「言いようのない恐怖感が」新幹線車内での水分確保ができない! ワゴン販売や自販機終了で焦る乗客たち「熱中症で倒れる感覚だった」
新幹線の車内販売や自動販売機の廃止・縮小が進む中、車内で水分を確保できずに脱水症状や深刻な健康被害の危機に瀕する状況を招きかねない乗客がいたことがSNSで話題になった。JR各社は様々な理由から合理化を推し進めてきたが、猛暑が厳しい現代において、ワゴン販売や自販機の重要性を改めて考えさせられることになった。命の危険に直結しかねない新幹線の「水分枯渇問題」の実態とその背景に迫る。
【画像】新幹線のワゴン販売で「食べれない(笑)」と人気だった商品
新幹線で5時間、水分を買えずピンチ
「熱中症待ったなしの約5時間の旅が始まってしまった」
今年8月、SNS上に投稿された悲痛な叫びが大きな反響を呼んだ。「車内販売も自販機もないことを知らずに東京から博多行きの『のぞみ』に乗車してしまった」という女性の投稿は、約1000万回も閲覧された。
その後、子どもの水筒はあったので分けてもらって乗り切ったと投稿主は説明したが、同じように困った人は少なくない。かつては当たり前のように存在した新幹線内の飲料販売の廃止や縮小をいまだに知らない乗客も多いからだ。実際に同じような体験をしたという、福岡県在住のAさん(女性)は、当時の焦りをこう振り返る。
「お盆の帰省ラッシュの時でした。東京から博多へ向かう新幹線に乗ったんですが、車内に飲み物が一切売っていなくて本当に焦りました。手元にあったのは、5分の1ほどしか残っていないペットボトルのカフェオレだけ。下手に飲むと余計に喉が渇くかもしれないと思って、口をつけるのすら躊躇してしまって……」
当日は乗車率も高く、車内は混雑していたという。
「とにかく暑くて、持っていたうちわで必死にあおいで過ごしていました。まるで車内に閉じ込められたような、言いようのない恐怖感がありましたね。福岡に到着してすぐに売店へ駆け込み、水を買いました。そのとき初めて、『あ、熱中症で倒れるときって、こういう感覚なんだな』と実感しました」
熱中症は気温や湿度、睡眠不足、体調不良など様々な要因が絡んでいるが、適切な水分補給が出来ないことも大きな原因になりうる。
水分補給ができず、脱水症状に
水分枯渇は、単なる「のどの渇き」にとどまらず、時に深刻な健康被害を引き起こす。SNS上では、水分を取れない状態が続いた後、その日に脳梗塞を発症したという体験談も寄せられている。
《近鉄が遅延したため、京都駅で新幹線に慌てて駆け込み乗車しました。東京駅に着くまで一滴も水を飲めない状態が続いたのですが、その日に脳梗塞を起こしてしまった。東京駅で下車してしばらくすると、左手が急に痺れて、物が掴めなくなっていました》
もちろん脳梗塞との因果関係は不明だが、新幹線で水分を確保出来なかったことは脳梗塞のリスク要因のひとつである。一方で、脱水症状に陥ったというポストも。
《出張で新幹線に乗る際、発車時刻に間に合わせるために寝起きから飲まず食わずで駅まで走り、そのまま乗車した。結果、車内でひどい脱水症状に陥ってしまった》
総務省消防庁の発表によると、昨年5月から9月までの期間に熱中症で救急搬送された人は、全国で10万510人にのぼる。調査を開始した2008年以降で初めて10万人を超え、過去最多となった。深刻な猛暑が続く現代の日本において、新幹線移動中の水分確保は、もはや嗜好品ではなく、健康に直結する問題だろう。
さらに事態を複雑にしているのが、昨今多発する集中豪雨や台風による「予期せぬ運転見合わせ」である。
大阪府在住のBさん(女性)は、東京旅行の帰路、台風の影響で新幹線が静岡付近で一時停車するというトラブルに遭遇した。
「旅行の帰りに、静岡のあたりで新幹線がしばらく停まってしまったんです。そのとき私はペットボトルや水筒などの飲み物を一切持っていませんでした。もともと車内のトイレに行きたくなくて、乗車前から意図的に水分を控えていたんです」
幸いにも、この時の停車時間は比較的短く、深刻な体調不良には至らなかったという。しかし、Bさんは強い教訓を得たという。
「今回は運よく耐えられましたが、もし何時間も缶詰め状態になっていたらと思うとゾッとします。次に乗るときは、どんなに短時間でも絶対に水を持参しようと心に決めました」
そもそも、なぜここまで車内での水分確保が困難になってしまったのか。歴史をひもとくと、JR各社が推進してきた「合理化」が見えてくる。
残された手段は?
東海道新幹線が開業した1964年、車内には当初からワゴンによる車内販売が導入され、ほぼ同時期にサービス向上のための飲料自動販売機も設置された。
しかし、時代の変化とともにこれらのサービスは縮小の一途をたどる。東海道新幹線の16両編成では、2014年に自動販売機が撤去された。さらに2023年には、JR東海で普通車およびグリーン車のワゴンによる車内販売が惜しまれつつも終了。
JR西日本はJR東海よりも長く自動販売機の設置を維持し、「最後の砦」として機能していたが、これも今年3月末をもって完全に営業を終了した。現在、JR東海では「グランクラス」など一部車両を除き、車内での飲料購入手段は、グリーン車を対象としたスマートフォンによるモバイルオーダーのみとなっている。JR西日本でも、9月30日をもってグリーン車のワゴン販売は終了となり、JR東海同様、一部車両を除きモバイルオーダーでの販売のみになる。
JR東海はワゴン販売終了の理由について、公式サイトで以下のように説明している。
「駅周辺店舗の品揃えの充実、飲食の車内への持ち込みの増加、静粛な車内環境を求めるご意見、また将来にわたる労働力不足への対応等」
実際、人手不足や飲食物持ち込みの増加により、車内販売の売上は終了時点でピーク時の半分以下にまで落ち込んでいたと『カンテレニュース』が報道している。JR西日本も、自動販売機の廃止理由を「駅周辺の飲料販売の充実による、車内自販機の利用減少」と説明しており、民間企業としての合理的な判断であったことは否めない。
しかし、長年親しまれてきた車内販売の廃止は、単なる利便性の低下だけでなく、旅の情緒や「安心感」をも奪ってしまった。
新幹線を頻繁に利用していたという東京在住の60代男性は、かつての風景をこう懐かしんだ。
「子どもが『アイスが食べたい』とぐずったとき、ワゴンから買ったカチカチのアイスを、手で温めながら食べた記憶がありますね。
出張帰りに同僚とワゴンで冷えたビールを飲んだりもしましたね。ワゴンがなくなった時は寂しいなと思いましたよ」
こうした「旅の安心と楽しさ」が失われた今、懸念されるのは乗客の安全管理だ。現在残されている唯一の購入手段であるモバイルオーダーは、グリーン車などの一部車両に限られている。
だが、本当に熱中症のリスクにさらされやすいのは誰なのか。それは、体温調節機能が十分に発達していない子どもたちや、スマートフォンの操作に不慣れな高齢者層ではないだろうか。
車内には体調不良者向けの非常用水分などが備えられているものの、日常的な購入手段が失われたことで、乗客は事前に飲料を準備して乗車することが基本となった。
しかし、猛暑が深刻化する現代において、急な体調変化や運行遅延への不安を乗客の事前準備だけに依存せず、公共交通としての安心感をいかに維持していくのかは考える余地があるだろう。
現代のニーズに合致した夏季限定のワゴン販売など「救済策」を望む声は、単なるノスタルジーではなく、乗客たちの切実な願いかもしれない。
取材・文/小島ゆう

