「ミャクミャク」の関連商品にも「合成着色料」が “安心安全”を謳う日本の「巨大食品会社」が抱える大きな矛盾
舌が染まるほど派手な色の菓子、「糖類ゼロ」を謳いながら人工甘味料がたっぷりの飲料、色鮮やかなピンク色のハム--。日本の食卓に並ぶそれらの加工食品を製造・販売する巨大食品企業の多くは、今や「ESG」を経営理念に据え、消費者への“安心安全”を高らかに掲げている。だが、合成着色料が米国やEUで相次いで規制される一方、日本での規制は遅々として進まない。人工甘味料をめぐっては、WHOが2023年に摂取を「推奨しない」と勧告済みだ。健康リスクを示す研究は積み上がり、専門家たちは警鐘を鳴らし続ける。美辞麗句と実態のあいだにある巨大食品企業の“都合”とは……。
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「安心安全」を謳う企業の、揺らぐ足元
スーパーなどで食品を購入する際、あなたが心掛けていることはなんだろうか。物価高の昨今なら「安価であること」が最優先という方も多かろうが、できるだけ「国産」にこだわり、食品表示を徹底的に見比べて無添加に近い食品を選ぶ“こだわり派”もいるのではないか。程度の差こそあれ、自分や家族が口にする食品が安心安全であることを望まない人はいないだろう。

そうした消費者心理をくすぐるかのごとく、巨大食品会社が軒並み掲げる経営理念が「ESG」である。「E(Environment)」は「環境」、「S(Social)」は「社会」、「G(Governance)」は「企業統治」を意味する三つの頭文字を合わせたもので、端的に言えば持続可能な社会の実現を志す企業として、消費者に“安心安全な食品を提供する”と謳っているのだ。
売上高(連結)1兆円超で国内パン業界首位の山崎製パン、食肉加工業界首位の日本ハム、2位の伊藤ハム米久HD、即席麺・インスタント食品最大手の日清食品HDなど、大手食品企業は軒並みESGへの取り組みをウェブ上や独自レポートで公開している。こうした流れは日本独自のものではなく、2000年代以降に欧米企業が「人権」や「環境」への取り組みを示す指標として導入し始めたものだ。
しかし、日本の食品業界の実態を見ると、違和感を禁じ得ないのである。
米国では規制、日本では「ミャクミャク」グッズにも使用
米ハーバード大などで食事や生活習慣と疾患の関係を研究してきた、内科医で医学博士の大西睦子氏はこう指摘する。
「日本の食品メーカーがESGや健康への貢献を掲げるのであれば、実際にどのような食品を消費者に提供しているのかも重要です。手軽に口にできる加工度の高い食品を販売しながら『健康への貢献』を強調するのなら、その整合性は検証されるべきでしょう」
ESGの本場である米国では、理念に反する加工食品への規制が強化されつつある。代表例が「合成着色料」への対応だ。一般社団法人ナチュラル&ミネラル食品アドバイザー協会代表理事で、加工食品ジャーナリストの中戸川貢氏が解説する。
「食品ラベルの原材料表示に『赤色102号』などと記載されているものを見たことがあると思いますが、米国では昨年4月から保健福祉省とFDA(米国食品医薬品局)が、石油由来の合成着色料を食品から段階的に減らしていく方針を発表しました。既に禁止が決定していた『赤色3号』だけにとどまらず、『赤色40号』『黄色5号』『黄色6号』『青色1号』など計8種類が対象となっており、食品メーカーに天然由来の着色料などへの切り替えを促しています」
一方、日本では規制が進んでいない。
「象徴的だったのが、昨年行われた大阪・関西万博でしょう。公式キャラクターの『ミャクミャク』は赤と青の配色が特徴的でしたが、関連商品として発売された菓子などには『赤色102号』や『青色1号』などの合成着色料が使われていました。口にしたら舌に色がつきそうなほどカラフルな商品が、お土産としてたくさん売られていた。それくらい日本では合成着色料への抵抗感が薄いのです」(同)
EUではすでに、6種類の合成着色料を含む食品に「子供の注意力などに悪影響を及ぼす可能性がある」との趣旨の警告表示を義務付けている。代表的な根拠となったのは2007年に英サウスサンプトン大学の研究チームが医学誌『The Lancet』に発表した論文で、子供を対象とした二重盲検試験で合成着色料と保存料の混合物を摂取させたところ、過活動や不注意などを総合した指標が悪化した。
「見栄えを良くする」ための発色剤、誰のためのリスクか
危険な食品添加物は他にもある。色鮮やかなピンク色で販売されるハムやベーコン、ウインナーなどの加工肉に使われている「発色剤」だ。厚労省食品添加物公定書作成検討会委員などを歴任した薬学博士の中村幹雄氏によれば、代表的な発色剤「亜硝酸ナトリウム」は食品中のアミンと反応してニトロソアミン類を生成する可能性があり、この物質は2012年に国際がん研究センターが人に対して発がん性があることを示唆する「グループ1」に分類している。
一般社団法人加工食品診断士協会代表理事の安部司氏はこう喝破する。
「いわば商品を美味しく見せるのが目的であり、見栄えを良くするためでしかない添加物です。食品メーカーは企業として利益を上げるのが最優先ですから、消費者が見栄えの良い商品を求めている以上は発色剤が必要なのです」
重要なのは、食品添加物を使うことで誰にメリットがあるのかという点だ。鮮やかなピンク色のハムは食欲をそそるかもしれないが、健康リスクがあるとなれば本末転倒である。
「カロリーゼロ」の落とし穴--人工甘味料と依存のカラクリ
専門家たちが近年とりわけ注意を促しているのが「人工甘味料」だ。「糖類ゼロ」「カロリーゼロ」を売りにする商品で、砂糖の代わりに「スクラロース」「アセスルファムK」「アスパルテーム」などが重用されている。
先に登場した薬学博士の中村氏はこう警告する。
「2023年にWHOは、体重管理や生活習慣病予防を目的とした人工甘味料の摂取は“推奨しない”という勧告を出しています。2型糖尿病や心血管疾患による死亡リスクが高い傾向が報告されているのです」
2017年には「フラミンガム心臓研究」のデータを用いた米国の分析で、人工甘味料入り飲料を平均して1日1回以上飲んでいた人は、まったく飲んでいなかった人と比べて脳梗塞の発症リスクが2.96倍、アルツハイマー型認知症の発症リスクが2.89倍という関連が確認された。さらに2022年に科学誌『Cell』に発表された論文では、サッカリンとスクラロースが食後の血糖反応を悪化させることが示された。
大西氏はこう指摘する。
「食品業界には、消費者が『また食べたい』と思う商品ほど売上につながる構造があります。脳の報酬系を刺激し“やめられない、止まらない”状態になりやすい添加物を使用するのは不自然で、倫理的に問題があります」
人工甘味料が使われ続ける背景を中戸川氏が明かす。
「人工甘味料は少量でも甘みが非常に強いので、砂糖より原材料コストを大きく下げることができます。消費者から“なぜ添加物を使っているのですか”と聞かれても、食品会社は“安いから”とは答えられず、せいぜい“国の基準に適合して製造しています”と説明することしかできないと思います」
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ESGを掲げる各社は、専門家や国際機関が示す健康リスクについて、どう答えるのか……。
新潮QUEで配信中の記事【ESGで美辞麗句を並べる「巨大食品会社」の嘘】では、「山崎製パン」、「日本ハム」、「伊藤ハム米久HD」、「日清食品HD」への取材に対する回答と、ESGの理念に矛盾する巨大食品会社に対する専門家見解を、より詳しく伝えている。
「週刊新潮」2026年9月3日号 掲載
