日本の若者、約140万人がSNSを「病的使用」…それでも”企業に甘い”日本人の国民性

写真拡大 (全3枚)

メタが今後10年で最大約2.8兆円の和解金を支払い、18歳未満のフェイスブックとインスタグラムの利用を「1日2時間」に制限すると発表した。オーストラリアやフランスなど、未成年のSNS利用そのものを禁じる国も相次ぐ。世界が「使わせる側」の責任を問い始めるなか、日本はいまどうなっているのか。『マネーの代理人たち』の著者で、経済ジャーナリストの小出・フィッシャー・美奈氏が読み解く。

*前編記事を読む→メタがほぼ3兆円で和解、18歳未満は「1日2時間」へ…子どものSNS依存が"企業の責任"とされた決め手

SNS規制に透けて見える日本特有の「企業性善説」

未成年者のネット使用については、「青少年インターネット環境整備法」があるが、事業者に求められる有害情報の規制なども、今のところは「努力義務」のみだ。こども家庭庁が今年中に具体案をまとめ、来年にも法制度を改正する動きにはなっているが、他国と比べると、包括的な規制には慎重だ。

「日本の対応が遅れている」と言ってしまえばそれまでだが、規制についての考え方や文化的な違いもある。

例えば米国のポピュリズムには伝統的に、巨大企業が弱者である一般市民を支配している、という「大企業性悪説」がある。1900年に原作が書かれた「オズの魔法使い」は、19世紀末に西部や南部で起きた農民や労働者の「ポピュリスト運動」を風刺した寓話だという解釈があるが、それに基づくと、「東の悪い魔女」は、正直者の西部農民を苦しめるニューヨークなど東部銀行家や大資本家の象徴だとされる。

今の巨大テック企業の規制論議にも、こうした「性悪な大企業」と「真面目に生きている弱い大衆」の対立というロジックが垣間見える。カリフォルニア州の訴訟でメタの賠償金が膨らんだのは、「意図的かつ予見可能」な依存リスクを会社側が知っていたのに、それを隠蔽して警告を怠った「不正」だと認定されたため、懲罰的な賠償金支払いが上乗せされたのだ。

ニューメキシコ州の裁判でも、安全情報についてユーザーを「騙した」不正行為に対する罰金がメタに科せられた。

これに比べれば、一般的に日本では「企業性善説」と言おうか、企業を対立する権力と見るよりも、社会的責任を自覚して行動する主体だという期待が前提にあるようだ。SNSも「使わせる側」についての議論より、「使う側」の使い方が議論の中心になってきた。適切に利用すれば、孤立しがちな子供が居場所を見つけるメリットもあるよね、などといった議論がそれだ。

ただ、では子供の「適切なSNS利用」に誰が責任を持つのかについては、いじめや有害情報などの問題が出たら事業者にも適切な対応を求めるとしながらも、基本的には学校や親が子供に使い方のルールを教えることを期待しているので、「使う側」の努力に任されている。

これには、欧米と違って、何か問題が起きた時、他者の責任を問う前にまず自分の責任を考えてしまう日本人の謙虚な民族性も関係しているのじゃないかという気がしてならない。

AI時代の「責任の所在」をどう線引きするか

ただ、2025年度のこども家庭庁の集計によると、スマホでネット利用する子どもの割合は小学生で66.5%、中学生で90.4%、高校生で97.9%。そのうち小学生の7割超が自分専用のスマホを持つ。もうスマホでSNSをやらない子供の方が珍しい。

そうした中で、SNS依存で日常生活に支障をきたす「病的使用」を疑われる人が10~20歳代では6%を占める(国立病院機構久里浜医療センターの全国調査)というデータも出てきた。人口に換算すると約140万人規模だから軽視できない。

こうなると、日本でも、罰則を含めたルールの厳格化など、企業責任を問う声が強まりそうだ。

なお、メタの裁判は、SNS依存だけでなく、AIの誤作動や予測不可能な行動など広範囲なアルゴリズムのトラブルについても、「企業責任」を問う動きを加速させる可能性がある。SNSアルゴリズムの設計責任は、ブレーキが壊れて車が衝突するとか、電化製品が爆発するといった欠陥製品による損害についてメーカーに責任を負わせる「製造物責任法(PL法)」の考え方に似ているからだ。

つまり、ユーザーが普通の使い方をしているのに、AIアルゴリズムがユーザーのコントロールの効かない結果をもたらすならば、それは「ユーザー責任」が及ばない、「設計上の欠陥」だというロジックが成り立つ。

テスラの自動操縦による死亡事故の裁判では…

実際、今年2月、テスラのオートパイロットによる死亡事故を巡る裁判で、フロリダ州南部連邦地方裁判所は、同社の再審請求を棄却、日本円で約380億円の賠償を確定させた。

時速100キロで走ってきた「モデルS」が赤信号で交差点に突入し、若いカップルが巻き込まれた痛ましい事故だが、この時、運転者は落とした携帯を拾おうと身をかがめていた、という。オートパイロットモードで走行していたので、前方に障害物があればシステムが自動ブレーキを発動させるだろうと信じていた、と供述した。

テスラ側は一貫して100%ドライバーの過失だと主張してきたが、陪審員団はテスラのオートパイロットシステムにも欠陥があり、同社がそのリスクを知りながら適切な警告を行わなかったという原告側の主張を認め、2億ドルの「懲罰的損害賠償」をテスラに課したのだ。

なお、EUではすでにPL法を改正して、ソフトウェアやAIも「製品」として対象に含めている。一方、日本のPL法は「製造物」を「有体物」、つまり形のあるもの、としているので、今のままではAIなどの純粋なソフトウェアには適用できない。

*     *     *

ただし、成人のSNS依存については、「自分の意思でやめられるはず」ということで、今のところきっちり線引きされている。

そこで気になるのは、くだらない動画の無限スクロールに陥って夜更かししてしまう自分の性癖。これは自制心が足りないわけではなくてアルゴリズムにはめられているのに違いないとは思うが、子供の前で大人がだらだらと携帯を使っていたら、やっぱり示しがつかない。

話題の記事をもっと読む→マンションでプールは騒音なの?執拗な苦情に悩む30代子持ち夫婦が「子なしクレーム主」に同情してしまったワケ

小出フィッシャー美奈

1982年にフジテレビにアナウンサーとして就職。ニュース番組のキャスターなどを務めた後、記者職に転向。政治記者として総理官邸、自民党、野党、外務省担当、また外信デスクなどを経験。MBA留学後、投資業界に転職し、外資系証券会社、ニューヨークのヘッジファンドやボストンの大手投資運用会社で日本株のアナリストやポートフォリオマネジャーを務める。2016年に一線を退いたのを契機に本書を執筆。1986年フィリピンでのマルコス政権崩壊の取材で放送批評懇談会のギャラクシー月間賞(奨励賞)受賞。ジョンズ・ホプキンズ大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院(SAIS)修士、ペンシルバニア大学ウォートン経営学修士(MBA)。米国証券アナリスト(CFA)資格保持者。

著書に『マネーの代理人たち ウォール街から見た日本株』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

・小出フィッシャー美奈さんの過去記事一覧

【もっと読む】マンションでプールは騒音なの?執拗な苦情に悩む30代子持ち夫婦が「子なしクレーム主」に同情してしまったワケ