走り込みをやめ「ボディビル大会」を開催!? 仙台育英には初「女子部員」も…これが令和の高校野球!
有望中学生の進学先が数年後の勢力図を占い、スカウティングの勝者が甲子園を制するのが令和の高校野球だ。
「このままでは高校野球が衰退する」(高知・明徳義塾、馬淵史郎監督)
過熱する高校野球のスカウティングに警鐘を鳴らす。
令和の時代の中学生は、甲子園への行きやすさだけでなく、自分が一番成長できる環境であるかどうかで、進学先を選択する。グラウンドの広さや室内練習場の有無、トレーニング器具の充実度に加え、寮が何人部屋であるかも重要な要素だ。
走り込みよりサウナ
恵まれた環境の学校もあれば、西東京大会を制した八王子実践のように、内野ほどのグラウンドしかない野球部もある。同校の部長・恩田宣男(60)は言う。
「(強豪の)女子バレーボール部とは違って野球部は強化指定の部活動ではありませんし、練習も2時間しかできない。外野ノックもままなりませんし、平日は個人練習しかできません。全体練習や実戦練習は週末、私が運転するバスで出かけた遠征先でやります」
監督である河本ロバート(40)は同校を卒業後、亜細亜大を経て、ドジャースとマイナー契約を結び、帰国後も独立リーグを経験したジャーニーマンだ。ロバートは、ユニークな手法で強化を図った。
「(投手出身の)ロバートは走り込みが大嫌い。練習で選手を走らせるにしても短い距離のダッシュぐらい。夏のスタミナ対策は、サウナに入って毛穴を広げて血流量を上げたり……要するに根性論ではない形でやっています」(恩田)
選手たちから「ロバートさん」と呼ばれ親しまれる監督は、主に冬場、ウエイトトレーニングを選手に課し、とりわけ筋トレの「BIG3」と呼ばれるベンチプレス、スクワット、デッドリフトの重量に目標基準を設けている。昨冬には成果発表の場としてボディビル大会を実施した。ロバートがその狙いを語る。
「トレーニング意識を高め、人に見られるということも体感してもらいたかった。そのボディビル大会で一番輝いていたのが、金子でした」
昨秋までベンチ外だった金子侑樹はBIG3の数値がチーム1を記録し、最後の夏にベンチ入りを果たす。甲子園の初陣となる鳴門渦潮(徳島)戦では0対1で迎えた9回に代打で登場。同点打を放って、勝負をタイブレークにまで持ち込んだ。努力は裏切らないことを監督に、そして仲間に証明してみせた。
「身体がものすごく強いので。思い切り振らなくても打球は飛ぶ。『コンパクトに』とだけ伝えたところ、(逆方向となる)右中間に打ってくれました」
能力を数値化してアナライズ
この夏、開幕戦に登場し、甲子園に爽やかな風を吹き込んだのが、仙台育英の女子マネージャー兼学生コーチである星よつはだ。初戦から選手と同じユニフォームを着てベンチ入りしたが、役割は記録員にとどまらない。
「試合中に相手投手の配球の特徴などを打席に向かう選手たちに伝えています。相手の投手が交代したら、『前のピッチャーより○△km/h速いよ』とか……須江(航)監督(43)に質問されても答えられるように備えています」
巨人や西武でプレーした孝典さんを父に持ち、父と同じ高校に進学し、同校史上初の女子部員として入部を果たした。父も立った甲子園を仲間と共に目指し、時には選手に嫌われるようなことも口にしなければならない。
高校時代にGM(グラウンドマネージャー)の経験を持ち、情報科の教師である須江は、野球の能力を数値化してアナライズ(分析する)ことに長け、それを″日本一の競争″と自負する部内競争に生かしてきた。そういうアナリストの役目も星は担う。
「投手ならストライク率や防御率など基本的な数字を出すのは自分の仕事ですし、打者なら打率、出塁率に加えて、須江監督は助進塁率を大事にされています。要は走者の進塁を助ける打撃ができたかどうか、ですね。日本一の競争において、こうした数値は評価を視覚化、可視化できる手段だと思います」
卒業後のことや将来の職業については今のところ考えていない。’22年夏以来2度目の甲子園制覇を果たすことしか彼女の頭の中にはなかった。
これが令和時代の高校野球だ。莫大な資金を投入してグラウンドや室内練習場を整え、一人部屋の寮を完備する学校も増えてきた。移りゆく時代によって高校球児の練習法や寮生活、戦術も多様に変化を遂げている。
『FRIDAY』2026年9月4日号より
取材・文:柳川悠二(ノンフィクションライター)
