老後資金の心配はありません。でも…〈貯金2,800万円・年金月15万円〉おひとりさま女性(66)が「1ヵ月の住み込みバイト」に挑戦した理由
老後の資金に不安がなくても、「孤独」や「社会からの孤立」に悩む高齢者は少なくありません。内閣府の『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査』によれば、一人暮らしの高齢者は、同居人がいる人に比べて孤独を感じる割合が約3倍にのぼるといいます。貯金2,800万円・年金月15万円と経済的には安定しながらも、「夏の住み込みバイト」に挑戦したおひとりさま66歳女性をもとに、高齢期の就労がもたらす「お金以外の価値」を解説します。
「お金の心配はないはずなのに…」夫を見送った66歳女性を襲った“静かな恐怖”
「老後資金の心配はありません。でも、このままでいいのかと焦っていました」
数年前に夫を見送ってから、地方都市の分譲マンションで一人暮らしをしているキミエさん(仮名・66歳)。夫が遺してくれた預貯金は約2,800万円あり、自身の年金と遺族年金を合わせれば毎月約15万円の収入があります。
しかし、日々の生活はあまりにも静かでした。近所への買い物や軽い散歩くらいしか用事がなく、気づけば誰とも会話をせずに1日が終わってしまうことも増えていきました。
お金に困っているわけではないものの、このまま社会から少しずつフェードアウトして歳を重ねていくことに、キミエさんは恐怖を感じていたといいます。
内閣府が実施した最新の『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年実施)』によると、孤独感を抱えるきっかけとなった出来事として「家族との死別」を挙げる人が最も多く24.6%、次いで「一人暮らし」が18.8%にのぼっています。
また、同調査では、一人暮らしの人のうち孤独感を「しばしばある・常にある」と答えた孤独を抱える人の割合は9.8%と、同居人がいる人(3.4%)の約3倍に達している実態があります。
娘の勧めでリゾートバイトへ…66歳女性を待ち受けていた「過酷な現実」
そんなある日、離れて暮らす娘のミサノさん(仮名・44歳)から「ずっと家にいるより、夏の間だけでもバイトでもしてみたら?」と勧められました。聞けば、今はシニア世代を歓迎する短期のリゾートバイトも珍しくないそうです。
初めは自分にできるか不安でしたが、今の単調な生活を変えるきっかけになればと思い、キミエさんは思い切って応募を決めました。
行き先は、自宅から電車で数時間かかる海沿いのホテルです。夏の繁忙期に合わせた約1ヵ月間、客室の清掃やレストランの裏方として住み込みで働くことになりました。
過酷な労働の末に手にした、「18万円の給料」と「特別な収穫」
「最初の3日間は、とんでもないところに来てしまったと後悔ばかりしていました」
いざ働き始めると、現実は甘くありませんでした。清掃作業は立ったりしゃがんだりの連続で、シーツを素早く交換したり重いリネン類を運んだりと、慣れない重労働に体はすぐに悲鳴を上げました。仕事が終わると、着替える気力すらなくベッドに倒れ込むような毎日だったといいます。
それでもキミエさんが途中で投げ出さなかったのは、職場でのささやかな交流があったからでした。
朝の挨拶から始まり、若いアルバイトの学生に業務用の端末の操作を教わったり、同世代のパート仲間と休憩時間に冷たいお茶を飲みながら世間話をしたり。そうした他愛もないコミュニケーションの積み重ねや、自分がスタッフの一員として頼りにされているという実感が、キミエさんの心に少しずつ活力を与えていきました。
1ヵ月のリゾートバイトが終わり、キミエさんが手にした給与は約18万円でした。老後資金と比べればわずかな額ですが、久しぶりに自らの手で稼いだそのお金は、彼女にとって特別な意味を持っていました。
なお、給与18万円と年金を合わせても「在職老齢年金制度」の基準額である月額65万円(令和8年度)には満たないため、年金の支給停止はありません。
身体の疲れはしばらく抜けませんでしたが、夏の1ヵ月を通じて社会と再びつながり、日常のハリを取り戻せたことは、キミエさんにとって何よりの収穫となったのでした。
内閣府の『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』によると、日常生活のなかで「生きがい(喜びや楽しみ)を感じている」と答えた高齢者の割合は、何らかの仕事(就労・就業)をしている人では80.1%に達するのに対し、特に活動をしていない人では62.7%に留まっています。
キミエさんが住み込みバイトで得た日常のハリや他者との交流は、まさにこの「生きがい」そのものとなったでしょう。高齢期の労働は、単に生活費を稼ぐための手段にとどまらず、孤独を癒やし、自分らしさを保ち続けるための一歩になり得るのです。

