NHK朝ドラ『風、薫る』史実ものなのになぜ低迷? 「無味乾燥な″恋バナ″のせい」 識者が徹底分析
「”戦犯の一人”という俳優もいる」
NHK連続テレビ小説『風、薫る』の苦戦が続いている──。
NHKの公式ホームページによると、同ドラマについて、
〈主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた二人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う──明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな二人のナースの冒険物語です〉
と、ある。
ヒロインのモデルは、日本初のトレインドナース(正規に訓練された看護師)となった大関和(おおぜきちか)と鈴木雅(すずきまさ)である。
その大関がモデルの一ノ瀬りん(いちのせりん)を見上愛(25)が。鈴木がモデルの大家直美(おおやなおみ)を上坂樹里(21)が演じている。朝ドラの王道でもある、「激動の時代を生き抜いた女性の成長物語」ということで、制作が発表されると視聴者の期待はいや増しに増していった。
しかし、初回視聴率は14.9%と前作『ばけばけ』を1.1%下回り、スタートでもたついてしまった。その後も大幅な上昇は見られず、それどころか下降が止まらず、ついに10%を割る回も出るなど、今なお低空飛行が続いている。これはいったい、どうしたことなのか。
物語を初回から改めて振り返ってみると、第4話で、りんの父親がコレラで亡くなり、第7話で結婚、出産。しかし、夫は酒乱でDVのクズ男。りんは子どもを連れて家出し、第8話で早くも離婚危機に……。わずか2話で、結婚、出産、逃亡、というハイスピードの展開に視聴者も驚きを隠せず、SNSでは〈朝ドラ史上最速の展開!〉〈“不幸”のオンパレードが、しかも怒涛の勢いで、驚き〉という声が溢れた。展開の速さに視聴者がついていけず、それが原因ともみられたが、中盤からは、逆に中だるみのような状態になり、録画なら早送りしたくなるシーンが増えてきた。
『風、薫る』の不調の原因をドラマウォッチャーでもある映画ジャーナリストの中山治美氏に分析してもらったが、
「ただただ、無味乾燥な“恋バナ”のせいです。ヒロイン2人のだらだら続く恋愛模様に“看護のほうに比重を置いてよ”と思わずにいられません。もちろん、一昔前の女性の生涯を描くにおいて、結婚相手は今以上に人生を左右しかねない重要な要素ですけど、それによって本来のテーマが希薄になるのは致命的です。またその相手がことごとく魅力に欠ける」
と、かなり手厳しい。さらに、ある俳優に対しては、こんな苦言も。
「誰とは言えませんが、明らかに“戦犯の一人”という俳優もいます。その俳優は、“こういうキャラクター設定です”と説明を受けたら、自分が想像するイメージに沿った芝居をずっと続けてしまっています。本来は共演者との化学反応で、脚本に書かれていること以上の感情や反応が出てくるものなのですが、演技経験が浅く、自分に精一杯でその余裕がない。それをサポートするのが演出家のアドバイスだったり、制作陣の環境づくりだと思いますが、それが機能しているとは思えません。
『ばけばけ』(’25年後期)の郄石あかり(23)は、相手の芝居に対してのリアクション(受けの芝居)が毎回、見ている側の想像を超えてきます。そういう演出であったのかもしれませんが本当に面白くて、それだけで朝ドラを視たいと思わせた。結果、彼女が演じるヒロインが非常に魅力的になりました」
俳優の実力は申し分ないはずなのに、今ドラマのキャラを十分に生かしきれていないという。
「企画段階からツメが甘かった」
「素材をうまく調理できなかった演出にも問題があると思います。例えば大山巌の妻・捨松役の多部未華子(37)です。彼女はこのドラマの肝になると思っていたのですが、中途半端な使い方で終わってしまった。新聞記者役の井上祐貴(30)も個性豊かな演技をする俳優なのですが、りんにしつこく結婚を迫ってフラれて終わりという、実につまらない役でした」
では、ヒロインを演じている2人の起用、演出についてはどうか。
「ヒロイン2人に対しても同じです。ずっと直美は気が強く、りんはおっとりというキャラクターのままで変化や驚きに乏しく、長期放送の朝ドラを引っ張るには面白味に欠けました。何よりコロナ禍、高齢者問題など看護の現場の重要性が問われる中でのテーマだったと思うのですが、このドラマで社会の意識を変えてやろうという気迫を受け取れない。Wヒロイン起用しかり、企画段階からツメが甘かったのではないかと思わずにはいられません。
これはNHKの責任でもあるのですが、新人俳優の登竜門だった朝ドラのイメージはとうに崩れ、近年は『花子とアン』(’14年前期)の吉高由里子(38)、『ブギウギ』(’23年後期)の趣里(35)、『虎に翼』(’24年前期)の伊藤沙莉(32)など、すでに実績のある俳優たちを起用したことで、視聴者の目も相当肥えてしまいました。ヒロインの成長に、演じる俳優自身の成長を重ね合わせて見守るような寛大な心はもうありません」
SNSでは「#反省会」が開かれているが、やはり“恋愛”と“恋愛相手”に対するツッコミが圧倒的に多く、〈直美の結婚も、りんの恋の行方も、全然気にならない。どうでもいい〉といった書き込みも見られる。“看護のパイオニア”として、激動の時代を生き抜いた看護師の成長物語のはずが、チープなラブストーリーになってしまったことで、視聴者の期待と大きなズレが生じてしまったようだ。
では、NHKの関係者はどう思っているのか。視聴率が伸びないことに驚いているというが、中には、こう話す関係者も。
「ヒロインが2人なのが最初から疑問だという声はありました。Wヒロインが『だんだん』(’08年後期)のような姉妹なら別ですが、生まれも育ちも違う2人の生い立ちを均等に描こうとすると、時間が倍必要となってきます。その分内容が薄くなってしまうのではないかと心配でしたが、そのとおりになってしまいました」
ドラマは最終回まで残すところ30回を切った。果たして、ラストに向けて神風は吹くのだろうか──。
取材・文:佐々木博之
