【原田 泰】日本人だけが知らないうちに「増税」されている…!インフレで起きる「隠れ増税」と、5兆円減税ができる本当の理由

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税率を上げなくても「増税」は起きる

昨今、高市早苗政権が打ち出した食品消費税減税に対して「財源がない」との批判が高まっている。しかし、この議論、私には奇異に映っている。なぜなら、前編で見てきたように日本の税収はこの十数年で急増しているからだ。

【前編はこちら。『税金取りすぎにもほどがある…!日本の税収が「40兆円」も激増、それでも「消費減税の財源がない」という奇妙な話』

政府の一般会計税収は過去13年間に40兆円以上も増加。対GDP比でも約4%も上昇した。当然だが、財政赤字も縮小傾向である。財政赤字の対GDP比は同期間で4.5%も縮小している。

これだけ国民や企業から政府に移るお金の割合が増えている以上、現状は実質的な「大増税」と呼ぶべき状態にある。

では、なぜ実際に税率を大幅に引き上げていないにもかかわらず、これほど税収が増えているのか。

その大きな理由が、名目GDPの拡大による「自然増収」である。

そして、インフレによって所得税の負担が知らないうちに重くなる「ブラケット・クリープ」という、もう一つの罠もある。

この「隠れ増税」の実態を見れば、5兆円規模の消費税減税を「財源がない」の一言で退けることが、本当に妥当なのかが見えてくるだろう。

税収はGDPの増加によって激増した

税収は名目GDPの増加によって急激に増加している。名目GDPが減少しない限り、これは恒久的に続く税収増である。

制度的に増税をしなくても増加する税収は「自然増収」である。

ところが、過去、財政学者は「自然増収」は恒久財源ではないと主張してきた(たとえば、一橋大学長、政府税制調査会長も務めた財政学の泰斗、石弘光教授は、「税の自然増収に頼るな!」とのべている。石弘光『税制改革の渦中にあって』第1章3、岩波書店、2008年)。

しかし、2000年代に税収が落ち込んだのはデフレで名目GDPが減少したからである。

表1に見るように、名目GDPは2002年の530,5兆円から2012年の504,5兆円まで減少した。主要国の中で、名目GDPが減少するような状況になった国は日本しかない(原田泰『検証 異次元緩和』第1章図1-26、ちくま新書、2025年)。

つまり、マクロ安定化政策の失敗が、名目GDPを縮小させ、税収の減少、財政悪化を招いたのである。

一方で、2020年以降、名目GDPは年率3%で増加している。

高市政権は3%以上の成長を目指しているし、高市政権を批判する石破茂前首相も首相在任時、名目GDPを1000兆円にすると、実質的には3%成長と同じことを唱えていた。

近年の成長率を見ても、今後、名目GDPが3%以上で安定的に増加することはかなり確かなことと言えるだろう。であれば、税収も安定的に増加していくのは間違いない。

インフレ下の「隠れ増税」

名目GDPが増加するとともに税収がそれ以上に伸びる、すなわち、税収の対GDP比が上昇する。

その理由は、法人税収に関しては、企業が利益を上げるようになったからである。消費税収については、消費税率を上げたからである。

5%から10%(食料品は8%)に引き上げたので消費税の対GDP比は1.9倍になっている。

消費税の引き上げは選挙と国会を通して決めたことである。しかし、所得税収の対GDP比が上昇するのは事情が異なる。

インフレになると、物価上昇に合わせて給料の額面も増えることが多い。しかし、名目の給料が上がっても、物価が上がっているのだから、実際の暮らし向きは少しも豊かになっていない。それでも名目上の給料が増えれば、より高い税率がかかる所得層へ押し上げられ、所得税の負担が重くなる。

これを「ブラケット・クリープ」という。

つまり、実質的な所得が増えていないにもかかわらず、インフレによって知らないうちに税負担だけが増えていくのである。

これは、議会を通さない増税、つまり隠れ増税だ。

隠れ増税は不純である。

名目GDPが1%増加した時、世界の先進国では税収が1%しか増加しないのに、日本では2.4%増える(この事実は、原田泰『日本人の賃金を上げる唯一の方法』197頁、図4-3-2、PHP新書、参照)。

先進国ではどの国でも累進課税を行っているので、名目所得が増えれば、ブラケット・クリープにより、所得の増加以上に税収が増えるはずだ。ところが、所得の増加と同じにしか税収が増えないということは、世界の先進国はブラケット・クリープが起きないように税率を修正しているということである。

すなわち、日本のみが隠れ増税を行っているということである。

ただし、日本政府もまったく何もしていなかったという訳ではない。

2024年度では、岸田文雄内閣(2021年10月−2024年10月)の下で、本人および扶養親族1人につき 3万円の所得税の、1万円の住民税の定額減税を行った(所得制限付き)。

所得税の減税額は1.9兆、住民税の減税額は1.4兆円、合わせて3.3兆円の減税である(24年度のみの減税)。

2025年度には、基礎控除や給与所得控除などの引き上げで、1.2兆円の減税、2026年度には0.65兆円の減税を行っている(これらは恒久減税)。

ブラケット・クリープの是正は、所得の低い人から高い人まで恩恵の及ぶ減税であるが、日本が行った減税は、低中所得層への減税である。

岸田文雄首相は、ネットで増税メガネなどと言われていたが、実は3.3兆円の一時的減税と1.85(1.2+0.65)兆円の恒久的減税を行った大減税宰相だったのである。

消費税減税の財源はある

さて、高市首相は食料品の消費税率を1%に引き下げる方針を打ち出した。政府は、そのために年5兆円規模の財源が必要になるとしている。

岸田政権時の2024年度の財政赤字は17.0兆円だが、2025年度の財政赤字は15.3兆円に減少している(内閣府の「中長期の経済財政に関する試算(2026年7月試算)」によると26年度の赤字は14.8兆円。ここでいう財政赤字は、一般会計歳出から債務償還費を除き、税収等との差を求めたものである。以下、26年度の数字は同試算による)。

高市政権になって財政赤字が減っているにもかかわらず、岸田政権とほぼ同じ額の減税で、財政破綻になるとか、財政破綻でインフレになり、円が暴落するなどの議論がなされているのは、不思議な話である。

さて、27年度から毎年5兆円ずつ財政赤字が拡大するとどうなるだろうか。

まず、26年度の国の公債等残高は1,139兆円、名目GDPは689.3兆円、公債等残高の対GDP比は165.2%(1,139÷689.3)である。

27年度以降、財政赤字は消費税減税分の5兆円ずつ増えて、毎年19.3兆円(14.8兆円+5兆円)となる(現実には26年度にも自然増収があるので、赤字はもっと少ないだろう)。したがって、公債等残高は毎年19.3兆円ずつ増加することになる。

一方、名目GDPは26年度の689.3兆円から毎年3%で増えていくとすればどうか。

10年後には、公債等残高は1,139兆円+19.3兆円×10年=1,332兆円。名目GDPは689.3兆円×1.03の10乗=926.4兆円となる。

したがって、公債等残高の対GDP比は10年後には約143.8%(1,332÷926.4)となる。

すなわち、対GDP比における国の借金は5兆円の消費税減税を行っても、10年後には現在の165.2%から143.8%へ、約21ポイント低下することになる。

少なくとも、5兆円の消費税減税を行えば直ちに公債等残高の対GDP比が悪化する、ということにはならない。

私は、この数字を消費税減税の財源があると解釈すべきだと考えている。

さらに連載記事『高市首相の財政拡大で「円安・インフレ暴走」の大ウソ…!サナエノミクス批判に決定的に欠けていること』でも、インフレと財政の関係を論じているのでぜひ参考にしてほしい。

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