『VIVANT』©TBS

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 TBSラジオ『VIVANT 悪役会議室』が、ドラマの連動企画としては異例の数字を出している。8月23日に配信された第5回は、YouTubeの最大同時接続数が12万人に達し、全ライブ配信の同時接続数ランキングで全国2位を記録した。前週の第4回も9万4000人で全国3位、Xでは「#悪役会議室」がリアルタイムトレンド4位に入り、第5回放送終了時点で関連ポストは3万2000件を超えた(※1)。第6回のアーカイブは配信開始から6日で202万回再生を突破している(9月5日時点)。ドラマ本編ではなく、その感想を言い合う30分のラジオ番組の数字だ。

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 設計そのものはシンプルだ。日曜劇場『VIVANT』(TBS系)第2シーズンの放送直後、日曜23時に地上波の生放送とYouTubeの生配信が始まり、Podcastでもアーカイブが配信される。パーソナリティは第1シーズンで乃木憂助に敗れ去った3人。元「テント」のモニター・山本巧(迫田孝也)、元バルカ外相のワニズ(河内大和)、元ベレール興産代表のゴビ(馬場徹)である。黄泉の国と監獄からラジオブースに集結し、自分たちを葬った乃木たちのその後を監視して次の復讐を企てる、という立て付けになっている。

 この企画がなぜ効いたのかは、本編の数字を並べると見えてくる。第2シーズン初回にあたる第11話の平均世帯視聴率は18.8%で、NHKを含む2026年放送のドラマで最高のスタートとなった。以降も16.4%、15.1%、16.6%、15.2%、15.0%と6話連続で15%を超え(ビデオリサーチ調べ)、Xの世界トレンドでも第16話まで6週連続の1位を取った。一方、TVerでは第11話が配信開始から8日間で887万回に達し、単一エピソードの再生数として歴代最高を更新した(※2)。それまでの記録は2022年の『silent』(フジテレビ系)第4話の582万回だから、更新幅も大きい。配信でこれだけ再生されるということは、放送の時間に観ていない層がそれだけ厚いということでもある。しかも本編は情報量が多く、伏線を追いきれないという「考察疲れ」を指摘する声も出ていた。第6回のタイトルが「劉銘軒!? エリシャ!? 核融合!? 怒涛の情報過多を悪役会議室が徹底整理!」であることは、その需要への回答そのものである。

 まず注目したいのは、語り手が敗者でなければこの企画は成立しないという点だ。乃木憂助や野崎守がラジオで今週の展開を語ることはできない。本編の緊張が壊れるからだ。すでに退場した敗者だけが、物語の外に立ちながら物語の住人でいられる。粛清されたという設定が、メタな視聴者の位置につく口実として働いている。脇役の起用はコストの都合に見えるが、順序は逆だ。この設計は脇役の、それも負けて退場した脇役のものでなければ機能しない。

 3人の配置も的確である。番組の紹介文では、山本は乃木に壊された男で敗者の痛みを知るリーダー、ワニズは私利私欲のためなら国をも売る政治家として国家間の権力構造や裏の思惑をえぐる役、ゴビは資本家の視点で騙し合いのカラクリを暴く役と説明されている。敗者の情、国家権力、資本の論理。作品を読むための3つの軸を、公式が最初から配ってしまった。批評の役割まで作品の側が引き受けたと言ってもいい。

 もうひとつの発明は、3人が視聴者と同じ話数までしか観ていないと公式が明言している点にある。番組の告知にも、完全非公式な憶測だという断りが入る。考察を燃料にする作品にとって、制作側が答えを握ったまま語ることは致命傷になる。ここでは公式が答えを手放し、視聴者と同じ地平に降りた。ネタバレできないという制約を、そのまま企画の強度に変えている。

 その結果、番組そのものが考察の対象になった。8月9日の第3回では、終盤にゴビのもとへ「次回、客人有リ 重要人物也」と書かれた紙が届き、3人はゲストの予想で盛り上がる。ネット上でも本編の考察と並んで、翌週のゲストは誰かという議論が起きた。実際に第4回には、本編を退場したばかりの新庄(竜星涼)が頭に天使の輪をつけて登場し、同時接続数は第3回の約1.5倍に跳ね上がる。第5回には、バルカで消息を絶っていた丸菱商事の上司・宇佐美哲也(市川猿弥)が、捕らえられた姿で現れる。本編から姿を消したばかりの人物が、その週のうちにラジオで軽口を叩く。視聴者が喪失や不安を抱えている時間まで、番組が燃料に変えてしまう。

 ドラマの連動企画に先例がないわけではない。2019年の『あなたの番です』(日本テレビ系)は、本編各話の放送後にHuluでスピンオフ『扉の向こう』を配信し、住民たちの裏の顔を小出しにして考察熱を煽った。並走型としては画期的だったが、新撮である以上、撮影費も俳優のスケジュールもかかる。『あさイチ』(NHK総合)の朝ドラ受けも放送直後に感想を口にする装置だが、受け手は作品の外にいる第三者だ。海外では、AMCが『ウォーキング・デッド』の放送当夜に『トーキング・デッド』を並走させ、2011年から2022年まで続けた。本編に寄り添うアフターショーはすでに確立した形式であり、アニメの公式生放送や声優ラジオも長く同じ機能を担ってきた。悪役会議室が新しいのは日本のドラマ界においてであって、コンテンツ産業全体で見ればようやく追いついたと言うべきだろう。

 それでも価値は落ちない。産業の現状を考えればむしろ上がる。制作費が膨らみ、配信の投資回収に追われる現場で、この企画に必要なのはラジオブースと椅子と3人の俳優だけだ。新規の撮影もロケもセットも要らない。それで同時接続12万人に届く。編成にもスポンサーにも説明できる材料が出るうえ、本編を観た人しか楽しめない構造だから、本編とTVerの再生にも人が返っていく。ラジオ局の側にも事情がある。電通の推計で2025年のラジオ広告費は1153億円(※3)。テレビメディアの1兆7556億円には遠く及ばず、各局はradikoやPodcast、YouTubeへの展開に活路を探ってきた。テレビドラマの熱をラジオが受け取り、映像の生配信で結果を出す。一方通行に見えて、双方の弱みを補い合う関係である。ただし、テレビとラジオと配信を同じグループが抱えているから一気通貫で組めたという条件は無視できない。どこにでもできる企画ではない。

 この番組はリアルタイム視聴も作り直している。TVerの追いかけ再生が当たり前になり、誰もが好きな時間に好きな順番で観るようになった。その結果、翌日の職場や学校で昨日の放送の話をする機会は消えた。感想はSNSに散らばり、ネタバレを避けて回る作業だけが残った。悪役会議室は、生配信のチャットとメール投稿によって、その場にいなければ加われない時間をあえて作っている。日曜21時に本編を観て、23時に集まる。かつてテレビが持っていた時間割を、配信の時代に組み直したのだ。しかもここは荒れない。公式が場を持ち、悪役という愛嬌のある人格が受け止めるからだ。『VIVANT』は設定の粗さや装置のチープさを指摘されやすい作品でもある。その指摘を悪役たち自身が代行すると、同じ内容がファンの言葉に変わる。批判の行き場まで公式が用意し、敵対を内輪の笑いに変えた。

 悪役会議室は俳優の側にも作用している。迫田孝也、河内大和、馬場徹は、いずれも舞台と映像で長く実績を積んできた実力派である。それでも連続ドラマの構造では、脇役は退場した時点で仕事が終わり、作品の余熱は主演のもとに集まる。番組は、退場した3人に毎週の出番と主演級の注目を与えている。8月23日に国立代々木競技場第一体育館で開かれた『VIVANT』のイベント(『日曜劇場『VIVANT』PREMIUM SUMMER PARTY』)では、悪役たちがオープニングを任され、来場者を驚かせた。本編で敗れた側が、本編のイベントの入り口に立つ。付随物ではなく作品の一部として扱われている証拠だろう。

 危うさもある。「徹底整理」が必要になるのは、本編の情報量が視聴者の処理能力を超えているからでもある。外部の企画が本編の説明不足を補ってしまえば、本編は単体で立たなくなる。連動企画が親切であるほど作品の自立が怪しくなるという逆説だ。加えて、リアルタイムを前提にすることは、参加できる人を選ぶことでもある。日曜の23時に30分を空けられるのは、翌朝の勤務や家事育児から距離を置ける人だ。生放送の熱が濃くなるほど、後から追う人は蚊帳の外に置かれる。その楽しさを取り戻す仕掛けは、かつてのテレビ体験が誰を置き去りにしていたかも一緒に連れてくる。

 本編から消えた脇役に仕事をつくり、散り散りになった視聴者の感想に居場所を与え、本編に人を返す。この3つを低予算で同時にやってのけた連動企画は、これまでになかった。ただし、この形式が効くのは考察型の作品に限られるだろう。恋愛ドラマやホームドラマの直後に敗者が集まって騒いでも、おそらく回らない。条件つきではあるが、『VIVANT 悪役会議室』は、これからのドラマが参照すべき最初の型になった。

参照※1. https://www.tbsradio.jp/articles/111648/※2. https://tver.co.jp/news/20260803.html?utm_source=chatgpt.com※3. https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/2025/media2.html?utm_source=chatgpt.com(文=田幸和歌子)