部下を育てるのは難しい。「自分でやった方が早い」と思う場面もある。サイボウズ元副社長の山田理さんは「問題は『任せる』という行為の理屈を知らないまま、任せようとしていることにある」という--。

※本稿は、山田理『戦略的丸投げの思考法』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Tirachard
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tirachard

■理屈を知れば「任せる」がうまくなる

「自分でやった方が早い」--この言葉を、何度心の中で繰り返したことか。

任せてみたけど方向がズレる。途中で口を出してしまう。部下も育たない。

本を読んでも、研修を受けても、うまくいかない。

「自分はマネジャーに向いていないのかもしれない」とまで思い始める。

でも、断言します。

丸投げできないのは、あなたの努力不足でも、覚悟不足でもありません。

問題は、「任せる」という行為の理屈を知らないまま、任せようとしていることにあります。もっといえば、「任せる=良いこと」という思い込みのまま、理屈なしに任せようとしていることにあります。

理屈を知れば、変われます。この序章では、その理屈の正体を明らかにします。

■最後は「自分で巻き取る」の繰り返し

あなたの職場に、こういう人はいませんか。あるいは、あなた自身が当てはまりませんか。

これから紹介する3つの風景は、どれも「任せたつもり」のマネジャーの話です。本人は真剣に任せたつもりなのに、うまくいっていない。なぜでしょうか。

まずは、そのすれ違いが現場でどのように起きているのかを見ていきましょう。

風景①いつも残業しているマネジャー

Aさんは、チームで一番優秀なマネジャーだと周囲からいわれています。しかし、毎晩遅くまで会社にいます。部下に仕事を任せている。でも、思った方向に進まない。結局、自分が手を動かしてやり直す。

「なぜこの仕事をあなたに任せるのか」「何を期待しているのか」。Aさんはこれを伝えないまま「よろしくね」と渡していました。部下は方向がわからないまま動き、Aさんは「やっぱり自分でやった方が早い」と巻き取る。その繰り返しです。

部下が育たないから、仕事はAさんに集まり続ける。Aさんがいなければチームが回らないという状況が、Aさん自身を追い詰めています。

結果として、Aさんは「任せているつもり」なのにすべてを抱え込んでいます。

問題は、能力不足ではありません。「なぜ任せるのか」という理屈を伝えないまま任せていたことです。

■部下の質問が多くて仕事が進まない

風景②なんでもすぐ確認してくる部下に悩むマネジャー

「これで進めていいですか?」
「念のため確認してもらってもいいですか?」

Bさんは「もっと自分で考えてほしい」と思いながらも、断ることもできずに応え続けます。

なぜこうなったのか。Bさんは、部下に仕事を任せるとき、こう言っていました。

「何かあったら報告してね」

一見、問題のない言葉のようですが、その「何か」の定義が曖昧だったため、部下は「全部確認した方が安全だ」と学習してしまいました。

Bさんは「自立してほしい」と思い、部下は「自立させてもらえない」と感じている。お互いにすれ違ったまま、疲弊しています。

Bさんは「任せたつもり」でした。でも、意思決定のレベルが設計されていませんでした。

問題は、部下の自立心不足ではありません。「どこまで決めていいか」が設計されていなかったことです。

どのレベルの意思決定なら自分でできるのか。どこからは相談が必要なのか。この設計がなければ、部下は毎回「聞いた方が安全」という選択をし続けます。

その結果、意思決定がいつまでもマネジャーに戻り続け、部下に任せたはずの仕事がマネジャーの忙しさを増やしていくのです。

写真=iStock.com/Mina Kaito
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mina Kaito

■信頼していた部下が突然休職

風景③任せたら部下が燃え尽きてしまったマネジャー

Cさんは「信頼しているから任せる」という信念の持ち主です。部下Dさんに大きなプロジェクトを任せました。「あなたに全部お任せします」と言い、部下の意思を尊重する思いで、その後は口を出しませんでした。

でも、3カ月後、Dさんが体調を崩して休職しました。後から話を聞くと、Dさんはこう感じていたそうです。

「困っていても相談できる雰囲気ではなかった」
「全部一人でやり切らないといけないと思っていた」

Cさんは信頼して任せたつもりでしたが、Dさんにとっては「孤立させられた」と映っていたのです。

Cさんは「任せたつもり」でした。でも、任せた後の支援が設計されていませんでした。問題は、信頼しすぎたことではありません。

「任せた後にDさんをどうフォローするか」が設計されていなかったことです。

任せた後、マネジャーは何もしなくていいわけではありません。定期的に状態を確認する。困ったときに相談できる仕組みを作る。

この設計がなければ、「信頼して任せる」は「放置」と区別がつかなくなります。

その結果、問題が大きくなるまで気づけず、後になって大きな手戻りや火消しに追われ、ますます忙しくなっていきます。

3人とも、悪意はありません。むしろ、真剣にチームのことを考えていました。

Aさんは、部下と仕事を分担しようとしていた。

Bさんは、部下に自立してほしいと思っていた。

Cさんは、部下を信頼していた。

それでも、うまくいかなかった。3人とも、「任せたつもり」になっていました。

あなたはどうでしょうか。「任せたつもり」になっていませんか。

■原因は「理屈」の不足

3つの風景に共通していた原因は一つです。

丸投げするための「理屈」が不足していたことです。

誰に任せるのか
何を任せるのか
どこまで任せるのか
なぜ任せるのか
そして、任せた後にどう関わるのか

これが「理屈」です。

これらのどれか一つでも曖昧なままでは、どれだけ部下を信頼していても、どれだけ部下の意欲があっても、任せることは機能しません。

■「設計」できれば、丸投げできる

「では、どう理屈を立てればいいのか」--その答えこそが、本書の本題です。

本書では、丸投げするための「理屈」を組み立てることを「設計」と呼びます。

丸投げの設計とは、次の問いに答えることです。

・ なぜ任せるのか:この仕事をあなたに任せる理由は何か。チームの理想とどうつながっているのか
・ 誰に任せるのか:やりたい気持ち(Will)・できる能力(Can)・やるべき役割(Must)の3点が揃っているか
・ どこまで任せるのか:意思決定の権限はどこまで渡すのか。何を自分で決めていいのか
・ 任せた後どうするのか:いつどう報告してもらうか。困ったときどう相談するか。サポートの仕組みはあるか

山田理『戦略的丸投げの思考法』(SBクリエイティブ)

この4つの問いに答えることが、「設計」です。

Aさんは最初の問い(なぜ)が抜けていた。Bさんは3つ目(どこまで)が曖昧だった。Cさんは4つ目(任せた後)が設計されていなかった。それだけのことでした。

逆にいえば、この4つが揃えば、どのパターンの人でも変われます。

「設計さえすれば、誰でも丸投げができる」

これがあなたに伝えたいメッセージです。

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山田 理(やまだ・おさむ)
サイボウズ株式会社 元副社長
1992年日本興業銀行入行。2000年創業期のサイボウズへ転職。取締役として財務、人事および法務部門を担当。ベンチャー企業ならではの離職率、採用苦戦による社員の疲弊を受け、リストラクチャリングや人事制度の策定に精力的に取り組み、現在のサイボウズの透明性を重視した100人100通りの働き方を実現する組織の基礎を築いた。2014年米国法人立ち上げのため、シリコンバレーに赴任。アメリカ、アジアなど、サイボウズのグローバル展開を支える組織づくりに邁進。2023年、KTゲームチェンジャーズを設立。複業での起業支援と並行しながら、組織風土コンサルタントとして、100人100通りに活躍できる組織づくりを支援している。
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(サイボウズ株式会社 元副社長 山田 理)