(※写真はイメージです/PIXTA)

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「孫や子どものために」とよかれと思って続ける資金援助。しかし、援助する側が「お金を出してあげているのだから」と口出しをしてしまうと、受け取る側にとっては重荷となり、家族関係に亀裂を生むケースも少なくありません。本記事では、経済的に余裕のある73歳女性が息子夫婦の結婚式費用などを援助してきた結果、息子の妻から激怒された事例をもとに、対等な家族の距離感を保つための「資金援助の在り方」をCFPの山﨑裕佳子氏が解説します。

貯金5,000万円・家賃収入30万円…経済的に余裕がある70代夫婦の「過干渉」

ユウコさん(仮名・73歳)は現在、夫・タケシさん(仮名・70歳)と郊外の戸建てで二人暮らしです。タケシさんは大手企業を退職後、関連会社に移って今も現役で働いています。預貯金は5,000万円ほどあり、さらに相続した賃貸マンションからの家賃収入も月30万円ほどあるため、生活に十分な余裕があります。

そして、ユウコさんの一人息子であるソウタさん(仮名・44歳)は、妻のミキさん(仮名・40代)と家庭を築いています。ソウタさんとミキさん夫婦はともに正社員で世帯年収は1,200万円ほどあり、親の資金援助がなくても進学準備や慶事のお祝いをしてやることができる経済状況です。

しかし、ユウコさん夫婦は息子家族へ惜しみなく資金援助を続けてきました。ソウタさんが20年前に結婚するときには、「一生に一度の結婚式、盛大にやりなさい」といって費用の500万円を全額負担。マイホームを建てると聞いたときも頭金を援助しました。

孫のハルトさん(仮名・18歳)が生まれてからも、出産祝い、お食い初め、誕生日、七五三、小学校入学と、「お祝い事」を欠かしたことはありません。

ただ、お金を出すと黙っていられないのが「人の常」なのでしょう。「お金を出してあげているんだから」と、結婚式の招待客のことから席順、孫が生まれたあとは慶事に多少口出しをしてしまったという自覚もあります。それでも息子からはいつも感謝されていたため、それも当然のことと捉えていたのです。

それにユウコさんは、息子の妻・ミキさんの実家があまり裕福ではないのではないかと邪推していました。そのため、「あちらのご両親にはご迷惑をかけないように」と先回りしては、ことあるごとに「こちらで出すから安心してね」と、ミキさんにひと言添えていたのです。

「中学生じゃないんだから」…息子の妻がスルーできなかったひと言

そんな背景があるなか、先日、孫のハルトさんが晴れて大学に合格したという嬉しい知らせを受けました。ユウコさん夫婦は当然のように主催者となり、誕生日や記念日によく利用している高級フレンチレストランに息子家族を招待しました。

乾杯をして食事が始まり、少ししたころにユウコさんが切り出します。

「ハルト、よく頑張ったわね。何かプレゼントするわよ。そうだ、大学生になったら車があったほうが便利よ。おばあちゃんたちが車買ってあげようか?」

「え、さすがにそれはいいよ。実は、もう一人のおばあちゃんに通学用に自転車を買ってもらうことになっているんだよ」とソウタさんが断ると、ユウコさんが思いがけないことを口にします。

「あらやだ、自転車だなんて。中学生じゃないんだから」

ユウコさんが口にした言葉を、妻のミキさんは聞き逃しませんでした。それまで黙ってにこやかに話に耳を傾けていましたが、表情をこわばらせながらも意を決したように口を開きました。

「お義母さん、私の実家を見下していますよね?」息子の妻、ついに怒り爆発

「お義母さん、私の実家を馬鹿にするのもいい加減にしてください」

キョトンとした表情のユウコさんを横目に、ミキさんは静かに怒りながら続けます。

「お義母さんは、ずっと私の実家のこと見下していますよね。たしかにうちは平凡な家庭なので、お義母さんのようにお金を出してもらうことはできませんが、ハルトを可愛いと思う気持ちはお義母さんと同じです」

資金援助を盾にしてユウコさんの好きなようにされてしまうこと、その無神経さに本当は苛立っていたミキさん。

これまでミキさんは、夫のソウタさんに相談しても「実際、助かってるんだからいいじゃないか」と取り合ってもらえませんでした。それでも本心ではずっと不快に感じており、長い間ため込んでいた怒りを爆発させたのです。

せっかくのお祝いの席は一転して重苦しい空気に包まれ、食事会は険悪なムードのままお開きとなってしまいました。

「勝手にお金を出すのは控えるわ」息子の妻への謝罪と、見直した“家族の距離感”

「息子や孫の喜ぶ顔がみたくて」と、息子夫婦や孫に対してよかれと思って援助を続けてきたユウコさん。ところが、息子の妻・ミキさんが反発したのは「お金を出してほしくない」という単純なことではなく、「長い間、自分の実家を蔑まれていると感じていた」ことが根幹にありました。

そこで後日、ユウコさんは「見下しているつもりはまったくなかったけど、そう感じさせていたのなら申し訳なかった」とミキさんに謝罪しました。

そして、これからは「必要なときは、相談してね。こちらから勝手にお金を出すのは控えるわね」と伝えました。するとミキさんも、これまで受けてきた援助に対しては素直にお礼を言いました。

食事会での出来事をきっかけに、ユウコさん夫婦は自分たちの老後資金についてしっかり話し合うことにしました。毎月の生活費、年金収入、預貯金、住宅費、そして今後予想される医療、介護費などを整理して「これから先、いくらまでなら安心して使えるか」を数字で把握することにしたのです。

今回の衝突は「お金をめぐる家族の亀裂」で終わらず、老後資金と家族との距離感を見直すきっかけになりました。

「お金=愛情」ではない…「受け取り側の気持ちを尊重する」対等な家族関係

援助を受ける側が「断りにくい」と感じてしまう関係は、家族間の力関係に歪みが生じてしまいます。つまり、対等な関係ではなくなってしまうのです。

ユウコさん夫婦に今後必要なのは、「何でもしてあげる祖父母」から「子どもや孫の選択を尊重する祖父母」への転換なのでしょう。

また、ユウコさん夫婦の生活を支える老後資金は、「一度使ってしまうと取り戻せないお金」でもあります。自分たちの老後を犠牲にしてまで子どもや孫に援助を続ける必要はありません。子どもや孫もそれを望んではいないでしょう。

自分たちの生活をしっかり守りながら、そのうえで無理のない範囲で家族を応援する。それが子どもや孫にとって安心できる援助の在り方ではないでしょうか。

「独りよがりの援助」ではなく「受け取り側の気持ちを尊重する」。それこそが、長く続く家族関係にとって何より大切な財産になるのです。

【CFPの助言】余裕のある経済状態でも油断禁物…老後は“想定外の出費”に備える

ユウコさん夫婦は生活に十分なゆとりがあることで、息子夫婦や孫に対する資金援助が一種のライフワークのようになっていました。

しかし、ユウコさん夫婦はまだ70代に突入したばかりです。この先30年近く人生が続く可能性もあります。一般的に年齢が上がれば、医療費や介護費の支出は増加するでしょう。また、住宅の修繕費や車の買い替えなど断続的にまとまった資金が必要なタイミングも出てくると思います。

もし、有料老人ホームなどへの住み替えなどが必要になれば、ならさらまとまった資金が必要になります。特に今は現役並みの収入がある夫のタケシさんが完全退職し、収入が減ったあとの生活をある程度予測しておくことが大切です。

一度膨らんだ生活レベルを落とすことは簡単ではないため、想定外に早く資産が目減りしていく可能性も否定できません。客観的にみると余裕のある経済状態であっても、当事者からすると減り続ける預金通帳を眺めるのは精神面でやるせなさを感じてしまう人もいます。

子どもや孫への援助は良いことですが、QOL(生活の質)を下げてしまうことのないよう、自分たちのために上手に使うことにシフトしていきましょう。

山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®