電気代を下げる方法はあるか。住宅の性能にくわしい住まいるサポートの高橋彰社長は「熱が入ってくる場所の対策が不可欠だ。一つは窓。夏、家に流入する熱のうち74%が流入していると言われている。さらにもう1か所、見落とされがちな場所がある」という--。

■家が暑いのは窓のせいだった

中古マンション価格の高騰が止まりません。

東京23区では、70㎡あたりの中古マンションの平均売り出し価格が1.2億円を超えています。

高騰しすぎたためか、最近は頭打ち傾向があるとはいえ、マンションは、もはや中古ですら「ぜいたく品」と言っても過言ではない水準です。

そんな時代だからこそ「購入後の快適性」を見極める知識がより重要になってきています。前回の記事では、その快適性を大きく左右する要素が「窓」の性能であること、そしてその断熱対策が費用対効果の高い解決策であることを解説しました。

特に夏は、家に流入する熱のうち、なんと74%は窓から流入していると言われています。

出典:YKK AP

RC造のマンションは戸建住宅に比べれば快適。

そう思われがちですが、実際にはアルミサッシ単板ガラスの窓が大きな弱点となり、室内に流入した熱はコンクリートの躯体が溜め込んで、室内は暑くなりがちです。

室内の快適性だけでなく、光熱費として、家計にもダイレクトに跳ね返ってくる要素なのです。

【Close-up:知らないと大損「夏の電気代」対策】はこちら

前回の記事では、そんな「窓」にフォーカスして対策をお伝えしましたが、実は、マンションにはもう一つ、見落とされがちな「熱の流入経路」があります。

本稿では、こちらに着目して解説していきたいと思います。

■築30年以前の物件は要注意

快適性を損ね、光熱費を爆上げする、もう一つの「熱の流入経路」。それが、玄関ドアです。

「窓ほど面積が大きくないから影響は小さいのでは」

そう思われるかもしれません。

たしかに、玄関ドアは、窓ほど面積は大きくありません。それでも、中古マンションの室内環境を左右する部位のひとつです。

理由は、ドアの構造と設置環境にあります。

1990年代以前、築年数でいうと30年以上のマンションで一般的だったのは、スチール製の単板ドアです。内部に十分な断熱材が入っていないタイプが多く、金属自体の熱伝導率の高さも相まって、外廊下型のマンションでは、夏期には外気や日射から熱気を室内に取り込んでしまい、冬期には外気温に近い温度まで冷え込んだ冷気が家の中を冷やしてしまいます。

特に冬期の冷えたドア面は室内側から見ると“冷たい壁”と同じです。表面温度が下がることで、身体から熱が奪われる冷輻射が発生します。温度計では20度以上あるのに、震えが止まらない、そんな経験はありませんか?「空気の温度」と「体感温度」とは必ずしも一致しないのです。

とりわけ玄関付近や廊下は暖房が弱く、冷えが滞留しやすい条件がそろっています。間取り上、トイレや脱衣室の入り口が面していることも多く、リビングとの室温差に起因して、心臓や脳に負担をかけるヒートショックのリスクを高めます。

また夏場は、直射日光を受けたドアが高温になり、閉め切った玄関まわりに熱がこもることで、熱中症のリスクが高まることもあります。

■“郵便受け”が一体化したドアは隙間だらけ

さらに、当時は郵便受けが一体化したドアも少なくありませんでした。

ポスト開口部や枠まわりの気密処理が弱い場合、わずかな隙間風の出入りが室内環境に影響を及ぼします。

夏は、せっかく冷房した空気が逃げていきますし、冬の冷たい空気は重いため、足元に広がります。玄関から廊下、そして各居室へとつながる動線は、家の中の室温差を大きくしてしまいます。

写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

夏は、以下のような現象が起こりやすくなります。

・玄関から冷房の冷気が漏れ、電気代がかさむ
・玄関側の部屋だけ蒸し暑く、寝苦しい
・玄関を開けた瞬間に、ムワッとした熱気が入り込む

さらに冬には、以下のような現象が起こります。

・リビングは暖まるのに廊下が寒い
・玄関側の寝室だけ底冷えする
・玄関の近くにあるトイレや浴室がとても寒い

とくに脱衣所の平均室温は、住む人の健康寿命を左右するという調査もあります。

慶應義塾大学伊香賀名誉教授らによれば、「温暖住宅群」(脱衣所の平均室温14.6℃)と「寒冷住宅群」(脱衣所の平均室温12.4℃)に分け、要介護状態になる人が50%を超える年齢を比較すると、前者で要介護率が50%を超えるのは、76歳。後者は、80歳という結果になりました。

つまり、脱衣所の平均気温が約2℃違うだけで、健康寿命が4年も縮まるということです。

玄関ドアは、住宅全体の熱損失割合で見れば窓ほど大きくはありません。しかし、体感温度や温度ムラ、それによる健康への影響という観点でみれば、決して無視できない存在なのです。

■マンションのドアは2時間程度で対策できる

では、「そんな玄関ドアがついた住宅を購入してはいけないのか」というと、そういうことではありません。

近年は、断熱材を内蔵した高性能ドアが普及しており、既存の枠を活かして上から新しいドアを取り付ける「カバー工法」による更新も一般的になっています。施工は90~120分間程度で完了するケースが多く、住みながらの工事も可能です。

出典=YKKAP
CAP玄関リノベーションのイメージ。 - 出典=YKKAP

断熱性能の高い玄関ドアに更新すると、ドア表面温度が上がり、ドアからの輻射熱の影響が軽減されます。廊下や玄関まわりと、リビング等との室温差が緩和され、室内の温度ムラも改善されます。ポスト一体型ドアを廃し、気密性を高めることで、隙間風対策にもなります。夏は逆に、外からの熱をドアが跳ね返すため、玄関や廊下の温度上昇が抑えられます。

技術的には、玄関ドアの断熱性能は大きく改善できるのです。

■玄関の断熱リノベの盲点

しかし、ここで戸建住宅とは決定的に異なる中古マンション特有の事情があります。

問題は「ドアの性能そのもの」ではないのです。

マンションでは、玄関ドアは「共用部」に分類されます。専有部分のように所有者が自由に変更できるわけではありません。外観の統一性や防火性能の維持といった観点から、管理組合の管理対象になっているからです。

玄関ドアの交換は、原則として管理規約に基づいて、管理組合の承認が必要になります。

管理規約とは、区分所有法に基づき、それぞれの管理組合が管理・使用方法を定めたルールブックです。共用部の取り扱い、工事の可否、改修の手続きなどが定められています。

国土交通省が定めているひな型、「マンション標準管理規約」を見てみましょう。

第22条 
1 共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。
2 区分所有者は、管理組合が前項の工事を速やかに実施できない場合には、あらかじめ理事長に申請して書面又は電磁的方法による承認を受けることにより、当該工事を当該区分所有者の責任と負担において実施することができる。

つまり、窓も玄関ドアも、原則として、管理組合が計画修繕すべきものとされています。

ですが、修繕積立金が不足している管理組合も多く、修繕費用の高騰も続いていることから、管理組合が窓や玄関ドアを計画修繕の一環で高断熱化を図れるマンションは多くありません。

■管理規約が「ひな型通り」とは限らない

窓枠や玄関扉も、理事長承認が得られれば、区分所有者(住宅のオーナー)がリノベできるとありますが、「マンション標準管理規約」はあくまで“モデル”です。

上記の条文は、マンションの断熱・省エネ性能の向上を図ることを目的として、2004年の改訂であらたに追加された項目です。各マンションの管理規約が、この改訂内容を反映しているかどうかは別問題。改訂前の条文のままで運用されているマンションも少なくありません。

仮に管理規約が改訂されていない場合、

・窓のカバー工法が認められない(内窓設置は可)
・玄関ドアの交換が原則不可
・理事会判断で実質的に拒否される

といった可能性もあります。

購入を考えている中古マンションの「価格が適正かどうか」と同じくらい、「将来どこまで性能改善が可能か」は重要な判断材料なのです。

だからこそ、購入前に以下はチェックしておきたいところです。

・管理規約に標準管理規約改定(第22条第2項相当)の内容が反映されているか
・過去に窓や玄関ドアの個別更新事例があるか
・理事会承認の運用実績があるか
・将来的な大規模修繕計画に窓更新が含まれているか

これらを確認せずに購入すると、「改善したい」と思ったときに、制度上できないという事態に直面する可能性があります。

中古マンションを選ぶとは、間取りや眺望を選ぶことだけではありません。

そのマンションが「性能向上を許容する文化を持っているかどうか」を見極めることでもあるのです。

■やるなら今がオトクな理由

窓や玄関の断熱リノベを行う上で、もう一つ重要な要素があります。

国の補助制度です。

2026年度に実施される「先進的窓リノベ事業」では、窓や玄関ドアの断熱改修に対して、最大100万円/戸が補助されます。

条件によって異なりますが、概ね工事費の5割程度が補助対象になります。

内窓設置、窓のカバー工法など、「窓」のリノベにくわえ、玄関ドアのカバー工法も対象です。

ただ、窓や玄関ドアの断熱リノベの半額程度の補助を受けられる状況は、恒常的に続くものではありません。

この補助制度は、2026年度は4年目を迎え、基本的には2026年度で終了することになっています。

これから中古マンションを購入する方だけでなく、現在の分譲マンションや戸建住宅の寒さに悩んでいる方もぜひ活用していただきたいと思います。

8月末時点での本年度の予算に対する補助金申請額は、19%にとどまっています。

予算上限に達するまで、もしくは遅くとも11月16日までに、交付申請が必要ですが、まだこれからでも十分に間に合います。

軽い負担で、住まいを快適にできるチャンスですので、ぜひこの制度を活用していただきたいと思います。

■引越前なら「入居前」がベスト

中古マンションを購入する場合は、断熱改修は「入居前」に行うのが最も合理的です。

引っ越し前であれば、

・家具移動が不要
・生活への影響が少ない
・工期調整がしやすい
・管理組合との調整も余裕を持って進められる

といった利点があります。

中古マンションの価格が高騰している現在、購入費用に比べれば、窓や玄関の断熱改修費は相対的にとても小さい投資です。

しかし、その効果は決して小さくありません。繰り返しになりますが、夏の暑さや冬の寒さを軽減し快適性を向上させるだけでなく、光熱費の抑制、結露やカビ、ヒートショックを予防することで住む人の健康にもつながります。

中古マンションを選ぶ際は、管理規約にも目を通し、入居前に窓と玄関ドアの断熱リノベを行うこと。

それが、夏暑く、冬寒い家に住み続けなくてもいいための、そして将来の資産価値を守るための、重要な判断と言えるでしょう。

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高橋 彰(たかはし・あきら)
住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事
東京大学修士課程修了。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に高気密・高断熱住宅の工務店を無料で紹介する「高性能な住まいの相談室」を運営する住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)、『結露ゼロの家に住む! ~健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本~』などがある。
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(住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事 高橋 彰)