年を重ねたら、受診しておきたい検査は何か。医師の鎌田實さんは「一般に、ドック検診よりもコストパフォーマンスが良いと言われる検診があるが、高齢者の約1割しか受けていない。膨大な医療費の削減にもつながるため、意味が大きな検査をしっかり受けるよう前向きに考えるといい」という――。

※本稿は、鎌田實『身辺整理』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen

■「貯筋」で最後の最後までピンピン元気に

身辺整理をするにあたって、心がけておきたいことがあります。

それは、体をきちんと整えておくことです。

僕が日頃から呼びかけているタン活――「タンパク質をしっかりとる生活」や、野菜を多く食べる「ベジ活」をして血圧や血糖値をきちんとコントロールする。

そうやって体を整えながら、ピンピン元気に、行きたいところへ行く。会いたい人に会う。

もし好きな人ができたら、いっしょに映画を観に行ったり、芝居を観に行ったり、おいしいお酒を飲みに行ったりすればいいのです。

「貯金より貯筋」と言って、鎌田の健康づくりは筋肉を大事にしています。

命の長さよりも、その人に与えられた寿命があるあいだ、最後の最後までピンピン元気に、行きたいところに行けるための身辺整理をしておくことが、鎌田の健康づくりの中心です。

■90歳を超えて日帰り温泉に行けるか

僕の健康づくりは、命の長さにあまりこだわっていません。その人が自分の寿命を迎えるまで、自由に行きたいところへ行け、食べたいものを食べられる。そういう体づくりをすすめてきました。90歳を超えて日帰り温泉に行けるかどうか。

とても大事だと思っています。行けるか行けないかは、700円ぐらいの交通費があるかないかではありません。多くの人は筋肉がなくて行けなくなるのです。

1カ月に1回くらい、食堂に出かけて行って、好きなものを注文して食べること。そういう生活ができるために体の身辺整理が大事なのです。

僕はついに、2026年、主婦の友社が主催する「すごい!健康長寿力アワード2025/ひと部門」を受賞してしまいました。

生きている限り、日帰り温泉へ行ったりレストランに行ったりできる体をどうつくるかが、鎌田の身辺整理の中心になっています。

写真=iStock.com/kumikomini
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■筋肉は“減る資産”だから、放置しない

現在78歳。腰が曲がらないように、猫背にならないように、毅然とする。

週2回ジムに行って、腰の周りの筋肉や腹筋、そして背筋を、めちゃくちゃに鍛えています。筋肉は放っておくと、1年に1%減っていくと言われています。

筋肉は人生の有形資産と考えましょう。

高齢になったら、きちんとした資産管理が大切です。背筋がしっかりしていることで、毅然とした姿が現れていることで、いまでも年に5、6本、テレビ出演の声がかかります。

いかに生きるべきかという『葉隠』の精神を学んでから、日々を大切にし、油断なく、悔いなく、新鮮に、真剣に生きることを意識しています。

うまいように死ぬためには、うまいように生きることが大事です。

毎年100カ所ぐらいから講演依頼がきて、70ぐらいを引き受けています。健康づくりの話を主にして、最後の20分ほどは、人間には必ず死が来るという話をしています。

そして、うまいように死ぬためには、うまいように生きること。

具体的には、いま元気なみなさんに気をつけていただきたいのは、脳卒中、認知症、フレイルにならない生活習慣。

うまいように生きるには、この3つの病気にならないこと。

しかし、もっと大事なのは、このどれかになっても、面白いことをするのに貪欲であり続けることです。どんな状況になっても、常に身辺整理を上手にしながら、そこから立ち直って、好きなことをやることが大事なのです。

生きている限り、足をひきずってでも、車椅子に乗ってでも、日帰り温泉に出かけたり、食堂へ行ってかつ丼を食べたり、ラーメンを食べたり、好きなものを食べることが、とても大事だという話をしています。

■健康は目標ではなく幸せに生きるための道具

うまいように生きるためには、体と心とのつながりが大事だと考えてきました。ウェルビーイングという考え方です。

ウェルビーイングとは、病気をしないことが大事ではあるけれど、たとえひとつやふたつ病気があっても、自分の体と心を使ってやりたいことをやる「能力」が大事だ、という考え方です。

ウェルビーイングは特につながりを大事にしています。鎌田式身辺整理も、断ったほうがよいつながりは勇気を出して断ち、大切にしなくちゃいけないつながりは、育てて太く豊かにしていく。それがウェルビーイングになっていきます。

健康は目標ではなく、幸せに生きるための道具。そのために僕は身辺整理をして、上手に健康という道具磨きをしています。

70歳になったら、コレステロールは下げなくていいと思います。じつはコレステロール値が低いほうが、死亡率が高いのです。

これは、アメリカの約50の医学会が、「賢い選択(チュージング・ワイズリー)」として進めています。僕も外来で、70歳を超えた方には、「一度、コレステロールの薬はやめてみましょう」と言って、生活の注意をするだけにしています。

■65歳は低血糖になるほうが臓器負担が大きい

高血圧の患者さんも、70歳を超えたときには、血圧の基準値を厳密に守るよりも、血圧の薬を少しずつ減らしていく努力をしていきます。

動脈硬化がある高齢の患者さんは、薬で無理やり血圧を下げたほうが、マイナスの点が多いからです。

70歳までは130/80ぐらいを目標にしていますが、70歳を超えたら150/90ぐらいに収まることを目標にしています。

糖尿病の患者さんは、75歳を超えたら、ヘモグロビンA1cの正常値(正常は6.2以下)を厳密に守らなくていいと思います。

65歳未満の糖尿病の患者さんでは、ヘモグロビンA1cは6.4ぐらいを目指していましたが、65歳ぐらいになれば、今度はヘモグロビンA1cは7.0でもOKです。低血糖になるほうが、臓器への負担が大きくなると考えるからです。

75歳以上になれば、ヘモグロビンA1cは7.2から7.4でもOKにしています。80歳を超えたり、要介護になったら、無理やり血糖値を下げるよりも、食べる楽しみを大事にしてあげたほうが、生きる意欲が出てくることが多いのです。

そんな場合には、ヘモグロビンA1cは7.5から8.0まで認めています。

ところで僕は、ドック検診を受けていません。

病院は退職していますが、週1回、予約外来の患者さんを受け持っているので、病院のアルバイト職員として、ドック検診を受けることをすすめられていて、痛くない検診だけ受けるようにしています。

胸のレントゲンと超音波検査と血液検査、それに心電図と、聴診器を当てる聴打診です。

写真=iStock.com/Ekaterina Oleshko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ekaterina Oleshko

僕と同じ年の人でも、まだ一家を支えているとか、会社を経営しているとか、責任のある立場の人は、できたら人間ドックやがん検診を、きちんと受けておいたほうがいいでしょう。

年齢による検査の選択に関しても、その人の哲学や生き方によって変わってもいいと思います。

■大腸がん検診率9.4%の現実

諏訪中央病院と茅野市が連携・協働して、茅野市がん検診プロジェクトを始めました。

高齢者の大腸がん検診率が9.4%。公民館での健康づくりの会でがん検診を受診するようにすすめていますが、なかなか受診率が上がりません。

これを受診率50%にすると、人口5万4000人の茅野市で、およそ100名ぐらい大腸がんが見つかると予想されています。

ステージ3ぐらいまでは、ひとり当たりの医療費は、腹腔鏡を使っての腫瘍切除でも100万円ぐらい。抗がん剤治療を行っても、ひとり当たり130万円ぐらい。

それがステージ4になると、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新しい抗がん剤を使えば、年間の治療費は800万円。効果が出ている場合には、何年も続けることもあります。

韓国の大腸がん検診の受診率は約60%です。がん検診の受診率を50%に上げることは、不可能ではないと考えました。

鎌田實『身辺整理』(明日香出版社)

そうなった場合、茅野市のように人口5万数千人の市でも、約2億円の経済効果があることが想定されています。

もちろん、早期発見すれば、腹腔鏡などの手術で治療も終わり、本人にとっても家族にとってもありがたいことになります。

一般に、ドック検診よりもがん検診のほうが、コストパフォーマンスが良いと言われています。

そのがん検診を日本人は受けていないということで、これを受けるように発想の転換をしていく必要があります。体の身辺整理も、時代とともに変わる必要があるのです。

■ドック検診よりがん検診

日本人が、女性に多い乳がん・子宮がん、男性にも女性にも多い肺がん・大腸がん・胃がん、これらの5つのがん検診を受けることで、膨大な医療費を削減できるのです。

面倒くさいなんて言わずに、がん検診を受けるように、前向きに考えてほしいと思っています。

ときどき体の身辺整理をして、減らしてもいい薬や、切ってもいい薬があれば、チャレンジをしてみることが大事です。

やみくもに検査を受けるのではなく、意味が大きな検査をしっかり受けること。がん検診はぜひ受けていただきたいと思います。

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鎌田 實(かまた・みのる)
医師・作家
1948年、東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院に赴任。「地域包括ケア」の先駆けをつくり、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導く(現在、諏訪中央病院名誉院長)。現在は全国各地から招かれて「健康づくり」を行う。2021年、ニューズウィーク日本版「世界に貢献する日本人30人」に選出。2022年、武見記念賞受賞。ベストセラー『がんばらない』(集英社文庫)ほか書多数。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、日本チェルノブイリ連帯基金顧問、JIM-NET顧問、一般社団法人 地域包括ケア研究所所長、公益財団法人 風に立つライオン基金評議員ほか。
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(医師・作家 鎌田 實)