【逆説の日本史】「二人の大統領」の将来に対する歴史家としての重大な「予言」
ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。今回は「連載1500回記念特別編」をお届けする(第1500回)。
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二〇二六年(令和8)八月五日午後五時十五分に、この稿を書き始めている。
わざわざ日付と時刻を述べたのは、週刊誌の原稿は書かれてから読者の目に触れるまでタイムラグがあるからだ。その間に、私が「予言」したつもりの大事件が実際に起こり、この稿が読者の目に触れる時点で「過去」の話になってしまう可能性がある。
では、その「予言」を述べよう。それは、
ロシアのプーチン大統領は今後ろくな死に方をしないだろう。
である。なんだ、そんなことか、と多くの人は思ったのではないか。
二〇二六年八月の時点で、ウクライナ軍はロシア軍を追い詰めつつある。オールドメディアはまだ反応は鈍いが、ネットの世界を少し覗けば、ウクライナ軍のドローン攻撃によって集中的に石油精製施設を破壊されたロシアについて、「このままでは冬が越せない」「プーチン政権は十月までもたない」といった動画が溢れている。
実際、軍事専門家から見てもロシアの劣勢はあきらかで、このロシアによるウクライナ侵略戦争は今年の冬までにはなにかしらの決着がつくのではないか。そしてその決着とは、プーチン政権の崩壊を伴うものであるという見方が有力である。
しかし、ここで申し上げたいことがある。
私が「プーチン大統領はろくな死に方をしないだろう」と述べたのは今回が初めてではなく、もっとずっと前の話なのである。この『逆説の日本史』にそう書いた。その部分を再録させていただこう。
これはいまから四年前の、二〇二二年(令和4)四月に書いた原稿である。
〈私は歴史家として予言しておこう。それは、この「主犯」であるウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン大統領はろくな死に方をしないだろう、ということだ。もちろん人間には運不運があるから「運良く」ガンになって早目に死ぬなどということも無いとは言えないが、長く生きようとすれば必ずその生命はおぞましい形で絶たれることになるだろう。どういう死に様をするのか御興味があるなら、第二次世界大戦で独裁者と呼ばれた連中がどういう最期を遂げたか、ご自分でお調べになるのがいいと思う。〉
(『週刊ポスト』2022年5月20日号。小学館刊)
ロシアによるウクライナ侵略戦争がいつ始まったか、覚えておいでだろうか。
そう、四年前の二〇二二年二月二十四日に始まったのだ。つまり、この「予言」は戦争が始まってまだ二か月足らず。兵力、物量に勝るロシア軍が破竹の進撃を続けていた時点のものなのである。NATO(北大西洋条約機構)のバックアップも本格的に始まっていなかった。多くの人が、ウクライナは気の毒だがロシアが勝ってしまうだろうな、と思っていた。
ここは正直に言おう。私も短期間でロシアが勝つと思っていた。ウクライナにくらべ、ロシアの国力と軍事力はきわめて大きいからである。
では、なぜ戦争は「負ける」のに「勝者の大統領」がろくな死に方をしないと思ったのか。ここも、現在の情勢を見て態度を変えたのでは無く、四年前の時点からそう考えていたということを証明するために、当時の原稿をさらに再録させていただく。
〈なぜプーチンがろくな死に方をしないと断言できるのか。
それは、ロシアはすでに選挙で大統領を選ぶ民主国家だからである。たしかに国民には「ウクライナこそ悪である」などという偽情報が与えられ、逆にプーチンの意に沿わないジャーナリストは次々に消されている。国際NPOであるジャーナリスト保護委員会(CPJ)のグルノザ・サイド氏は、ロシア国内においては「暗殺は究極の検閲です。殺されたジャーナリストのみならず周りの多くのジャーナリストも沈黙を強いられ、別の意味で殺される」(『週刊文春』2022年3月17日号)という恐るべき見解を語っている。だから、戦争を始めた時点でプーチン大統領の支持率は七十七パーセントを超えており、少なくとも外から見れば絶対の支持を固めたように見えた。
しかし、反体制のジャーナリストの活動が一応可能で野党も存在するロシアでは、そうした偏向報道によって与えられた一種の洗脳状態はいずれ必ず解消される。かつて、「鉄のカーテン」と呼ばれた徹底的な情報鎖国体制があった旧ソビエト連邦時代ならともかく、SNSつまり個人が「報道」できる体制が整備されネット情報も充実しており、昔よりはるかに簡単に情報にアクセスできる現代にこういう洗脳を維持することは、きわめて難しい。
簡単に言えば、いつか嘘はバレる。バレた瞬間に、息子はお国のために名誉の戦死を遂げたと信じていた母親は、自分の息子が自国を守るためでは無く、無理やり「切取強盗」させられ、それに当然の権利として抵抗した相手に殺されたことを知るだろうし、民衆は自分の国が二十一世紀にもなったというのにこんな驚くべき蛮行を為したことを知るだろう。
そうなればプーチン体制など淡雪のように消える。ウクライナが完全に軍事的に制圧され「ロシア領」となったとしても結果は同じだ。いずれ必ず「悪」は滅びる。〉
(前掲同誌)
つまり、私がプーチン大統領の没落を「予言」できたのは、「歴史の法則」「世界史の常識」に従ったからなのである。
この文章は、その後一字一句訂正されずに単行本『逆説の日本史 第二十七巻 明治終焉編』(2022年10月刊)に収録された。その後、文庫版(タイトル同じ。2025年7月刊)にも収録されている。つまり「アリバイ」があるわけだ。最近はすぐに人の足を引っ張ろうとする連中もいるので、念のため申し添えておく。
もちろん、この「予言」は的中したとは言えない。この稿を書いている時点でプーチン大統領はまだピンピンしているからだ。だから日付を書いたのだが、今後「ろくな死に方をしない」という可能性のなかには「突然の病死」も含まれることは述べておきたい。この連載の愛読者なら、「病死ならば自然な死に方だろう」とは思わないだろう。ソビエト連邦時代のKGB(ソ連国家保安委員会)は、「毒殺のプロ」であった。組織は廃止されても人材や技術は残る。
そもそもプーチン大統領自身、KGBの優秀な工作員だった。プーチン政権が崩壊するというのは、ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーがそうであったように、最終的に独裁者の死をもって終わるということだ。つまり、独裁者は殺されるか自死するかのどちらかなのだが、周辺の人間が彼の死に際を飾ろうとするなら「プーチン大統領は突然の発病で亡くなられた。戦争はロシア国民も苦しめるものだから止めろと遺言された」ということにすれば国葬もできるし、本人の名誉もなんとか守られる。そういう形が取られる可能性は、じつは低くは無いのである。
「反日という嘘のピラミッド」
「大統領の将来に対する予言」は、じつはもう一つある。
それは韓国の李在明大統領に対するものだ。日韓関係の歴史については前出の『逆説の日本史 第二十七巻 明治終焉編』に詳しく述べた。だが韓国があのような国になってしまった原因は、日本との交流以前にも存在する。歴史家としてそれを多くの人に知ってもらうためには新たに韓国史も書くべきだと考えた私は、『真・韓国の歴史』(幻冬舎刊)を書いた。これは雑誌連載をまとめたものでは無く書き下ろしなので、読者の目に触れたのは発行日(2026年1月28日)以降である。
そこで私は次のように述べた。
〈2025年6月には、こうした根拠のない「反日」を常に呼びかけて来た李在明という人物が、ついに大統領に当選してしまった。これも私は歴史家として断言しておこう。この人物を大統領に選んだことを歴史的な誤りであったと、韓国人が後悔する日が必ず来る、と。残念ながらその日まで私は生きていないかもしれないが。〉
いま読み返してみると、文法的には「大統領に選んだことを歴史的な誤りであった」よりは、「大統領に選んだことが歴史的に誤りであった」のほうがいいかもしれず、文庫本に収録するときは訂正するかもしれないが、どちらの文章でも意味は変わらない。
これはプーチン大統領に対する記述と同じで、大統領当選半年後の韓国民がまだ李在明を熱烈に支持し、日本も「また反日の大統領か、手強いかもしれない」と警戒していた時期の記述である。その時点で、これが韓国人の歴史的誤りであるということを指摘した識者は、私の知る限り私以外にはいなかった。
そしてじつに皮肉な話だが、この「予言」については最後の部分はどうやらハズレそうだ。私が生きているあいだどころか、すでにこの二〇二六年八月現在、李在明大統領は次々に馬脚を現わし、プーチン大統領と同じく「岩盤層」の支持を失いつつあるからだ。
では、なぜそれが予測できたのか。
李在明は「反日という嘘のピラミッドの頂点に立っている」人物だからである。「韓国の反日」がどういう「嘘のピラミッド」なのかはここでは述べない。すでに『逆説の日本史 第二十七巻 明治終焉編』、そして『真・韓国の歴史』でも詳しく述べたところである。とにかく、李在明大統領はそうした大嘘で国民を騙し続け政権の座を得た人間なのである。
だから、ここからはプーチン大統領と同じことになる。「外から見れば絶対の支持を固めたように見え」ても、「反体制のジャーナリストの活動が一応可能で野党も存在する」韓国では、「そうした偏向報道によって与えられた一種の洗脳状態はいずれ必ず解消される」。また韓国は「SNSつまり個人が『報道』できる体制が整備されネット情報も充実しており」、「簡単に言えば、いつか嘘はバレる」ということだ。
しかし、それでも「残念ながらその日まで私は生きていないかもしれない」と述べたのは、韓国の「反日」が自由主義国家群の国にはあるまじき子供への徹底的な洗脳によるものであるからだ。
竹島は日本の領土である。これは韓国以外のすべての国が認める歴史的事実と言っていい。しかし韓国だけがあれを「独島」と呼び、「日本が我が国固有の領土を不当に掠め取った」と教育する。それも子供のころからである。
誇張して言っているのでは無い。韓国で小学校低学年にまず教えられる歌は『独島は我が領土』というもので、その歌詞には「誰がどれだけ『自分たちの土地だ』と主張しようと独島は我が領土」というようなフレーズすらある。これを子供のころから徹底的に頭に叩き込まれるわけだ。逆に言えば、日本が竹島を取り返さない限り韓国の洗脳教育は終わらないということだ。
それでも最近は韓国の若者のなかに自国の教育を疑い、公平中立な英語圏の文献などをリサーチして真実に目覚めた人たちがいる。まだまだ少数だが、若者のなかにこうした人々が出現するなど昔は考えられなかった。これもネット社会の効用と言えるかもしれない。
ところで、ロシアによるウクライナ侵略戦争、当初は予想もできなかったがウクライナが勝利するかもしれない。なぜそうなったか分析しておく必要があるだろう。
やはり勝因(というのはまだ早いかもしれないが)の第一は、ウクライナ人民がロシアの理不尽な侵略に徹底的に抵抗したことだ。戦う意志があったと言ってもいい。それが無ければなにも始まらない。選択肢としては戦わないという手もあったのだから、ウクライナがそれをせず徹底抗戦に踏み切ったことはもっと評価されてもいい。当然、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領のリーダーシップも高く評価されるべきだ。
第二に、NATO諸国がウクライナを全面的にバックアップしたことである。これでウクライナはロシアに対抗する経済力と武装を持つことができた。
第三に、最近のウクライナの戦略が見事だった。改良したドローンを使ってロシアの石油精製能力を徹底的に叩き、産油国でありながら燃料が不足するという前代未聞の事態に追い込んだ。巨大国家であるがゆえに、燃料不足はアキレス腱になる。冬場はとくに深刻だ。
ここでひとつ、新たな予言をしておこう。
ナポレオンもヒトラーも撃退したロシアの「冬将軍」を見事な戦略によって唯一味方につけた国家として、ウクライナは世界戦史にその名をとどめるだろう。
あとは、追い込まれたプーチンがヤケクソになって核兵器の使用を決断しないよう祈るばかりである。たぶん、「殿、御乱心」と周囲が止めに入るから実現はしないと思うのだが。
(「連載1500回記念特別編」・完)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『真・日本の歴史』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。
※週刊ポスト2026年9月11日号
