熊本地震の被災者を喰いモノにする“特殊詐欺グループ”の卑劣手口…警察関係者が「火事場ドロボウより許しがたい」と憤る“便乗犯罪”とは
「8月2日から熊本県内の避難住民の多い地区や、避難所等の犯罪発生が心配される地区に防犯カメラの設置を開始した」
警察庁で8月6日に行われた閣議後記者会見で、赤間二郎国家公安委員長兼防災担当大臣はこう述べた。7月28日に発生した最大震度、マグニチュード(M)7.1の熊本地震を受け、便乗犯罪への緊急対策を明かしたもの。警察庁では、被災地への対応として、空き巣の防止に向け、すでに950台のカメラ新設を決定しており、リフォーム詐欺への警戒も現地で徹底。被災地にとどまらず、デタラメな義援金を募ったり、被災者の身内や警察官になりすましたりして送金を求める詐欺への注意喚起も強化している。警察関係者は「またぞろ続発する便乗犯罪には警戒が必要」とした上で、「勢いが衰えない特殊詐欺の犯行グループは災害大国、地震大国の震災被災者にも目をつけているのです」と注意を呼び掛けている。

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“火事場”の定番
熊本地震で避難していた住民の不在民家から、エアコンの室外機を盗んだとして、熊本県警が8月8日、47歳の無職男を窃盗容疑で逮捕した。容疑は震災直後の7月30日深夜に上天草市の会社員宅から、3万円相当の室外機1台を盗んだというものだ。被害者は近所の駐車場で車中泊していた。北陸での勤務歴のある元警察幹部はこう語る。
「能登半島地震では石川県の輪島、珠洲、能登、穴水の4市町で発災の年、窃盗事件が前年の84件から178件へと2.1倍に増加。特に発災直後の1〜2月で72件と、前年の数字に迫る勢いでした。前回の熊本地震の集計でも被災地で窃盗やリフォーム詐欺が急増したことを考えると、またぞろ発生した便乗犯罪には怒りを通り越して、心から呆れますね」
警察白書によると、能登半島地震の直後に起きた窃盗事件で目立ったのは、やはり避難民方の空き巣と避難所での置き引きだった。石川県警では2024年1月1日の発災から1週間(1月10日時点)で17件、同18日時点では26件の便乗犯罪を確認。スピード集計して全国に警告を発しており、大半がやはり窃盗被害であった。
一方、前出の警察関係者は「昔から火事場ドロボウという言葉があるぐらいなので、予想はできましたが、それよりも許せないのがリフォーム詐欺なんです」と打ち明ける。消費者庁と国民生活センターの集計によると、能登半島地震では、地震発生からわずか1か月間で全国から354件の震災関連の相談が寄せられ、その3分の2が石川、新潟、富山、福井の被災4県からだった。修理を装ったリフォーム詐欺や、ブルーシートを設置する応急措置名目の便乗商法といった住宅関連が236件もあった。
「特に今は台風シーズンの到来が重なっています。10年前の熊本地震は春でしたが、今回は真夏ということで、被災住民には避難中の熱中症対策に重きが置かれていますが、今後の台風の状況によっては、ブルーシートをめぐる強引な訪問販売や口八丁の点検といった悪質商法や、確信犯による詐欺などへの警戒が重要となっていくと考えています」(同警察関係者)
台風シーズン到来
ブルーシートの便乗犯罪が目立ったのは、令和元年の台風15号だが、消費者庁関係者はこう振り返る。
「令和元年といえば、台風19号による甚大な被害が印象的です。千曲川の氾濫や川崎のタワマン浸水による電源喪失など、驚異的な風水害でした。しかしその直前、千葉県を直撃した15号では強風によるゴルフ練習場の鉄塔倒壊と、被災地域全体の屋根という屋根を覆いつくしたブルーシートが衝撃的でした」
この台風15号では、最大瞬間風速57.5メートルという、前例がないレベルの猛烈な暴風が瓦や屋根を広範囲で一瞬にして吹き飛ばし、送電鉄塔の倒壊などで房総半島の大部分が長時間停電する事態となった。千葉県だけでおよそ8万棟超の住宅が損壊。その大半が「暴風で屋根瓦が吹き飛んだ」(同県市原市の住民)という一部損壊だった。全壊が448棟、半壊は4694棟だったのに対し、一部損壊は実に7万7091棟に上っている。
このため、屋根が壊れたまま次の雨を迎えないよう、応急処置のためのブルーシートが大量に必要となり、県が国の援助分も含めて被災地に備蓄品20万枚以上を放出したものの、追いつかない深刻な不足事態に陥り、「空前のブルーシート需要が生まれた」(同警察関係者)。そこでブルーシート設置に関する便乗商法や、悪質業者のトラブルが続発する一方で、業者の修理待ちで屋根がブルーシートに覆われたまま、放置された住宅が続出する結果となった。
全国の消費生活センターへは、台風が発生した9月5日からの1週間で279件、12日から18日に375件、19日から25日で362件、26日から10月2日で328件の相談が寄せられた。警察庁幹部はこう話す。
「今回の熊本地震後は熊本南部が台風13号の暴風雨域に入ったことで、ブルーシートの設置作業が強風で阻まれる事態もありましたが、影響が懸念されるのはむしろこれからです。被災地が復興に時間を要することは間違いなく、台風シーズンの到来で悪質商法や詐欺のターゲットにされる可能性があるとみて、警戒しています」
令和の新定番とは
今回の熊本地震で警察庁は「地震に便乗した不審な電話、SNSや訪問に注意!」と書かれたチラシを作製。早い段階からの啓発に力を入れている。「その中でもキーワードが、チラシにも掲げた『SNS』なんです」(同幹部)。警察庁では熊本地震の発生を受けて、インターネットを通じた二次被害に注意を呼び掛けているが、「その手口はホップ・ステップ・ジャンプの3段階に分けて説明できます」(同前)。
能登半島地震では、SNSを悪用し、(1)慈善団体や被災地の支援者、被災者の身内、被災者本人を装う(2)義援金や募金、“投げ銭”を呼びかける(3)PayPayなどQR決済を中心とした電子決済やネットバンキングを通じた送金、キャリア決済――といったかたちで詐欺被害に誘導する投稿が大量に確認された。これを教訓に警察庁は、熊本地震発生直後から全国47都道府県警へ向け注意喚起を行い、警戒を強めている。
前出の警察関係者は「警察として把握した疑わしい募金などの悪質な偽情報をSNSのプラットフォーム事業者に提供して、即座に削除してもらうための専用窓口も設けている。日本赤十字社をかたる偽メールなど“なりすまし”とみられる義援金メールも既に複数確認している」と明かす。また前出の消費者庁関係者も「X(旧Twitter)で『母と連絡が取れない』などと嘘を投稿し、QRコードを使って金銭を詐取しようとする募金詐欺を複数確認しています」と打ち明ける。
冒頭の閣議後会見では、大臣と同席していた警察庁の楠芳伸長官が特殊詐欺、投資・ロマンス詐欺について「令和7年中の被害額は前年比約64%増の約3257億円と過去最悪となり、本年上半期の被害額も約1816億円、1日当たりの被害額が約10億円となるなど被害の拡大に歯止めが掛かっておらず、極めて危機的な状況」と言及した。拡大の一途の特殊詐欺被害を前に、被災地を狙った犯行を抑え込むことができるのか。警察の真価が問われていると言えそうだ。
岡本純一(おかもと・じゅんいち)
ジャーナリスト。特捜検察の捜査解説や検察内部の暗闘劇など司法分野を中心に執筆。月刊誌「新潮45」(休刊中)では過去に「裏金太り『小沢一郎』が逮捕される日」や「なぜ『東京高検検事長』は小沢一郎を守ったか」などの特集記事を手掛けた。
デイリー新潮編集部
