「心膜炎」の“前兆”を見抜くには?心機能低下を知らせる『3つのサイン』
急性心膜炎では、「息を吸うと刺すように痛む」「前傾姿勢になると楽になる」といった特徴的な胸の痛みが現れます。発熱や倦怠感を伴うため、風邪と見分けにくいケースも少なくありません。心嚢水が増えると息切れや動悸、むくみといった症状も加わります。日常の中でどのようなサインに注目すべきか、具体的に解説します。
監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。
急性心膜炎の症状--初期サインを見逃さないために
このセクションでは、急性心膜炎の初期に現れやすい症状と、日常生活の中でどのようなサインに注意すべきかを具体的に説明します。
胸の痛みと発熱--もっとも特徴的な初期症状
急性心膜炎の初期症状として、患者さんの9割以上が経験すると言われているのが「鋭い胸の痛み(胸部刺痛)」と「発熱」です。
心外膜炎による胸の痛みには、他の心臓病にはない特徴があります。
・刺すような鋭い痛み: ナイフで刺されたような、あるいは胸が引きちぎられるような鋭い痛みが胸の中央や左側に現れます。痛みが肩や首、背中にまで広がる(放散痛)こともあります。
・姿勢によって痛みが変わる(体位性変化): 「仰向け(背もたれに倒れる体勢)になると痛みが激しくなり、上半身を前に折り曲げる体勢(前傾姿勢)をとると痛みが楽になる」という非常に特徴的な性質があります。これは、前傾姿勢をとることで心臓が前方に移動し、炎症を起こしている心外膜同士の擦れ合いが和らぐためです。
・息を吸うと痛む: 深呼吸をしたり、咳やクシャミをしたり、唾を呑み込んだりすると、胸の痛みが一気に増悪します。
発熱は37.5度~38度台前半の微熱から中等度の熱が出ることが多く、全身の倦怠感(だるさ)、関節痛、筋肉痛などの風邪に似た症状を伴います。そのため、「インフルエンザかな」「疲れて胸の筋肉が痛むだけだろう」と勘違いして受診が遅れてしまうケースが多発しています。「風邪っぽい症状に加えて、息を吸うと胸が刺すように痛む」「横になると胸の痛みが強くなる」という場合は、真っ先に心外膜炎を疑う必要があります。
また、医師が診察時に胸に聴診器を当てると、心臓の拍動(ドクンドクンという音)に合わせて、革製品同士をこすり合わせたときのようなキシキシ・ザラザラとした「心膜摩擦音(しんまくまさつおん)」が聴こえることがあります。これは荒れた心外膜同士が擦れて生じる音であり、心外膜炎が存在する動かぬ証拠(決定的な身体所見)となります。
息切れ・動悸・むくみ--心機能低下のサインに注意
炎症が進んで心嚢水(水)が心臓の周りにたくさん溜まってくると、胸の痛みよりも「息苦しさ」や「心臓の重圧感」が前面に出てくるようになります。
・息切れ(呼吸困難): 心臓が膨らむことが出来なくなるため、全身や筋肉に必要な酸素を含んだ血液を十分に送り出せなくなります。階段を数段登っただけで息が上がるようになり、進行するとじっとしていても息苦しさを感じます。
・動悸(どうき)・脈の乱れ: 一度に送り出せる血液の量が減るため、心臓は回数を増やしてカバーしようとします。そのため、特別な運動をしていないのに脈拍が1分間に100回以上に跳ね上がったり、胸がバクバクと大きく波打つような動悸を感じたりします。
・むくみ(浮腫)や腹水: 全身から心臓へと戻ってくる血液が渋滞を起こすため(静脈のうっ血)、静脈のプレッシャーが高まり、足の甲や脛(すね)がパンパンにむくみます。指で押すと深い凹みが残るのが特徴です。さらに重症化すると、お腹に水が溜まる「腹水」や、右腹部(肝臓)の張り感・痛みが現れることもあります。
【重要】「心筋梗塞」や「心筋炎」との違い
胸の痛みを起こす代表的な心臓病に「心筋梗塞(しんきんこうそく)」があります。心筋梗塞は心臓の血管(冠動脈)が詰まる病気で、「胸が締め付けられる・重いものが乗っているような圧迫感」が15分以上続き、姿勢を変えても痛みは変わりません。一方、心外膜炎は「刺すような痛み」で、「前傾姿勢で和らぐ」という決定的な違いがあります。
また、心臓の筋肉自体にウイルスが感染する「心筋炎(しんきんえん)」は、心外膜炎と同時に起きることも多く(心筋心外膜炎)、重症の心不全や危険な不整脈を引き起こしやすいため、より厳重な管理が必要となります。
まとめ
急性心膜炎は、適切な診断と十分な期間の薬物治療、そしてしっかりとした安静管理を行うことで、十分に完治を目指せる疾患です。しかし、初期症状が風邪や筋肉痛に似ているため「若いから大丈夫」「仕事が忙しいから」と放置されやすく、発見が遅れると心タンポナーデや慢性的な再発といった重篤なリスクを引き起こします。
「息を吸うと胸が刺すように痛む」「体を起こして前傾姿勢になると痛みが和らぐ」「風邪のあとに激しい胸の痛みや息切れが出た」といったサインに心当たりがある方は、すぐに循環器内科を受診してください。また、治療費の面でも高額療養費制度や傷病手当金といった公的な経済支援制度がしっかりと整っています。体を第一に考え、無理のない環境で治療に専念することが、あなたの健康な心臓と日常生活を守るための最も確実な一歩となります。
参考文献
厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
国立循環器病研究センター「急性心膜炎・心タンポナーデ」

