高市首相「睡眠3時間」の「寝てない自慢」に産業医が喝!権限委譲もできないトップが招く国家のリスク
「3時間睡眠」は国家のリスク
7月25日に閉会した特別国会で政府が新規提出した64法案がすべて成立し、27日の会見で成果を強調した高市早苗首相。しかし、改正皇室典範や改正刑事訴訟法など「国論を二分する」とされる重要な法案が次々と決められていく裏で、強い不安と不信感を抱いた国民が少なからずいたのではないだろうか。
海の日の7月20日夜10時過ぎに、高市首相が自身のX(旧Twitter)に〈総理就任以来、0時間〜3時間睡眠が常態化〉と投稿し、波紋を広げていたからだ。
ネット上では〈寝不足の頭で国家の将来を決めないでほしい〉〈自己管理ができていない証拠〉と批判が噴出。海外メディアでも報じられ、〈これだけの睡眠でまともな判断を下せるのか〉と呆れる声が寄せられる始末。
「徹夜明けの朝は、注意力が飲酒したときと同程度に落ちているといわれます。睡眠不足が常態化すると判断力が低下し、さらに感情のコントロールが効かなくなり、情緒不安定にもなる。国のトップが常に睡眠不足というのは、国家にとって重大なリスクです」
そう話すのは、産業医として20年以上のキャリアを持つ大室正志医師だ。
「僕の研修医時代は、当直明けにそのまま勤務することが医者の標準になっていて、徹夜明けで手術に臨む外科医は珍しくありませんでした。でも、自分や家族が手術を受ける場合、睡眠時間を連日3時間以上とれていない医師に任せられますか? 寝不足続きのパイロットが操縦する飛行機にも乗りたくないですよね。
総理大臣は『国のパイロット』です。毎日が徹夜明けみたいな状態の人間に、国の舵取りを任せたくないと考えるのは当然じゃないでしょうか」(大室医師・以下同)
高市首相を襲う「脳のバグ」
高市首相は現在65歳。国が推進する国民健康づくり運動「健康日本21(第三次)」に掲げられている睡眠に関する指標によると、60歳以上の「十分に確保できている」とする睡眠時間は6〜8時間とされる。首相はまったく足りていない。
そもそも、人間は「1日0〜3時間睡眠」を何日も続けられるものなのか。
「基本的には、0〜3時間睡眠では数日しか持ちません。おそらく首相は、答弁を聞いている間や移動中などに、無意識のうちに『マイクロスリープ(数秒〜十数秒の瞬間的な眠り)』をとっているのではないかと推察します。みのもんたさんが、生放送でCM中によく寝ていたといわれましたよね。そのような状態です。
3時間睡眠の伝説が残るナポレオンも馬上で寝ていたという逸話がありますが、短時間睡眠で有名な人物はどこかで細切れの睡眠をとっていることが多い。ただ、そんな睡眠では脳の判断力は回復しません」
首相も当然、眠気や疲れを感じていそうなものだが。
「動物は疲れたら動かなくなります。チーターだって狩りをやめる。でも人間は、夢中になっているとか責任を重く受け止めている場合には、脳が興奮状態になって疲れたという生体アラームを隠してしまう。こうした脳のメカニズムが、人類を進化させてきたドライブであったともいえます。しかし一方で、深刻な副作用も存在する。
過労死はまさに、この機能が影響しています。本人は疲れている自覚がまったくないまま、ある日突然、倒れてしまう。毎年11月は『過労死等防止啓発月間』ですが、このような脳のメカニズムについても最近では言及されることが増えています。
高市首相は今、『首相になった』という興奮と巨大な責任とで、完全に『ハイ』な状態だと思います。普通の人に比べて、自分が疲れていることに気づきにくくなっているんじゃないでしょうか」
とはいえ、自身の健康状態すら冷静かつ客観的に把握できないというのは、重大な責任を背負う一国のトップとしてどうなのか。
「僕もドラクエ(ドラゴンクエスト)の発売日は、徹夜していてもまったく眠くなりません。ただ、『今、自分の体内では疲れのサインが隠されていて、エナジードリンクを飲んでいるような状態なんだ』とわかっている。
これは人間特有のバグなんです。そういう脳のメカニズムを理解した上で、先回りして対処できるのが人間。『疲れていないから大丈夫』と突き進んでしまうのは、おすすめしません」
過労自慢はダサい「昭和オヤジ」
「寝不足」が美談や武勇伝として語られる風潮は、今や過去のもの。が、「昭和の中小企業のオヤジみたいなところがある」と自ら認めている高市首相は、寝る間も惜しんで仕事をすることを、未だ美徳としているのだろうか。
「首相という立場の人が『寝ていない』と公言すれば、今のご時世では医学的、社会的な側面から批判を浴びると、本来なら容易に想像がつきそうなものですよね。
’15年に高橋まつりさんの痛ましい事件が起きて、’18年に『働き方改革関連法』が成立し、今や書店には睡眠に関する本がズラリと並んでいる。そうした時代背景に少しでも敏感であれば、寝不足アピールが悪手なメッセージになると気づけたはずです」
そう指摘したうえで大室医師は、高市首相のX投稿には時代の建て前に対する過剰なカウンター(反発)があると分析する。
「首相は自分のことを『関西のおばちゃん』とも公言していますよね。上沼恵美子さんのように建て前をビシッと切り捨て、本音ぶっちゃけトークで人気を得てきた側面もあると思う。今回も半分は、建て前ばかりの働き方改革へのカウンターというノリで投稿したんじゃないか。そんな気がしないでもないですね」
首相の投稿を受け、一部の中小企業経営者から「働きたい人は働くべきだと本音が言いやすくなった」と喜ぶ声も聞かれるという。
「ただし、昔のように寝る時間を削ってでも働くという考え方ではありません。働くこと自体はいいけれども、睡眠時間はしっかり取ろうといったアスリート的な意識は、中小企業経営者の間でもかなり浸透していると感じています。
『寝ないで働け』と根性論を部下に押しつける上司も、今はほとんどいない。この10年で明らかに激減しましたね」
一人で抱え込むリーダーの限界
首相はこの投稿で、〈7月に入ってからの土日は、分厚い資料を早朝から深夜まで読み続けた〉〈閣議決定を目前に控えた文書の最終案を再度読み込むなど、明け方まで仕事に追われていた〉などとも記していた。
「ご本人は単に『自分はこんなに頑張っている』と言いたいだけなのかもしれません。でも、上司がずっと会社に残っていると部下が帰りづらくなるのと同じで、首相にその意図はなくても、周囲には強い圧として伝わってしまいかねない。『早朝から明け方まで仕事をしている』という投稿は、国民に対しても下で働く官僚に対しても、決していいメッセージとは言えません」
不眠不休の仕事ぶりに、ビジネスパーソンからは「すべてを一人で抱え込み、組織の動かし方も部下の使い方も知らない要領の悪い上司のパターン」との冷ややかな声も上がっているようだ。
「国会でも『答弁書にしっかり目を通して、自分でペンを入れている』と語っていますが、ペーパーを読むのが好きなんでしょうし、とても勤勉な方だと思います。
しかし、個人としてどんなに勤勉でも、首相の仕事をすべて自分でこなすのは無理。適切に権限委譲をしていかないと絶対にパンクします。たとえば官僚に仕事を任せられないのは、任せた後に失敗されるのが嫌だからでしょう。
そういった不確定要素に耐えられる度量が、世間ではリーダーの器の一要素として評価されます。高市首相はどうでしょう。プレイヤーとしては優秀でも、組織のトップとしては課題があると感じざるを得ません」
高市首相は自民党内で自身の派閥を率いた経験がなく、政治信条が近い安倍晋三元首相からの強力な後ろ盾を受けて閣僚などの要職へ登用されてきた。そのキャリアにも、組織を率いるスキルの乏しさの一因がある、と大室医師は見る。
「組織を率いることに関しては経験がないゆえに未熟で、首相の広大な干渉範囲のすべてを自分一人で抱え込むしかなくなっている感じがします。自らのマネジメント体制を組み直してはどうでしょうか」
夜な夜な書類の山に赤ペンを入れる傍ら、Xへの長文投稿を重ねる昭和型モーレツスタイルは、もはや称賛の対象などではなく国家のリスクでしかない。
「かつては、夜の酒席で重大な商談が決まるといった時代もありました。
今の経営者たちは違います。しっかり睡眠をとり、一番頭が冴えている午前中に大事な経営判断を下す。それがトレンドであり常識です。
高市首相にも、国家の命運を左右するような決断は、しっかり寝た後のクリアな頭で下してほしい。産業医としても、一国民としても、それを願います」
▼大室正志(おおむろ・まさし)産業医。大室産業医事務所代表。’05年、産業医科大学医学部医学科卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医、医療法人同友会産業医室勤務を経て、’18年に独立し現職。現在、約30社の産業医業務に従事。著書に『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)。
取材・文:斉藤さゆり
