《3人に2人が睡眠障害》原因は?受診の目安は? 女性医学の専門家が解説《ホルモンを使った最新治療も》
更年期以降の女性に増加するのが「睡眠障害」だ。布団に入っても寝付けないだけでなく、夜中や早朝に目が覚めてしまう「中途覚醒」も非常に多いという。
専門医が解説する不眠の原因、受診の目安、最新の治療法とは?
「布団に入ってもなかなか寝付けない」
「夜中や早朝に目が覚めてしまう」
更年期に入り、こうした不眠に悩むようになる女性は多い。
「更年期外来を担当すると、患者さんから睡眠に関する訴えが出ない日はありません。以前の勤務先(東京歯科大学市川総合病院・当時)での初診時アンケートでは、更年期外来を受診した女性の65.7%、実に3人に2人が何らかの睡眠障害を訴えました。そのうち、寝付けない『入眠障害』が60%、夜中に目が覚める『中途覚醒』は72.9%の訴えでした。海外の報告でも、中途覚醒の訴えが最も多く、更年期以降から増加することが知られています。睡眠障害=睡眠薬と思われがちですが、更年期に合った対処法があります」
こう語るのは、福島県立医科大学ふくしま子ども・女性医療支援センターの小川真里子教授だ。専門は女性医学で、更年期外来を通して多くの女性の悩みに向き合ってきた。
更年期世代の睡眠トラブルは主に不眠で、生活への影響は軽視できない。
「ある49歳の女性の例が典型的です。布団に入ると考え事が浮かんできて眠れない。やっと眠れても2~3時間経った午前3時頃に目が覚めてしまうと言います。5時頃に目が覚めてからは、そのまま朝まで浅い眠りのまま。疲れが取れていないので、日中は疲労感や集中力低下に苦しめられます。このような訴えは多く、仕事中もミスが増えたり、会議中にウトウトしてしまったりします」
なぜ、更年期に眠りの質が落ちるのか。
「そもそも、加齢とともに眠りは浅く、短くなっていきます。血圧・体温・ホルモン分泌などの生体機能リズムが前倒しになり、早寝早起きの傾向が強まります。これに追い打ちをかけるのが、女性特有の要因です」
とくに大きいのは女性ホルモンの変動だ。
「女性ホルモンのうち、『プロゲステロン(黄体ホルモン)』は排卵後に分泌されるホルモンです。プロゲステロンには抗不安作用や鎮静効果があり、いわば“天然の睡眠薬”のような役割を果たしています。月経前に眠くなる人が多いのは、このプロゲステロンの影響です。更年期で排卵が不安定になり、このホルモンが減少すると、眠りづらくなるのです」
加えて、エストロゲンの減少に伴って生じる更年期症状も睡眠を妨げる要因になり得るという。
「代表的なのはホットフラッシュ(のぼせ・発汗)で、夜中に目が覚めてしまう人が多いです。発汗がひどく着替えているうちに目が覚めてしまったというケースもあります。更年期は気分が落ち込む抑うつ症状も出やすく、不眠につながりやすいです。私が以前携わった調査では、不眠を感じている女性は、ほてりの有症率も高く、不安や抑うつを示すスコアも高い傾向にありました」
さらに、この世代特有の社会的ストレスも無視できない。
「更年期世代の女性は子育て、夫の世話、介護、仕事など複数の役割を担い、つねにストレスにさらされている人が多く、そうした環境要因も睡眠に影響します。例えば、夜遅くに帰宅する家族を待って自身の就寝が遅れたり、介護でトイレへの付き添いが必要で緊張状態が続いたりと、睡眠リズムや自律神経を乱す環境に置かれがちです」

テレワークで歩く機会も減ってしまう
これら複数の要因が絡み合って、更年期の睡眠障害を引き起こすのだ。
受診の目安は?
睡眠の悩みが生じた場合、受診の目安は「翌日の活動への影響が起きているか」だという。
「睡眠が以前と比べて変化しても、翌日普通に生活ができていれば治療する必要はありません。日中の眠気や疲労感、集中力の低下などが出ている場合は、受診を検討してください」
受診先を選ぶ基準は、他の症状を併発しているかどうかだ。
「睡眠障害のみが気になる場合は、睡眠専門の外来・クリニックや心療内科、かかりつけの内科に相談してみましょう。とくに、激しいいびきや呼吸停止を伴い、日中に猛烈な眠気があるなら『睡眠時無呼吸症候群』、寝ようとすると足がムズムズするなら『むずむず脚症候群』という別の疾患が疑われるので、睡眠専門の医療機関の判断を仰ぐとよいでしょう」
ホルモン補充療法も
更年期特有の変化に伴う睡眠の問題であれば、産婦人科が第一選択になる。
「この場合、睡眠障害だけでなく、疲労感やホットフラッシュ、気持ちの落ち込みやイライラ、関節痛など、他の更年期症状も一緒に訴える人がほとんどです。更年期症状に対する治療をすることで睡眠障害も大きく改善することが多いです。産婦人科の中でも、更年期外来を掲げていたり、日本女性医学学会のホームページに掲載されている専門医がいたりする医療機関は、更年期女性のケアに理解が深いので、なおおすすめです。まずは更年期外来を窓口にし、器質的な疾患が疑われる場合に専門医を紹介してもらうという流れでもよいでしょう」
「自分が更年期外来の対象か分からない」という悩みはありがちだが……。
「よく聞く悩みですね。日本での更年期の定義は閉経前後の10年間ですが、閉経したかどうかは事後にしか分かりません。閉経前5年間という定義に捉われ、受診しても『まだ更年期じゃないよ』と返されてしまう人もいると聞きます。判断基準は月経の乱れ。月経周期が7日以上変動するようになり、更年期かなと思う症状があったら、自信を持って更年期外来にかかっていただいて構いません」
では、具体的にどんな治療法があるのか。
有力な選択肢になるのがHRT(ホルモン補充療法)だ。
「更年期症状も伴う睡眠障害の場合、減少している女性ホルモンを補うHRTは非常に有効な治療法です。黄体ホルモンが抗不安や鎮静効果を持つことは前述しましたが、中でも、睡眠の質改善に有効なのが『天然型プロゲステロン』です。体内で分泌されるホルモンと同じ化学構造で、我々を含む複数の研究で睡眠の質の改善が確認されています。保険適用の内服薬で、患者さんからの満足度も高く、『熟睡できるようになった』という声が聞かれます」
比較的即効性もある。
「子宮がある女性のHRTでは黄体ホルモンとエストロゲンを必ず併用します。エストロゲンは内服薬、貼り薬や塗り薬などの経皮吸収型と複数の形態があり、医師と相談のうえ選べばよいです。多くの患者さんが、HRT開始から2週間以内に睡眠の質や更年期症状の改善を実感されています。更年期に入ってから、遅くても閉経後10年以内には始められるとよいですね」
《この続きでは、不眠に聞く漢方薬や依存性の低い睡眠薬、さらに睡眠の質を上げるために簡単にできる「眠りの心得4カ条」を小川教授が解説。記事の全文は、現在配信中の「週刊文春 電子版」および9月3日(木)発売の「週刊文春」で読むことができる》
(おがわまりこ/1995年福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学病院での研修を経て、医学博士取得。2007年から東京歯科大学市川総合病院(当時)産婦人科勤務、15年准教授。24年福島県立医科大学特任教授。25年11月から現職。)
(小川 真里子,「週刊文春」編集部/週刊文春 2026年9月10日号)
