなるとどんな症状が現れる?

むくみ・寒がり・体重増加

代謝が落ちるため、顔や手足がむくむ、寒がりになる、食欲がないのに体重が増える、といった症状が現れます。むくみは押しても跡が残りにくいのが特徴で、朝方に顔がはれぼったく感じられることもあります。

倦怠感・無気力・記憶力の低下

何をするのもおっくうで疲れやすい、気力がわかない、物覚えが悪い、便秘、脈が遅くなる(徐脈)など、全身の働きがゆっくりになります。症状がゆっくり進むため、加齢や疲れのせいと思って見過ごされたり、うつ状態と間違われたりすることもあります。

皮膚の乾燥・脱毛・月経異常

肌がかさつく、髪が抜けやすくなる、女性では月経の量が増えるなどの変化がみられることもあります。

甲状腺ホルモンの分泌を増やす方法

甲状腺ホルモンは、自分の意思や食事だけで自由に増やせるものではありません。不足している場合は、原因に応じた医療的な対応が基本になります。

まず原因の病気を調べて治療する

機能低下の背景にある橋本病などの状態を確認し、治療することが最優先です。自己流のサプリメントなどで補おうとせず、医療機関で適切に対応することが大切です。

不足分は薬で補う(ホルモン補充)

甲状腺ホルモンが足りない場合は、合成した甲状腺ホルモン薬「レボチロキシン(チラーヂンS)」を内服して補います。少量から始めて量を調整し、多くの場合は長期にわたって続けます。薬は不足しているホルモンを補うものなので、適切な量であれば体内で本来分泌されるホルモンとほぼ同じように働き、症状の改善が期待できます。

ヨウ素を適切にとる(とりすぎに注意)

甲状腺ホルモンの材料はヨウ素ですが、日本人は海藻からのヨウ素摂取が多く、不足はまれです。むしろ昆布などのとりすぎは甲状腺の働きを乱すことがあるため、「増やそうとして大量にとる」のは避けましょう。

甲状腺ホルモンの検査法

血液検査(TSH・FT4・FT3)

甲状腺の働きは、主に血液検査で調べます。脳から出るTSHと、実際に作用する遊離ホルモン(FT4・FT3)を測定し、TSHが高くFT4が低ければ機能低下、TSHが低くFT4・FT3が高ければ機能亢進(こうしん=働きすぎ)と判断します。TSHはわずかな異常も反映しやすいため、甲状腺の状態を最初に確認する指標としてよく使われます。

甲状腺の自己抗体検査

原因を調べるために、抗体(免疫の異常でできるタンパク質)を測定します。バセドウ病ではTRAb(TSH受容体抗体)、橋本病では抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陽性になります。

超音波(エコー)・シンチグラフィ

首に超音波をあてて、甲状腺のはれやしこりの有無を調べます。また放射性の薬を使う「シンチグラフィ」という検査で、ホルモンの作りすぎか、炎症による漏れかを見分けることもあります。

甲状腺ホルモン値に異常がある場合の治療法

機能亢進症(働きすぎ)の薬物治療

甲状腺ホルモンが多すぎる場合は、まず抗甲状腺薬(チアマゾール〈メルカゾール〉やプロピルチオウラシル)でホルモンの生産を抑えます。まれに白血球が減る「無顆粒球症」などの副作用があるため、定期的な血液検査が必要です。

アイソトープ治療・手術

薬で十分でない場合などは、放射性ヨウ素で過剰に働く甲状腺の細胞を減らす「アイソトープ治療」や、甲状腺を切除する手術が選ばれることもあります。動悸などの症状には、β遮断薬(脈を整える薬)を併用します。

機能低下症(働き不足)の補充療法

甲状腺ホルモンが不足している場合は、レボチロキシンの内服で不足分を補います。定期的に血液検査を行い、量を調整しながら続けます。

「甲状腺ホルモン」についてよくある質問

ここまで甲状腺ホルモンについて紹介しました。ここでは「甲状腺ホルモン」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

甲状腺ホルモンの働きを助ける食べ物を教えてください。

久高将太(医師)

甲状腺ホルモンの材料になるのはヨウ素で、昆布やわかめ、のりなどの海藻に多く含まれます。ただし日本人は普段の食事でヨウ素を十分にとれており、不足することはほとんどありません。むしろ、健康によいと思って昆布などを大量にとり続けると、かえって甲状腺の働きを乱す可能性があります。とくに橋本病やバセドウ病などの甲状腺疾患を有する方は、ヨウ素のとりすぎに注意が必要です。特定の食品で甲状腺ホルモンの分泌を調整することは困難であり現実的に不可能であるため、一般的なバランスのよい食事を基本にし、甲状腺ホルモンの調整に関しては主治医に相談しましょう。

まとめ甲状腺ホルモンの異常は自己判断せず、専門医の検査を受けましょう

甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を整え、心臓や体温、成長・発達などに関わる大切なホルモンです。多すぎるとバセドウ病などで動悸・体重減少・暑がりといった症状が、少なすぎると橋本病などでむくみ・寒がり・倦怠感といった症状が現れます。

いずれも血液検査(TSHやFT4など)で調べることができ、抗甲状腺薬やホルモン補充薬(レボチロキシン)などで適切にコントロールできる病気です。甲状腺ホルモンは食事やサプリメントで自由に増減できるものではなく、ヨウ素のとりすぎは、かえって甲状腺に負担をかけることもあります。

疲れやすさや体重の変化、動悸やむくみなど、気になる症状が続くときは、自己判断せず、内分泌内科や甲状腺の専門医を受診して検査を受け、適切な薬物療法を受けることをおすすめします。

「甲状腺ホルモン」と関連する病気

「甲状腺ホルモン」と関連する病気は9個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

甲状腺の病気

バセドウ病

橋本病(慢性甲状腺炎)

亜急性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎

プランマー病(機能性結節)

甲状腺腫

甲状腺がん甲状腺機能亢進症甲状腺機能低下症

甲状腺は小さな臓器ですが、病気になると全身に及ぼす影響は大きく、時に激しい症状が見られることがあります。

「甲状腺ホルモン」と関連する症状

「甲状腺ホルモン」と関連している、似ている症状は11個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

関連する症状

動悸

体重減少

体重増加

むくみ

寒がり

暑がり

手の震え

倦怠感

疲れやすさ

眼球突出

首(甲状腺)のはれ

これらの症状が続いて改善しない場合には、早めに医療機関を受診して検査を受けることをお勧めします。

参考文献

甲状腺について|環境省

甲状腺中毒症|日本内分泌学会

バセドウ病|日本内分泌学会

甲状腺機能低下症|日本内分泌学会

ヨウ素|厚生労働省eJIM

ヨウ素と甲状腺の関係|伊藤病院

橋本病の診断基準(診断ガイドライン)|隈病院(日本甲状腺学会の基準を掲載)

甲状腺疾患診断ガイドライン2024|日本甲状腺学会

バセドウ病|国立国際医療研究センター病院