69歳の“伝説的漫画家”に逆プロポーズ、相手からは「結婚は無理。常識を考えろ」と…“41歳差婚”をした女性漫画家(44)が、それでも結婚できたワケ〉から続く

 28歳のとき、41歳年上の伝説的漫画家・真崎守氏と結婚した漫画家の恋池りもさん(44)。結婚から3年後には真崎氏が認知症を発症し、10年以上、介護と仕事の両立を続けている。

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 そんな2人の日々を綴ったエッセイ漫画『だからわたしは41歳年上の夫と暮らしてます』を上梓した恋池さんに、認知症が発覚した経緯や、「俺が邪魔になるんだったら、いつでも捨てなさい」と言っていたという真崎先生の真意などについて、話を聞いた。(全5回の4回目/5回目に続く)


恋池りもさん ©佐藤亘/文藝春秋

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「今だとモラハラだと思いますけど…」41歳年の差夫婦の“ジェネレーションギャップ

――一緒に生活するようになって感じたジェネレーションギャップはありますか。

恋池りもさん(以下、恋池) 昭和初期生まれの男性っぽさというか、待ち合わせにちょっとでも遅刻すると、「年上を待たせるなんてどういうことだ!」ってすごい剣幕で怒ったり。

 あと、食卓につまようじを出してなかったら、「この家はつまようじも出さんのか!」みたいな。今だとモラハラだと思いますけど、私も絶対、「使う人が持ってくればいいでしょ!」って怒鳴り返すんで。

 で、先に怒鳴ってきたのは向こうなのに、私が怒鳴り返すと部屋に鍵をかけて布団をかぶっちゃうから、私が外からよじ登って窓から入って、「まだ話は終わってない!」みたいな(笑)。

――どっちもどうかしてますよね。

恋池 やばい夫婦ですよね。そんな感じでしたね。

――逆に、ジェネレーションが違いすぎるから楽みたいなところも。 

恋池 私は昔から流行りについていけない若者で。女子同士が固まって「これかわい〜」とかやってるのにも全然乗れなかったんです。

 だから、ギャップがある方が楽っていうのはありますね。お互いわからないのが当然なんで。

「ここで待ってろって言っただろ!」と怒り出し…先生の認知症が発覚した経緯

――「お互いわからない」というところでお聞きしたいのですが、どういったタイミングで先生の認知症に気づいたのでしょう。

恋池 電化製品の説明をしてて、何度も同じことを聞いてきたことがあったんです。「おかしいな」と感じたときに、芋づる式にいろいろ思い出したんですよね。

 一緒に買い出しに行ったときもフラフラッて1人でどっか行っちゃって、戻ってきたと思ったら、「ここで待ってろって言っただろ!」と怒り出したこととか、こっちが「熱出して寝てる」と言ってるのに、「いつまで寝てるんだよ!」って怒鳴ってきたこととか。

 その時期、似たようなことでケンカが増えてきて辛かったこともあってすぐ病院に連れて行ったら、「アルツハイマー型認知症」と診断が出ました。

本人にも「おかしい」「自分はどうなっちゃうんだ」という不安があったんじゃないかな

――2013年、恋池さんが31歳、真崎先生が71歳のときに診断が出たということですが、そこから安心した面もありますか。

恋池 そうですね。モヤモヤして不安だったときのほうがしんどかったし、診断がつけばこちらも対処する方向で動けるというのもありますし。

――先生本人にもすぐに認知症ということは伝えて。

恋池 一緒に医師から説明を受けたので、その場で聞いてました。でも、分かってんのか分かってないのかっていう感じで。

 ただ、その前に突然夕方にフラフラッといなくなることがあって。先生はこれまでも悩み事があると散歩して解決するというか、歩いて自分の気持ちを静めることがよくあったんです。

 だから本人的にも、「おかしい」「自分はどうなっちゃうんだ」っていう不安があったんじゃないかなと思います。

「私が認知症を治してやる!」怪しい健康法にすがり、高額な野菜を買ったことも…

――投薬治療をはじめたそうですが、どんな変化がありましたか。

恋池 薬のせいなのか、なだらかに少しずつできることが減っていくような感じで。

 ちょっと遠くのスーパーに行けなくなり。でも、まだ近くのお店は大丈夫。で、そのうちに近くのお店にも行けなくなってしまって。先生は料理が得意だったので、最初のうちは言われたら包丁で刻むことはできたけど、そのうち説明しても難しくなっていきましたね。

――近くで先生の変化を見るのはつらかったのでは。

恋池 それこそ最初の2年ぐらいは、「私が認知症を治してやる!」くらいの勢いで、1人でめちゃくちゃ抗ってたんです。怪しい健康法にすがって、すごい高い野菜を買ったりもしました。

 でも今思えば、そうやって忙しくすることで、悲しみやショックを感じないようにしてたんですけど、結局それで倒れちゃって。

両親に相談したら「ちょっと悲劇のヒロインぶりすぎ」と言われ…

――恋池さんが倒れてしまったんですか。

恋池 そうです。道端で倒れちゃって。で、家に帰ったら今度は涙が止まらず、パニック障害みたいな感じになっちゃったんですね。

 当時は、漫画もやめて生活費を稼ぐための仕事に切り替えて、2度と心から笑えなくてもいいから、とにかく先生との生活を守るためだけに生きていこう、みたいな感じだったんですよ。

 で、周りに相談することもなくそんな勢いで2年くらいやってたら限界がきて、両親のところに駆け込んだんです。

――両親はなんと?

恋池 親は私が漫画をやることに賛成していたわけじゃないんですけど、そのとき、「漫画は続けなさい」って言ってくれて。で、「最悪、今住んでいる家を売ればどうにかなるでしょ。あんた、ちょっと悲劇のヒロインぶりすぎ」と、客観的な意見がもらえたんですよね。

 それで楽になって、アシスタントや知り合いの先生にも相談するようになり、仕事を紹介してもらったり、サポートとつながることが出来た感じです。

「私が帰ったらいなくなっていて」誕生日祝いのケーキを買い行き、初めて失踪

――行政にも相談したんですか。

恋池 途中からデイサービスを利用するようになって、かなり楽になりました。

 最初は「先生は偏屈だから嫌がるんじゃないか」とか、「プロの漫画家だった先生に折り紙とか塗り絵をやらせるのはどうなんだろう」って躊躇があったんですけど、意外にも協調性があって大丈夫でした。

――穏やかなタイプの認知症というか。

恋池 そうですね。うまく言えないんですけど、先生は自分の感覚を信じてる感じが強いんですよね。

 ほかの男性の利用者さんでわがままを言ったり暴れたりする人がいても、先生がいるとすっと大人しくなるような雰囲気をまとっているらしいです。

――一方で、徘徊することもあったそうですね。

恋池 「今日は私の誕生日なんだ」と先生に言って、そのまま仕事に出たことがあったんですけど、私が帰ったらいなくなっていて。

 私のためにお祝いのケーキを買いに行こうとしてくれたみたいなんですけど、帰り道がわからなくなっちゃったみたいで。

 ただ、そのときはまだ住所は言えたので、何度もコンビニに入って道を聞いて、その度に買い物をしたレシートの裏にメモを残しながら、一生懸命自力で次の日に帰ってきて。それが徘徊というか、家から出ていってしまった最初ですかね。

「民家に侵入して通報されたり…」

――そのときは自力で帰宅できた。

恋池 最初は自分で帰って来られてたんですけど、そのうち一切帰って来られなくなり。その度に警察に捜索願も出しましたが、それもあんまり意味がなくなっていって。

――「捜索願の意味がない」っていうのはどういうことですか。

恋池 私自身も探しに行くんですけど、それで見つかるわけでもなく。で、そのうちどっかにへたり込んで通報されたり、民家に侵入してやっぱり通報されたりってことが増えてきて、だからもう、待つしかないんだなと。

眼鏡が割れ、他人の靴を履き…ボロボロの状態で発見されたことも

――なるほど

恋池 だんだん認知症が進んでくると、スリッパで家を出ちゃったりするので、そうすると目立つから近所ですぐ見つけてもらえるようになったんですけど。あとはGPS端末を持たせて、それで追っかけたりもしましたね。

――見つかって帰ってくると、先生はボロボロの状態になってるのですか。

恋池 そうそう、眼鏡が割れてたりとかね。前に保護されたときは、途中で土砂降りに遭ったみたいで、発見されたときに誰のかわからない靴を履いてたんですよ。

 これを警察に言ったら盗難になっちゃうのかなと思って、そのときは言えなかったんですけど。

――サバイバル能力があるといいますか。

恋池 たくましいなと思いました。きっと履いていた靴がぐじょぐじょになって気持ち悪くなって、そのへんに干してあった靴を持ってきちゃったんだろうなと。

 あと収集癖があるんで、警察に保護されたときも、なぜか机の上にゴルフクラブとか、花壇に挿してある「アサガオ」ってプレートとかがいっぱい並べられてて。

――大変な状況ではありますが、ちょっとシュールでもありますね。

恋池 警察の人に「これは旦那さんの持ち物ですか」って聞かれたんですけど、そんなわけないんで、ちょっと笑っちゃいましたね。

交わした約束を守るため「先生のせいで不幸になっちゃいけない」

――徘徊もあると、いつも気を張っている感じじゃないですか。

恋池 今はもう徘徊とかはないんですけど、介護で寝不足なので、それがつらいですかね。

――そうですよね。

恋池 でも、先生のせいで不幸になっちゃいけないなと思ってて。先生は最初からずっと、「自分のやりたいことをやれよ」って言ってたんです。で、「そのために俺が邪魔になるんだったら、いつでも捨てなさい」って。

 だから、「介護のせいでやりたいことができない」っていうのだけは言っちゃいけないと思ってるし、そうなるぐらいなら先生を捨ててでも、先生と交わした約束を守ろうと思ってるんです。

撮影=佐藤亘/文藝春秋

〈「私はまたいい人を見つけて、再婚します」伝説的漫画家と“41歳年の差婚”→3年後に夫が認知症→10年以上介護…女性漫画家(44)が明かす、夫婦の“知られざる約束”〉へ続く

(平田 裕介)