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ライトノベル『いぬかみっ!』のキャラクターデザインを手がけたイラストレーターの若月神無(わかつき・かんな)さんが8月31日、同作の「総集編」と題する電子書籍の表紙に自身のデザインを無断で使われたとして、発行元のWiZH(東京都文京区)に配信の差し止めと330万円の損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こした。

問題となった表紙は、別のイラストレーターが新たに描き起こしたもの。絵柄を変えて描き直した絵に、元のデザインの著作権は及ぶのか。裁判では、著作権法上の「翻案権」の侵害にあたるかなどが争点となる。

●原作では「黒髪」→「緑の髪」にデザイン

提訴後に開かれた記者会見での説明や訴状によると、若月さんは2002年ごろ、コンペを経て同作のキャラクターデザインを担当した。

若月さんによれば、原作小説でヒロイン「ようこ」は黒髪とされていたが、原作者と話す中で、デザインの方針を変えたという。

「(原作者は)『この作品は絶対アニメ化にしたいんです』っておっしゃってたんですね」(若月さん)

若月さんによると、そうした意向も踏まえ、キャラクターを「視認してもらう」ため、髪を明度の高い緑色にし、瞳を赤くするデザインにしたという。

●「10分ぐらい呆然とした」

作品は2006年にテレビアニメ化され、コミカライズもされた。若月さんはその後、イラストレーターの仕事を離れ、原作者や元の出版社とも連絡が途絶えていた。

今年5月、原作者のXの投稿を目にしたことで、別の出版社から総集編が刊行され、新しいイラストレーターが絵を担当することを知ったという。

しかし、Amazonに掲載された書影には、別のクリエーターによる「緑の髪に赤い目」の少女が描かれていた。クレジットに若月さんの名前はなかった。

「10分ぐらいちょっと呆然とした後に、即、弁護士さんにお電話を始めました」

若月さんは会見でそう振り返った。

●「別の人」が担当することに怒りはない

「新しいイラストレーターさんになるのは、まったく構わないんです」

若月さんは、絵の仕事を別の人が担当すること自体に怒りがあるわけではないと繰り返した。

新たにキャラクターデザインをするのであれば「原作が黒髪なので、もう間違いなく黒髪でいってもよかったんですね」とも述べた。

問題だと考えているのは、自身が考案したデザインを使うにあたって、事前の連絡や許諾、契約がなかったことだという。

「『使っていいですか?』と言っていただけたら、じゃあ、『使用料も売れた分の何%くださいね』とか契約書を交わさせてもらいます。泥臭い話ですけれども、契約書1枚書かせていただいて『いいですよ。頑張ってくださいね』で終わった話なんですね」

ただし、許諾の有無をめぐっては、双方の言い分が食い違っている。

原告代理人の牧野裕貴弁護士によると、交渉の過程で被告側から、許諾を得たという趣旨の説明があったものの、いつどこで得たのかは示されなかったという。若月さんは「私はちょっと覚えがない」と否定している。

文庫は売れ、その後のコミカライズでは「キャラクターデザイン」、アニメでは「キャラクター原案」として若月さんの名前が載ったという。

また、若月さんはKADOKAWAから二次使用に伴う印税を受け取り続けており、訴状によると、その支払いは17年間に及んでいる。

●争点は「翻案権」侵害にあたるか

訴状では、「ようこ」の表現上の本質的な特徴について、(1)明度の高い緑色の長髪と毛束ごとのハイライト(2)大きな赤い瞳の形状と光の入れ方(3)胸元のカエル型ペンダント(4)これらと顔の輪郭・全体の構成との均衡──という「選択と組み合わせの総体」だと主張している。

別人が新たに描いた絵であっても、見る人が元のデザインの本質的な特徴を直接感じ取れるのであれば「翻案」にあたる、というのが原告側の主張だ。

牧野弁護士は、今回の訴訟について「金額の問題というよりも、クリエイターとしての権利の存在確認」が主題だと説明する。

こうした権利が認められなければ「合法的な海賊版」が横行することを認めかねないとする一方で、二次創作の文化そのものを否定するものではないとも強調した。

●被告側は「権利を侵害するものではない」

WiZHは今年6月、自社サイトで、複数の電子書籍ストアに権利侵害の申し立てがあったとして、一部サイトで『総集編(上)』の配信を停止し、『同(下)』の配信開始を見合わせたと公表している。

その中で「本作が第三者の著作権その他の権利を侵害するものではないと考えております」と説明。配信停止についても「権利侵害の存在を認める趣旨ではなく」、暫定的な措置だとしている。

一方、訴状によると、Amazonなどでの配信は現在も続いているという。

同社サイトには8月1日付で、原作者名義のお知らせも掲載されている。

総集編の配信停止と新作を待たせていることを読者に詫びたうえで、「詳細な事情発表はあらためてもっとも適切なタイミングで行う予定です」としている。