ユニクロ公式サイトより

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秋雨前線が東日本に居座り続け、東北から関東にかけては最高気温が25℃前後まで下がる日が増えている。秋の訪れを感じ、衣替えや防寒インナーの準備を意識しはじめた人も少なくないかもしれない。

これからの季節、店頭やCMでおなじみになるのが、ユニクロの防寒インナー「極暖」だ。この「極暖」について、ユニクロ独自の商品名だと思っている人も多いだろう。ところが商標の記録をたどると、意外な事実に直面する。

ユニクロを展開するファーストリテイリングは、実は「極暖」というネーミングだけでは商標登録をしていない。それどころか、「極暖」を先に商標出願した会社が2社あり、いずれも特許庁に拒絶されている。

これはどういうことなのか。商標の「識別力」という考え方から読み解いていく。(本文:弁理士・岡村太一)

先手を取ったのは、ワコールとグンゼ

ファーストリテイリングに先んじて「極暖」を商標出願していたのは、ワコールとグンゼである。ワコールの出願はユニクロの「極暖」販売開始前の2012年、グンゼの出願はユニクロの「極暖」の販売開始と同時期の2013年である。

このため、3社による“極暖かぶり”は偶然のものと推察される。そして、いずれの出願も特許庁から「識別力がない」という理由で拒絶されている。

商標として登録するには、出願対象のネーミングが「自社の商品と他社の商品を見分ける目印」として機能する必要がある。これを商標法の世界では「識別力」と呼ぶ。

逆にいえば、商品の性質や特徴(素材、機能、産地など)をそのまま表しているだけの言葉は、特定の1社独自の商品名(ブランド)と認識されないため、識別力がない。また、特定の1社に独占させると同業他社が商品説明に困ってしまう。このような理由で、識別力のないネーミングは、商標登録が認められない。

前述のように、ワコールとグンゼが出願した「極暖」も識別力がないと判断され、特許庁から拒絶理由通知書が発せられている。

具体的には、「極」と「暖」それぞれの辞書的な意味、「極寒」「温暖」といった語の用法、さらに他社が「極暖」をすでに商品の特徴として使用しているウェブページの例(5~6件)などが挙げられ、「極めて暖かい」という商品の性質をそのまま表しているにすぎない、と判断されている。

ユニクロ商標登録のために行った“知財戦略”

ファーストリテイリングが「極暖」を販売開始したのは、ワコールの審査結果が出た翌年の2013年である。

ワコールの拒絶という先例があったからか、ファーストリテイリングは「極暖」というネーミングだけの商標出願を行っていない。代わりに出願したのは、「極暖」の文字と「HEATTECH EXTRA WARM」の文字を円形のバッジ状にデザインした商標だ。こちらは無事に登録されている。

商標登録第6208467号から引用

つまり、登録されているのはあくまで「ロゴ全体」であり、「極暖」という言葉そのものの識別力が認められたわけではない。実際、ミズノ、ニトリ、岡本といった各社も、アパレルの分野で「極暖」を単独の文字ではなく、独自のロゴや他の言葉と組み合わせた形でのみ商標登録している。

商標登録第7039567号から引用
「ヒートテック」はなぜ通ったのか

興味深いのは、同じく防寒アパレルを指す言葉でありながら「ヒートテック」は商標登録されている点だ。両者の違いはどこにあるのか。

特許庁の判断基準によると、商品の性質や特徴を「直接的」に表す言葉は識別力がなく、「間接的」にしか表さない言葉には識別力がある。「暖かい」や「裏起毛」のように、誰が見てもストレートに商品の性質を示していると分かる表現は直接的で登録不可というのが原則である。

一方、「ヒートテック」は熱(heat)と技術(technology)を組み合わせた造語で、具体的にどんな機能を指すのか直ちに分からず、間接的な表現と評価されたと考えられる(特許庁の審査で登録が認められた場合、登録された理由は記載されないため、考察にとどまる)。

もっとも、この「直接」と「間接」の境目は決して明確ではない。似たような境界事例として、「MADE IN HOLLYWOOD」であれば産地表示として直接的だが、語順を入れ替えた「HOLLYWOOD MADE」は間接的だとして登録が認められたケースもある。語順や言い回しをわずかに変えるだけで結論が変わりうるほど、識別力の判断は繊細だ。

商品・サービスによっても結論は変わる。「極暖の家」というネーミングが、「建設工事」や「建築物の設計」については識別力が認められている。「の家」が含まれているとしても、ワコールなどの審査結果をそのまま当てはめると「極めて暖かい家(を作る)」と認識されそうなものである。

分野によりキーワードの使用状況が異なることが、直接的か間接的かの判断に影響していると考えられる。

将来的に「極暖」登録の可能性も?

「直接」と「間接」の境目は決して明確ではないだけに、拒絶理由通知書が発せられても反論により覆ることもある。“拒絶”という言葉の響きが強いがあくまでも“暫定”の意味である。仮にワコールが2012年当時反論していたら、登録に至っていた世界線もあったかもしれない。

今後の話として別の可能性もある。商標には、もともと識別力がない言葉であっても、長年にわたり特定の会社が使い続け全国的に有名になった場合、「使用による識別力」(後天的識別力)を獲得したとして登録が認められる制度がある。アイスの「あずきバー」、アパレルの「靴下屋」、作業服の「空調服」などが代表例だ。

「極暖」についても、ユニクロの圧倒的な使用実績が今後も積み上がり「極暖といえばユニクロ」という需要者の認識が確固たるものとなれば、将来的に文字単独での登録が認められる可能性はゼロではない。

「極暖」に関するアパレル各社の市場および商標出願の動向に目が離せない。

■岡村太一
弁理士事務所ブランデザイン代表・弁理士。商標登録・意匠登録を中心に、ロゴ・ネーミング・デザインを守る業務を数多く手がける。YouTube・Podcast番組「ゆるカワ♥商標ラジオ」でも発信を続け、商標をめぐる話題をわかりやすく解説している。書籍『ロゴとネーミングの法律―事業を守る商標のしくみ』著者。

▼同番組および同著書
https://bran-design.jp/topics/news/2849/