〈埼玉栄高・車横転死亡〉「息子が身を乗り出していたとは思えない」犠牲者の遺族が学校や運転生徒を提訴…事故1か月前にも同じ車で横転、無断乗車も常態化
私立埼玉栄高校(さいたま市西区)のグラウンドで2024年、生徒が深夜に軽乗用車を運転して横転させ、同乗していた別の男子生徒(当時17歳)が死亡した事故で、遺族が学校を運営する学校法人佐藤栄(さとえ)学園や理事長、運転していた生徒らに損害賠償を求める訴訟を起こした。
【写真】「息子は怖がりだから…」ネットの誹謗中傷に苦しみ、涙ながらに語る母親
亡くなった生徒は「車から身を乗り出していた」と報じられ、ネット上には非難する書き込みが相次いだ。だが、遺族側は、事故直前の車内映像から「Aさんは助手席に着席しており、窓から身を乗り出してはいなかった」と主張。事故直後に捜査関係者への取材をもとに報じられ、学校の調査委員会の報告書にも同乗生徒の供述として記された「窓から顔を出していた」という事故当時の状況に疑問を呈し、「真実が知りたい」と訴えている。
事故1か月前にも横転…2年間続いた無断乗車を学校は把握せず
事故は2024年11月16日夜、校舎から約2.2キロ離れたグラウンドで起きた。助手席の高校2年生の陸上部員Aさん(17)(当時、以下同)が頭部を負傷し死亡した。
運転していたのは、空手部2年生の生徒Bさん(16)で、後部座席には野球部2年の生徒Cさん(17)と同部1年の生徒Dさん(16)が同乗。車はのり面(盛土などで人工的につくられた斜面)に激突し、助手席を下にして横転した。
「車は、サッカー部がグラウンド整備用に6万6000円で買ったもので、ナンバーもなく公道を走れません。学校が設置した調査委員会の報告書では、無施錠の車の中に鍵が置かれ誰でも動かせる状態でした。
事故の約2年前から野球部部員が車をグラウンドで乗り回し始め、ほかの生徒にも拡大したと報告書は指摘しています」(地元記者)
報告書では、2022年11月ごろから事故前までに、夜間などの無断運転は21回あり、AさんやBさん、Cさんを含め、のべ73人が乗っていた。
このうちCさんは報告書で「2024年度前半に男子野球部内で無断乗車行為を主導した」と指摘される人物だ。当日はCさんが呼びかけ、同じ寮で暮らすAさん、Bさん、Dさんが誘いに乗った。
午後9時5分に寮の点呼が終わった後、午後11時ごろに集合して抜け出した4人は自転車でグラウンドへ向かい、最初にCさんが運転し、Bさんに代わったところで事故が起きた。
サッカー部の指導者や寮の舎監を含む教員は、約2年間常態化していた無断乗車を事故が起きるまで「把握していなかった」と調査委に供述。
地元紙、埼玉新聞によれば、佐藤栄学園幹部は事故直後、「鍵の管理に落ち度があったのが事故の最大の原因」と言いながら、「事故車両はサッカー部所有で、管理を一任していた」として、車の管理はサッカー部がしていたと説明している。
埼玉県警はBさんを昨年11月に自動車運転処罰法違反(過失致死傷)疑いで書類送検したほか、今年3月には男子サッカー部監督の男性教諭(43)とコーチの男性教諭(38)を業務上過失致死傷の疑いで書類送検している。
事故直前の車内映像を公開…遺族側が「窓から身を乗り出していた」に疑問
その一方、1日に提訴した両親の代理人である牧野裕貴弁護士は2日、記者会見で「コーチ(と監督)だけを処罰して直る問題ではない。組織自体を変えないといけない問題」だと指摘した。
牧野弁護士は、佐藤栄学園の理事長や校長、教頭、サッカー部幹部に加え、「無断外出が横行していた」とする寮の管理責任も問うため、寮の舎監やAさんの生活指導を担った陸上部顧問も被告にしたと説明。
その上で、「リスク・アプローチ、すなわちリスクを洗い出して管理体制を設計して、それをもとに点検や監査をするという通常の組織なら当然やっているであろう仕組みが、埼玉栄高校には全く存在していなかった」と批判した。
同時に牧野弁護士はBさんとCさんの行為についても厳しく批判した。実は調査委報告書によれば、事故前の2024年10月末にもAさん、Bさん、Cさんを含む4人が問題の車に乗っている時にも同じような横転事故が起きていた。
学校は車体の破損には気づいたものの、生徒たちの無断乗車には気づかなかったとしている。牧野弁護士によると、10月末の横転事故の際も運転していたのはBさんだったという。
「実際に横転させて危険性を身をもって知ったはずだが、今回も同じように横転をさせた。(問題の事故でBさんは)衝突のちょっと前に、横を見て余裕をかますみたいな行動を取った上で、あえてのり面にハンドルを右に切って当てに行ったみたいな、わざとやったとしか思えない行為をしている」(牧野弁護士)
さらに牧野弁護士は、事故直後、県警や捜査関係者への取材をもとに、Aさんが「窓から身を乗り出していた」と報じられたことにも大きな疑問があると話した。
会見では、後部座席から撮影された事故の瞬間の動画が公開された。そこでは、事故直前に助手席のAさんの右肩が、運転席との間の空間に出ているように見える場面がある。
「動画を見ても被害生徒は着席している状態で、とてもじゃないけど椅子(助手席)から出て(窓から)身を乗り出た状態ではない」と牧野弁護士。
後部座席のDさんは調査委に、走行中のAさんについて「助手席の窓から顔を出していた」と説明しているものの、蛇行運転が行われた際の自身の状況については「怖くて顔を上げられない状態だった」と供述したとされる。報告書からは、この二つが同じ時点の状況を指すかは明らかではない。
「『怖いから』が『もういく』に…」遺族が抱く県警への疑問
また動画では、Aさんが「怖いから」と言っているように聞こえる部分があるが、牧野弁護士によると、埼玉県警が動画内の言葉を書き起こした資料では、この部分が「もういく」と記されているという。
「『もういく』と表現したら(Aさんが)乗り気になっていると見られてしまう。なぜ警察がこういう反訳をしたのかを含め、今回あえて被害生徒が悪かったんじゃないかみたいな印象操作をしていると思われても仕方ない」と牧野弁護士は不信感を口にする。
「窓から身を乗り出していた」との情報は、Aさんを非難するネットの書き込みを生み、遺族を苦しめた。「見ないようにしていた」という50代の母親は、「息子は怖がりだから、身を乗り出すってありえないなと思っています。車に乗ったのは、あの子が寮の同じ部屋の運転していた子(Bさん)に対してすごく我慢していたと思える節があり、合わせるしかなかったんじゃないかと思います」と涙ながらに語った。
また50代の父親は、「学校は何の説明もないが、学校と寮、車の管理体制(の問題に)なぜもっと早く気づいてくれなかったのか。その真実を知りたい」と語った。
学園側は事故後の2024年11月の記者会見で遺族に対して謝罪の言葉を述べている。一方、両親によると、事故後に学校の責任者が遺族のもとを訪れて直接謝罪したことはないという。
今年3月、在校生の保護者有志が安全対策などの説明を求める要望書を学園側に提出しようとしたが、その場では受け取られなかった。
提訴後、集英社オンラインが同校に受け止めについて尋ねると、「訴状が届いておらず、内容がわかりません」と回答した。
遺族側と学校側などの主張をめぐっては、今後、裁判の中で双方から証拠が提出され、事故当時の状況や学校側の管理責任などが争われることになる。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
