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三重県亀山市の新名神高速道路で今年3月、大型トラックを運転中にスマホの脇見運転で追突事故を起こし、6人を死亡させた罪に問われている運転手の女性の裁判で、津地裁で9月10日、検察側が拘禁刑7年を求刑しました。

起訴状や検察側の論告などによると、被告はTikTokの料理動画のスクリーンショットを撮ろうとして、10秒ほどスマートフォンの画面を見ながら、時速約82キロで走行していたということです。渋滞で停止していた車に約9.4メートル手前で気づき、急ブレーキをかけましたが間に合わなかったとされています。

この事故で、静岡県の一家5人と、その前を走っていた男性の計6人が亡くなっています。6人が死亡した結果に対する罪として、ネット上では「軽すぎる」という声が多く見られます。なぜもっと重くできないのでしょうか。

今回、運転手の女性が問われている、過失運転致死罪の法定刑は、上限が拘禁刑7年と定められています。こうした痛ましい事故が起こるたびに、「軽すぎる」という声がたびたび上がってきました。法改正などの議論は行われてこなかったのでしょうか。こうした背景も踏まえてこの裁判について解説します。

●6人が亡くなっていても、最大は7年

今回のように過失運転致死罪だけで起訴された場合、亡くなったのが6人でも、この上限は変わりません。

たしかに、亡くなった人の数だけ罪は成立します。しかし、1回の運転行為による事故の場合、「観念的競合」(刑法54条1項前段)というしくみで、刑を決めるうえでは1つの罪として扱われるためです。

6人が亡くなったという結果は、最大で7年という枠の中で重い方向に考慮されます。

つまり「軽すぎる」のは、法律そのものの規定ということになります。

●「ながら運転」を重い罪にする案は、議論のうえで見送られた

「危険運転致死罪」が適用できれば、法定刑の上限は20年になります。

もっとも、危険運転致死罪が適用された場合でも、20年に近い刑が言い渡されるとは限りません。

危険運転致死罪が適用された近年の裁判例には、以下のようなものがあります。

・時速約141キロで1人が死亡、2名が重症という事故で懲役6年(水戸地裁・令和5年(2023年)9月25日判決)

・時速約115キロで2人が死亡、1人が重症という事故で懲役7年6月(津地裁・令和4年(2022年)10月20日判決)

・時速約100~110キロで1人が死亡、別の1人が重症という事故(高速度のほか、酒気帯びで赤信号を無視)で懲役10年(名古屋地裁・令和4年(2022年)6月23日判決)

そして、この罪が対象にしている運転は限られています。飲酒や薬物、制御が困難な高速度などです。

この類型に「ながら運転」は入っていません。

今年7月21日に施行された改正法でも、追加されたのは飲酒と速度の数値基準、それにタイヤを滑らせて制御できない状態で走る行為の3つでした。

「ながら運転」を加える案は、法務省が2024年に開いた「自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会」で議論されました。

しかし、検討会が2024年11月にまとめた報告書は、「危険性・悪質性を一律に区別することは困難」などの意見を記したうえで、「慎重な検討が必要」として、追加を見送っています。

●7年を上げる案も、2度退けられている

7年をさらに引き上げる案も、これまでに2度、法務省で正式に検討されています。

1度目は、自動車運転処罰法をつくる前の2012年から2013年にかけての法制審議会の部会、2度目は、先ほどの2024年の検討会です。

被害者や遺族の団体も、引き上げを求めてきました。

2012年10月25日と26日に法制審議会の部会が開いたヒアリングでは、上限を10年以上、あるいは15年や20年に引き上げるよう求める意見が出されています。

2024年3月7日の検討会第2回会議のヒアリングでも、10年への引き上げを求める声がありました。

しかし、2度とも見送られました。

判断の大きな材料になったのは、判決が上限に張り付いているかどうかです。

裁判所が7年いっぱいの刑を出し続けているなら、上限が低すぎることになります。

しかし、2024年5月30日の検討会第5回会議で法務省の担当者が説明したところでは、2018年から2022年までの5年間で、過失運転致死罪で懲役7年が言い渡されたのは1件だけでした。時速約146キロで4人が死亡し、1人が重傷を負った事故です(津地裁・令和2年(2020年)6月16日判決)。

●7年は、危険運転との間を埋めるための数字だった

7年という上限が決まったのは2007年です。

当時、危険運転致死罪の上限20年と、それまで使われていた業務上過失致死傷罪の5年との間に大きな開きがあり、その中間を埋める罪として設けられました。

法務省の当時の担当者は、2007年4月17日の参議院法務委員会で「5年から一挙に例えば10年というのは重過ぎるのではないか」と述べ、刑法では5年から10年の間に5年、7年、10年という刻みしかないことから7年を選んだと説明しています。

そして参議院法務委員会は同じ日、「法定刑の妥当性については、今後の交通事故の実態や科刑状況等を注視しつつ、引き続き検討を行う」という附帯決議を全会一致で可決しました。

●今後の議論が待たれる

今回の事件では、検察官は9月10日の論告で、この事故を「危険運転にも比肩(ひけん)しうる運転だった」と述べています。

そのような事故が、危険運転との間を埋めるためにつくられた罪の、上限の7年の求刑となっていることは、今後の議論に影響するかもしれません。

小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)