元タカラジェンヌが教える〈宝塚男役〉のリーゼント&オールバックの作り方。「ただ後ろになでつければいい、は大間違い。頭は意外と主張が強いのです」
100年を超える歴史を持ちながら常に進化し続ける「タカラヅカ」。そのなかで各組の生徒たちをまとめ、引っ張っていく存在が「組長」。史上最年少で月組の組長を務めた越乃リュウさんが、宝塚時代の思い出や学び、日常を綴ります。第132回は「男役の作り方 髪型編」です
【写真】男役の必須アイテム「リーゼントネット」(正式名称:ダンネット)
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前回「オイシックス新潟の試合で始球式に挑戦。4年前は打者・栗山英樹さん、捕手・橋上秀樹さんに投げたが無念のワンバン投球。今回こそは…」はこちら
男役の髪型の作り方
男役の髪型というと、皆さんは何を思い浮かべますか?
リーゼント。
オールバック。
そして、異様に乱れない髪。
宝塚の男役の髪型は、「ブロー」や「スタイリング」などという生ぬるいものではございません。
ただ髪を後ろになでつければ完成するほど、世の中甘くないはないのです。
もちろん髪質によって作り方は違います。
毛量も違えば、クセも違います。
頭の形だって、人それぞれです。
ですから、正解はひとつではありません。
そのうえで、今日は越乃流の「男役の髪型の作り方」をご紹介しましょう。
リーゼント編
まず髪全体に「デップ」を薄くつけます。
デップ。
この言葉を聞いて、懐かしいと思った方は、たぶん同世代です。
今はもしかしたら「それは何ですか?」と言われるかもしれません。
簡単に言えば、髪をガッチリ固めるジェルです。
このデップ、最初からベタベタとつけてはいけません。
薄く、全体になじませます。
そしてドライヤー。
髪一本一本を太くするようなイメージで乾かします。
乾かしながら、後ろへ、後ろへと流していく。
リーゼントの後ろは、左右から流れてきた髪が後頭部で合流するようなイメージです。
前髪はさらに慎重に。
ここは立ち上がりが薄くならないように作ります。
ただ立ち上げればいいというわけではありません。
立ち上がりとサイドが別々にならないようテクニックが必要です。
ここで登場するのが、男役の必須アイテム「リーゼントネット」です。
これはある程度髪をセットして形を作ったあと、さらにサイドやトップを潰したいときに使います。
リーゼントネットを髪に当てながら、ドライヤーをかけます。
フロントを立ち上げたいときも、同じようにリーゼントネットを当てながらドライヤーをかけ、スプレーをします。
金網のなんとも地味な道具ですが、かなり優秀で大変お世話になりました。
正式名称は「ダンネット」というようです。
実際に見ても、いったい何に使うものか、ほとんどの人は想像がつかないと思います。
優秀ではありますが、これは世の中にどれくらい需要があるものなのでしょう。
気になります。
皆さん大好きなオールバック編
オールバックは、ただ後ろになでつければいいと思ったら大間違いです。
むしろオールバックほど、ごまかしのきかない髪型はありません。
なぜなら、己の頭の形が、容赦なくバレる髪型だからです。
ただなでつけるだけでは、頭の形が浮き彫りになって不格好になります。
ですから、ただ後ろに流すのではなく、前から見たときの形に「色をつける」ような作業が必要になります。
例えば、7対3、あるいは6対4くらいに分け目をつけて後ろに流します。
私の場合、最大の敵は「絶壁」です。
オールバックにするときには、この絶壁をどうカバーするかに全集中します。
そしてもうひとつ重要なのが「ハチ」です。
頭の左右にある、張り出した部分です。
ここが広がってしまうと、頭全体が大きく見えてしまいます。
ここは先程のリーゼントネットの力を借りて、押さえ込みます。
絶壁を隠す。
ハチを広げない。
この二つは、オールバックに限らず、男役の髪型を作るときに私がいつも気をつけていたことです。
頭は、意外と主張が強いのです。
そんなオールバックを作るとき、越乃流で大活躍するのが「グリース」。
普段はデップとスプレー。
オールバックのときはグリース。
このグリースというもの、ハードなセット力がありながら、ちゃんとツヤも出ます。
しかも、カチカチに固めるだけではなく、固めたあとにヘアチェンジするとき、比較的動かしやすいのです。
舞台では、一日に何度も髪型を変えます。
一度カチカチに固めた髪を、次の場面のために崩して、また別の形にします。
髪型を作る。
固める。
崩す。
また作る。
これを繰り返します。
固めた髪を次の髪型に変えるとき。
これが、ものすごく痛いのです。
頭皮から血が出るんじゃないかと思うほど、髪が悲鳴をあげます。
下級生の頃などは、どこまで固めればいいのか、さじ加減がわかりませんでした。
「崩れたらどうしよう」
その結果、スプレーを一日1本使うんじゃないかという勢いで噴射していました。
そうして完成した頭は、突風が吹こうが、何が吹こうが、少しも乱れません。
ヘルメットです。
鉄壁の安心安全感です。
洗髪
そんなヘルメット状態になった髪に、最後の試練が待っています。
洗髪です。
ここで、長年の経験から得た秘技をお教えしましょう。
カチカチに固まった髪を、いきなりシャンプーしてはいけません。
まずは、トリートメントから。
軽く濡らした髪にトリートメントやリンスをつけ、固まった髪を少しずつ、少しずつ、溶かしていくのです。
一日の舞台を終え、ようやく解放されたと思った髪に、さらにシャンプーで攻撃を仕掛けてはいけません。
まずは労う。
そして、ほぐす。
これは髪にも、人間にも通じることかもしれません。
思えば、男役時代は、ずいぶん髪に無理をさせてきました。
髪はいつも染め、立たせて、固めて、引っ張って、流して、また立たせる。
男役の髪型は、実に手がかかります。
それでも舞台に出れば、何事もなかったような顔をしているのです。
もし今後、宝塚の舞台をご覧になる機会があったら、男役の髪型にも注目してみてください。
そこには、絶壁との戦いと、ハチとの攻防と、スプレー1本分の人生が詰まっているかもしれません。
リーゼントにもオールバックにも、いかに美しく見せられるかという研究と努力、そして男役の美学が凝縮されています。
そして、男役の皆さん。
どうか頭皮は大切に。

『エリザベート TAKARAZUKA30周年 スペシャル・ガラ・コンサート』の楽屋にて
