(※写真はイメージです/PIXTA)

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日本学生支援機構(JASSO)の「令和6年度学生生活調査」によると、私立大学生の学生生活費は、自宅通学で年間190万5,400円、「アパート等」では268万9,100円に上ります。実家を離れて暮らす負担が大きいなか、親族宅への下宿は有力な選択肢のひとつです。しかし、受け入れる側の負担はお金だけではありません。世帯年収1,300万円の44歳女性は、月5万円で甥を下宿させていましたが、ある出来事と義姉の一言をきっかけに「もう出ていってください」と告げました。

「2年間だけなら」甥の下宿を快諾

東京都内に暮らすユキさん(44歳・仮名)は、夫(46歳)と2人暮らし。ともに会社員で、世帯年収は約1,300万円です。

今年の春、夫からこんな相談を持ちかけられました。

「姉ちゃんのところの息子、うちから大学に通わせてもらえないかって」

夫の姉は埼玉県熊谷市に住んでいます。長男が東京都内の私立大学に合格したものの、実家から大学まで毎日通うとなると、それなりに時間がかかります。

甥が進学した大学では、1・2年次と3・4年次で通うキャンパスが変わります。そのため義姉から頼まれたのは、「大学2年生が終わるまでの2年間だけ」。3年生になったら、新しいキャンパスに通いやすい場所で一人暮らしをさせる予定だという話でした。

「熊谷から通えないわけではないけれど、大学生ならサークルやアルバイトもしたいだろうし、毎日の往復時間がもったいないというのもわかりました。2年間限定ならいいかなと思ったんです」

夫婦には空いている部屋もありました。

食費や光熱費などを含め、義姉から月5万円を受け取ることにして、19歳の甥との3人暮らしが始まりました。

実家を離れて大学に通うとなれば、当然ながら家計の負担も増えます。

日本学生支援機構(JASSO)の「令和6年度学生生活調査」によると、大学学部昼間部の学生生活費は、自宅通学の場合は年間180万1,300円、「アパート等」では234万2,900円。自宅通学と比べて年間約54万円高くなっています。なお、この学生生活費には授業料などの学費も含まれています。さらに私立大学に限ると、自宅通学は年間190万5,400円、「アパート等」は268万9,100円でした。

月5万円で都内に住み、食事や光熱費まで含まれるのであれば、義姉一家にとってはかなり助かる条件だったといえるでしょう。

ユキさん自身も、最初はそれほど負担に感じていませんでした。

「夕食を3人分作ったり、『大学どうだった?』と話を聞いたり。夫と2人の生活が長かったので、新鮮ではありました」

ところが、甥が大学生活に慣れてくるにつれ、少しずつ気になることが増えていきました。

「鍵だけは絶対に忘れないで」

甥を迎える際、夫婦はいくつか生活上のルールを決めました。

そのひとつが、午前0時を一応の門限とすることでした。

ただし、大学生です。

友人との飲み会やサークル活動などもあるだろうと考え、ユキさんたちも厳密に0時を守らせるつもりはありませんでした。

「遅くなるなら連絡して、自分で静かに帰ってきてくれればいいと思っていました。私も夫も学生時代はそんな感じだったので。だから当然、本人にも家の鍵を渡していました」

ところがある朝、玄関に行ったユキさんは異変に気づきます。

鍵がかかっていなかったのです。

前夜遅く帰宅した甥が、玄関の施錠を忘れていました。

「これは本当に怖かったです。私たち夫婦だけならまだしも、誰かが入ってきたらどうするの、と」

ユキさんは甥を厳しく注意しました。

「ここはあなた一人の家じゃないんだから。鍵だけは絶対に忘れないで」

甥も「ごめんなさい。もう気をつけます」と謝ったため、そのときはそれ以上追及しませんでした。

大学1年生です。失敗くらいするだろう。

ユキさんも、そう考えることにしました。

ところが夏休みを目前にしたある夜、再び鍵をめぐる出来事が起こります。

深夜1時、玄関を叩く大きな音

眠っていたユキさんは突然、大きな音で目を覚ましました。

ドンドンドンドン--。

玄関のほうから聞こえてきます。時計を見ると、午前1時を過ぎていました。

「最初は何の音かわからなくて、かなり怖かったです。夫も起きてきて、2人で玄関まで行きました」

外にいたのは甥でした。

その日、家の鍵を持たずに出かけてしまったというのです。

「ごめん、鍵忘れちゃった」

甥は謝りました。

しかしユキさんには、簡単に「仕方ないね」とは思えませんでした。

夫婦とも翌日は仕事です。突然起こされたユキさんはなかなか寝付けず、その日は寝不足のまま出勤することになりました。

「一度だったらまだ我慢できたかもしれません。でも、その前にも鍵をかけ忘れて厳しく注意しています。大学生の生活に、どうして私たちまでここまで振り回されなくちゃいけないんだろう、と思ってしまいました」

その日の夜、ユキさんは夫に言いました。

「もう無理。夏休み中に部屋を探してもらおう」

もともとの約束では、大学2年生が終わるまであと1年半ほど下宿する予定でした。しかしユキさんは、そこまで待つつもりはありませんでした。

「今回は大目に見てあげようよ」夫の言葉にカチン

夫から義姉に事情を説明してもらいました。

ところが義姉は、あまり納得していない様子だったといいます。

甥はまだ19歳。本人も反省しているし、これから気をつければいいのではないか--。

そんな反応だったそうです。

さらに夫まで、

「反省しているみたいだし、今回は大目に見てあげようよ」

と言い出しました。

それを聞いたユキさんは、さらに腹を立てました。

「“大目に見る”って誰が? 夜中に起こされたのはこっちだし、毎日ご飯を用意しているのも私でしょう」

甥が嫌いなわけではありません。

しかし一緒に暮らし始めてから、ユキさんの生活が変わったのも事実です。

帰宅時間を気にし、食事を用意し、家の中でも多少は生活音に気を遣う。

「月5万円もらっているから、仕事として預かっているわけではありません。親戚だから助けようと思っただけです。それなのに、『少しくらい我慢してあげて』みたいな話になることに違和感がありました。そもそも5万円でこの生活できるってかなりの破格ですよね」

そして夫との話し合いのなかで、ユキさんの怒りを決定的にする言葉が出てきました。

夫が何気なくこう口にしたのです。

「姉ちゃん、最初に『2人には子どももいないんだから、子どもがいる生活を少しでも味わってもらえれば』って言ってたんだよね」

ユキさんは、一瞬言葉を失いました。

「子どもがいる生活を味わってもらえれば」

ユキさん夫婦は、最初から子どもを持たない人生を選んだわけではありません。

結婚後、子どもを望み、不妊治療を続けた時期がありました。

それでも、子どもを授かることはありませんでした。

義姉も、2人が不妊治療をしていたこと自体は知っています。

「だから余計に信じられませんでした。私たちは子どもがいないから何か足りない生活をしていて、甥を住ませてあげることで、“子どものいる家庭”を経験させてあげている、みたいに聞こえたんです」

しかも義姉には、知らないことがありました。

不妊の原因です。治療の過程で、夫側に原因があることがわかっていました。

もちろんユキさんは、それを夫の責任だと考えたことはありません。

夫婦2人の問題として治療を受け、その結果も一緒に受け止めてきました。

一方で、非常にプライベートな話でもあります。夫婦は、不妊治療をしていることは親族に伝えても、原因についてまでは明かしていませんでした。

義姉の発言に腹を立てるユキさんに、夫は、

「でも姉ちゃんも悪気があったわけじゃないと思うよ」

と言いました。

その一言で、ユキさんの我慢は完全に切れました。

その場で義姉に電話し「ご存じないようなので言いますけれど、子どもを授からなかったのはあなたのかわいい弟が原因ですよ」

夫は面食らったような顔をしていました。

「夫を責めるつもりで言ったわけじゃありません。そこは夫もわかっています。ただ、“子どもがいない夫婦”という表面だけを見て、勝手に私たちの人生に意味をつけないでほしかった」

義姉は、さすがにその場では何も言わなかたそうです。

「この際、縁が切れても仕方がない」

結局、夫婦の決定は変わりませんでした。

甥には夏休みのあいだに部屋を探してもらい、一人暮らしを始めてもらうことになりました。

当初の「2年間」という約束を、1年半ほど前倒しする形です。

「甥自身に悪意があるわけではないんです。19歳なんだから失敗することもある。それもわかっています」

それでもユキさんは、今回の出来事で気づいたといいます。

「私たちは夫婦2人の生活を長く続けてきました。誰かが1人増えるだけで、こんなに暮らしが変わるんだと思いました。私も少々言い過ぎなことがあったかもしれないです。危うく夫婦関係まで壊れるところでした」

そして何より、義姉から自分たちの生活を「子どものいない生活」とひと括りにされたことへの違和感は消えていません。

「義姉との関係がこれで悪くなるなら、仕方ないと思っています。この際、縁が切れてもいいかなと」

親族への「月5万円の下宿」で負担するのは、お金だけではない

JASSOの調査では、大学学部昼間部の私立大学生の場合、「アパート等」で暮らす学生の学生生活費は、自宅通学より年間約78万円高くなっています。

そう考えれば、月5万円で親族宅に住めることは、学生本人やその親にとって経済的なメリットがあります。

一方で、受け入れる側が負担するものは、部屋や光熱費、食費だけではありません。食事を用意する手間、生活時間の違い、防犯への配慮、帰宅を気にする心理的な負担。「家の中に自分たち以外の誰かがいる」ということ自体が、それまでの暮らしを大きく変える場合があります。

親族だからこそ、「多少のことはお互いさま」「家族なのだから我慢して当然」と曖昧になりがちです。

しかし長期間の同居をするのであれば、下宿代だけでなく、食事や家事をどこまで担うのか、門限、鍵の管理、生活上のルールを守れなかった場合はどうするのか。そして、途中で同居を解消する場合の条件まで、事前に話し合っておく必要があるでしょう。

また、子どもがいない夫婦だから、時間や部屋に「余裕」があるとは限りません。

まして、子どもがいない理由や、それを本人たちがどう受け止めてきたかは、外からはわからないものです。

「子どもがいる生活を経験できてよかったでしょう」という善意も、相手からすれば「あなたたちの人生には何かが欠けている」と決めつけられたように感じることがあります。

親族だから助け合うことと、親族だから相手の人生に踏み込んでいいことは、別なのです