紅プリンセスの園地を確認する二宮さん。西日本豪雨では一部の土砂が崩れた(愛媛県宇和島市で)

写真拡大 (全2枚)

国と県が連携調査

 愛媛県が開発した高級柑橘(かんきつ)「紅(べに)プリンセス」が中国に流出した可能性が強まり、国と県が連携して調査に乗り出した。

 苗木の開発中だった2018年の西日本豪雨時も奇跡的に被災を免れ、昨春に本格販売が始まったばかりだった「復興のシンボル」。ブランド品種の海外流出は近年相次いでおり、生産者は再発防止を求めている。(松山支局 洞井宏太、宇仁菅玲香)

品種登録のさなか

 「西日本豪雨の絶望を希望に変えた奇跡の品種。中国への流出疑義は本当に残念に感じている」

 愛媛県の中村時広知事は6月30日の県議会でこう述べ、紅プリンセスの流出に強い怒りをにじませた。

 中国への流出疑惑は、農林水産省が昨年7〜9月に実施したインターネット調査で浮上した。中国の種苗を扱う販売サイトで、紅プリンセスを指す「愛媛48号」「紅公主」という名称の果実、苗木が販売されていることが確認された。

 県産ブランドを巡っては20年頃、独自開発した高級柑橘「紅まどんな」とみられる商品が中国のサイトで販売されていることが国の調査で明らかになった。これを受け、県は紅プリンセスの苗木の流出を防ごうと、販売や栽培は県内の許諾業者に限り、海外からの視察を全て断るなど徹底した対策を取ってきた。

 さらに、中国で英語名の商標登録を済ませ、品種登録をしていたさなかだった。県によると、流出ルートは確認できていない。

 協力要請を受けた鈴木農相は6月22日の記者会見で、「県が中国で証拠の収集や警告状の送付、訴訟などを行う場合に必要な支援を適切に行う」と強調した。

 中村知事は7月23日の記者会見で「国際的なルールの中で交渉を進めてもらうのが一番大きなポイント」と述べ、国との連携に期待を示した。

生産者憤り

 紅プリンセスは、紅まどんなと高級柑橘「甘平(かんぺい)」を交配させ、ゼリーのような紅まどんなの食感や甘平の濃厚な甘みを兼ね備える。県が開発に着手したのは05年。数千本の苗木を組み合わせるなど試行錯誤し、20年かけて生み出した新品種だ。

 開発が佳境を迎えた18年7月、西日本豪雨が発生した。県内では急傾斜にあるミカン畑で土砂崩れが相次ぎ、品種開発の拠点・県みかん研究所(宇和島市)も、畑の3分の1以上が土砂にのまれたが、紅プリンセスの苗木180本は無事で、22年に品種登録された。

 県によると、24年度は938人が計約96ヘクタールで紅プリンセスを栽培し、180トンを生産したという。宇和島市吉田町の柑橘農家、二宮喜信さん(56)は新品種を探す中、気候や園地の特性に合った紅プリンセス約150本の栽培に3年前から乗り出した。

 今年3月にようやく実を付け、約100キロを初出荷したばかりだ。二宮さんは「生産者が流出を防ぐのは難しく、国がきちんと対策を講じてほしい。『仕方ない』で終わらせてはいけない」と注文を付けた。

シャインマスカット、べにはるか…50種持ち出し可能性 

 近年、国の調査で海外に持ち出された可能性がある果物などのブランド品種は、ブドウ「シャインマスカット」やサツマイモ「べにはるか」など約50品種に及ぶ。このうちシャインマスカットは、2016年頃から中国や韓国に流出した。両国では日本の30倍近い面積で栽培されており、許諾料換算だけで損失額は年200億円近くに上るという。

 国は対策を強化しており、7月に種苗法を改正し、品種登録までの間に第三者が無断で輸出することを防ぐ仕組みを導入した。

 また、農林水産省は同月、全国農業協同組合連合会(JA全農)などがつくった合弁会社「J―PLANTS」(東京)を知的財産権の一つ「育成者権」の管理機関第1号に認定した。同社は新品種の開発者と代理契約を結び、許諾料を開発者に還元する。無断栽培を事業者と共同で監視し、訴訟対応も担う。