【西原 哲也】高市首相が贈ったメロンをオーストラリア首相がからかった「メロンゲート騒動」……日本では全く報じられていない、その背景と意外な効果

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オーストラリア政界が、日本の高市首相から贈られた2つの最高級メロンをめぐって大騒ぎになったのは、日本でも大きく報じられた。

だが日本でほとんど報じられていないのは、これが単なる首相の下ネタ発言騒動として片づけられたわけではなく、オーストラリア政界を揺るがす大きな政治・外交問題となったその背景だ。

オーストラリアでは、米国の政治スキャンダル「ウォーターゲート」をもじって「メロンゲート」とも呼ばれている。興味深いのは、この騒動が今後、日本にとって副次的なメリットがあることだ。

「性的対象として扱った」

まずあらためて、今回の「メロンゲート」を簡単におさらいしておこう。

発端は今年5月、高市早苗首相がオーストラリアを訪問した際にさかのぼる。高市首相はアルバニージー首相に静岡県産の高級クラウンメロンを贈った。オーストラリアが今年1月に日本産メロンの輸入が解禁されたことを踏まえ、輸出拡大への期待を込めたものだった。

問題が起きたのは、その約2カ月後だ。

アルバニージー首相はコメディアンのニッキー・オズボーン氏のポッドキャストに出演。外国の要人から受け取った変わった贈り物について話す中で、高市首相からメロンを2つもらったことを紹介した際、「メロンを2つもらった」といった言葉を口にしながら、両手を胸の前に出した。

英語で「Melons」は女性の乳房を指す俗語でもあることから、「日本初の女性首相を性的対象として扱った」と批判が集まった。

野党による格好の攻撃材料に

一国の首相が、コメディー番組に登場するのは通常、国民からの親近感上昇を狙って戦略的に練られたものだ。日本でも、首相がコメディー番組などに出演することはある。

故・安倍晋三氏が生前、首相在任時にコメディー番組に出演した際にゴルフの話題になり、タレントの北野武氏から「トランプ大統領はインチキしそうだ」とジョークを振られた際には、安倍氏は笑いながらも「誘い」に乗らず、「日米関係を悪くするようなことは言わないでください」と、うまく切り返していたのを思い出す。

だがアルバニージー首相は今回、オズボーン氏の「誘い」に乗ってしまうという大失敗を犯した。だがアルバニージー首相は性的な意図を否定して謝罪も拒み、失言の後始末もお粗末だった。

オーストラリアの政権与党の労働党は本来、ジェンダー政策を進め、女性の政治参加を重要政策として掲げてきた。アルバニージー首相自身も「女性が過半数を占める初の連邦政府」と胸を張ってきた。

その党を率いる首相がこういう発言をしたことで、今回の騒動は野党による格好の攻撃材料となったわけだ。

3ヵ月後に話がこじれだした理由

実は日本政府は当初、この問題を外交問題にするつもりはなかった。日本側は約1カ月にわたり沈黙を守った。

日本政府は外交ルートで、アルバニージー首相に「悪意はなかった」とし、「オーストラリアメディアが先に進めるよう」、日本側から行動を起こさない意向を示していた。

日本政府は、高市首相が訪豪した5月の首脳夕食会は非常に和やかで、両首脳の信頼醸成につながったと強調した。日本側は1カ月間、むしろ騒動の火消しに回っていた。

しかし、ここからさらに話がこじれだす。

7月末、ジャパン・タイムズでアルバニージー首相を批判する論考が出て、それがオーストラリアン紙にも転載される。さらに8月10日には、元駐豪日本大使の肩書を持つ外交評論家、山上信吾氏もオーストラリアン紙に寄稿し、アルバニージー首相の軽口は、これまで築かれた日豪両国の緊密な絆を損なうものだと批判した。

これがトップ紙面に掲載されて一気に政治案件化した。ガーディアン紙も今回の騒動の経緯について、「本格的に動き出した」のは山上氏の寄稿後だったと整理している。

興味深いのは、日本の外交当局は騒動を鎮静化しようとしたにもかかわらず、現職ではない元駐豪大使が問題提起したことで、「単なる一部メディアの批判」から「日豪外交の問題」に格上げされた形になったことだろう。

非公開の外交文書がメディアに漏洩

これを政治的攻撃に利用したのはオーストラリアの野党だった。

山上氏は「謝罪要求」をしたわけではなく、外交上の礼節と相互尊重の問題として論じただけだが、駐豪大使時代からメディアで積極的に発言してきた山上氏まで怒っているとして、「日本に謝罪すべきだ」という声が噴出した。

そこで今度はさらに別の問題が沸き起こった。

日本政府がオーストラリア政府側に「この問題を大きくする意図はない」と伝えた非公開の外交文書がオーストラリアの国内メディアに漏れたことである。野党はこの漏洩に関して、連邦警察の捜査を要請したほどだ。

万が一この外交文書漏洩が、湧き上がる政権批判に耐えられず、国内政治上の火消し材料として外部に「政権がわざと漏らした」のだとすれば、これは単なる失言騒動では済まなくなる。

外交では、同志国が「ここだけの話」として伝えてきた情報を守ることは、信頼関係の一部だろう。しかも現在の日豪関係では、安全保障やインテリジェンスに関する極めて機微な情報の共有も増えている。

今回流出したのが一見些細な「メロン騒動」に関する文書だったとしても、日本から見れば「政治的に都合が悪くなれば内部文書が漏れる国なのか」という疑念につながりかねない。

アルバニージー首相がメロンについてジョークを言ったこと自体は、時間がたてば忘れられただろう。日本政府も、実際それを望んでいた。

しかし、それを証明しようとする過程で外交文書を表に出したことで、情報管理と政府の信頼性を問う問題へと格上げされてしまった形だ。

アルバニージー首相は墓穴を掘った形になったのだ。

国民の26人に1人が1年で日本へ

実は現在、日本とオーストラリアの関係は、戦後で最も近いと言っても過言ではない。

安全保障面では「準同盟国」と呼ばれるほど協力が深まっているが、両国を結びつけているのは防衛や外交だけではない。人と企業の往来も、かつてないほど日常的になっている。

象徴的なのが、人の移動だ。2025年にオーストラリアを訪れた日本人短期渡航者は約42万3000人に上り、前年から6%増えた。

一方、日本を訪れたオーストラリア人は約105万8000人と、初めて年間100万人を突破した。人口約2800 万人しかいない国から年間100万人以上が日本を訪れている計算であり、単純計算なら国民の約26人に1人が1年の間に日本を訪れたことになる。

スキーや観光だけでなく、出張、留学、ワーキングホリデー、親族訪問など、両国間の往来は幅広い層に広がっている。

オーストラリアには2025年10月現在、10万5000人を超える日本人が暮らしている。海外に暮らす日本人の国別ランキングでは、米国が1位だが、オーストラリアは最近中国を抜いて2位に浮上した。

日本は豪州の大投資国

企業関係も深い。オーストラリアに進出する日系企業は2025年10月時点で800社以上と言われる。

かつて日豪経済といえば、日本が石炭やLNG、鉄鉱石を買い、オーストラリアが自動車や機械を買うという資源貿易のイメージが強かった。

しかし現在は、不動産、金融、保険、食品、小売り、再生可能エネルギ分野などへ日本企業の活動範囲が広がっている。2025年末時点の日本からオーストラリアへの投資残高は2864億豪ドルで、日本はオーストラリアにとって第4位の投資国である。

つまり現在の日豪関係は、首相や外相、防衛当局者同士の関係が近いというだけではない。

観光客が行き来し、学生が学び、企業が投資し、10万人を超す日本人がオーストラリア社会で生活する。政治、安全保障、経済、そして市民生活という複数の層で、両国の結びつきが同時に深まっているのだ。

5月の高市首相訪豪でも、エネルギー、防衛、重要鉱物などをめぐる協力強化で合意した。

そのため、今回の程度の失言で日豪関係が壊れることはあり得ないのは確かだが、オーストラリアも日本が重要なパートナー国だと分かっているからこそ、大騒動になった側面がある。

これが他国の女性首相であればこれほど大騒ぎにはならなかったかもしれない。

高市首相が贈った2つの高級メロンは、もともと日本とオーストラリアの関係前進を象徴する贈り物だったが、アルバニージー政権のジェンダー政治、日本の贈答文化への無理解、そして外交機密管理の問題を次々とあぶり出し、実にオーストラリアらしい政治を映してしまった。

しかしながら、実は日本にとって副次的なプラス面があるとも筆者は思っている。

今年1月に日本産メロンのオーストラリア輸入が解禁されたことは前述したが、今回の騒動が莫大な広告効果になり、今後日本産メロンはオーストラリアで爆発的な売れ行きを示すだろうということだ。

そして付け加えるなら、今後の広告戦略としては「2個セット」で売ればさらに効果的に違いない。

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