半身まひ88歳夫が認知症87歳妻を「超・老老介護」、後期高齢者同士が4割近く…根強い「家族の責任」
[ケアラーの風景]超・老老介護<上>
75歳以上の後期高齢者が介護し、介護される。
「超・老老介護」と呼ばれる。要介護者と介護者(ケアラー)が同居している場合の約4割が該当する。65歳以上同士の「老老介護」と比べて、健康面や経済面の不安が大きい。超高齢化時代に支援のあり方が問われている。
「体が思うように動かない自分にも、認知症の妻にもイライラしてしまう」
鹿児島県内の男性(88)は、そう打ち明ける。夫婦2人暮らし。男性は右半身がまひしていて、妻(87)は認知症の症状が徐々に進行している。
男性が71歳の時、関東地方から夫婦の故郷である同県へ戻った。5年が過ぎた頃、男性は脳梗塞(のうこうそく)になり、後遺症で右半身が動かなくなった。利き手の右手が使えず、車の運転ができなくなったが、妻が支えてくれた。
その妻は約5年前に認知症を発症。だんだんと物忘れや失禁が増えた。男性は不自由な体に加え、持病の糖尿病の治療も続けながら、妻の通院の付き添いや下の世話、料理や洗濯などの家事に追われるようになった。「朝、自分の着替えと洗顔だけで40分以上かかる。とても続けられないと思った」
昨年、夫婦で介護のサポートを得られる同県内の賃貸マンションに引っ越した。現在、男性は要支援2、妻は要介護2。公的な介護保険のサービスでは足りない妻の入浴介助や食事作りなどは自費で依頼することにして、男性の負担は減った。
だが、妻の症状は日に日に悪化していく。マンション内で迷子になったり、IHコンロのスイッチを付けっぱなしにしていたり。そのたびに対応に追われて、神経をすり減らす。「明るく、てきぱきとした昔の姿が記憶に残っている。それだけに、つい『なんでだ』と、とがめてしまう……」。男性は寂しげな表情で言う。
厚生労働省が7月に発表した国民生活基礎調査によると、要介護者とケアラーが同居しているケースのうち、いずれも75歳以上の「超・老老介護」は2025年時点で37・1%。調査を始めた01年の18・7%から倍増し、過去最高だった。「人口の多い1947〜49年生まれの団塊世代が75歳以上になったことと、高度経済成長期以降に核家族化が進んだことが主な要因だ。後期高齢者同士の介護は今後も増えていくだろう」と、同省の担当者は話す。
東京都内の男性(78)は首の骨が変形する病気を抱えながら、約2年前からパーキンソン病に似た難病「多系統萎縮(いしゅく)症」の妻(75)を在宅介護している。妻は体に力が入らず、歩くことも箸を持つこともできない。言葉もスムーズに出てこなくなり、うまく話せなくなった。要介護4で、訪問ヘルパーに毎日おむつ交換をしてもらい、デイサービスに週2回通って入浴支援などを受けている。
それでも男性の介護負担は軽くない。昨年受けた首の手術で手のしびれやふらつきの症状が残る中、妻の体をベッドから車いすに移したり、料理を作って食べさせたりする。男性介護者の会に参加し、「今まで家事も育児もすべて妻に任せきりにしてきた償いをしたい」と試行錯誤する。
妻に介護施設への入所について尋ねたことがある。気が向かない様子で、「自由がないし……」と返ってきた。「今後、一体どうなるか分からない。最善の選択をしたいが、この体でいつまで介護を続けられるだろうか」
高齢のケアラーは自身の健康に課題を抱えながら、家族の世話をしている。7月発表の国民生活基礎調査では、80歳以上の約3割、70代の約2割のケアラーが、自身の体調について、「よくない」「あまりよくない」と答えた。
日本福祉大教授の湯原悦子さん(司法福祉論)によると、超・老老介護では、ケアラー自身が要介護状態のケースも珍しくない。認知症同士の「認認介護」や、限界に至っての虐待や殺人といった深刻な問題も起きている。
「背景には、高齢世代を中心に根強い『介護は家族の責任』という価値観がある。ケアラーが負担を抱え込み、疲弊し、将来を悲観してしまっている」と指摘する。その上で、「国や自治体が、法律や条例を制定し、ケアラーを社会全体で支えるという意識啓発を積極的に進めるとともに、ケアラーの心身の状態を把握し、適切な支援につなげる仕組みを講じていくことが求められる」と話している。
