「生ごみのような臭いが鼻をつき」大屋根リング保存に55億円…解体進む「大阪万博跡地」を記者が歩く
2025年10月、半年間の会期を終えて幕を閉じた大阪・関西万博。あれから約9カ月。華やかなパビリオンの多くは姿を消し、会場だった夢洲では解体工事が進んでいる。
しかし、万博が終わったからといって、公費の投入まで終わったわけではない。大屋根リングの保存、施設の移設、そして解体――。跡地ではいまも、億単位の税金が投じられようとしている。
その現場は、いったいどうなっているのか。
■生ゴミのような臭いが漂う万博跡地
7月上旬、本誌記者は、大阪万博や夢洲開発の問題を追及してきた「おおさか市民ネットワーク」代表・藤永延代さんと夢洲を訪れた。
夏の太陽が照りつけるなか、夢洲駅に降り立つと、生ゴミのような何ともいえない不快な臭いが鼻をついた。夢洲では現在も廃棄物などの埋め立てが続いており、その臭いが駅周辺にまで漂ってくるという。
「夢洲って、淡路島みたいにもともとあった島やと思っている人が結構いるんですよ。でも違います。ご覧のように、ゴミなどを埋め立てるために造った人工島です」
藤永さんは、まず夢洲の成り立ちから説明する。
「約1800年前、大阪平野の大部分はまだ海の中でした。長い年月をかけて淀川や大和川、瀬戸内海が運んだ土砂が積もり、現在の陸地ができあがったんです。だから大阪市内、特に沿岸部は地盤が柔らかい。夢洲は、まさにその柔らかい海底地盤の上に造られた人工島です」(藤永さん、以下同)
万博閉幕後、会場跡地の再開発が進む一方、隣接地ではカジノを含む「大阪IR」の建設も進められている。
まず向かったのは、昨年10月に閉幕した大阪・関西万博の跡地だ。車を走らせると、万博のシンボルだった“大屋根リング”が見えてきた。完成時には全周約2kmに及んだ巨大な木造建築だが、解体が進み、かつての姿はすでにない。
■約350億円の大屋根リング、保存にも約55億円
一方、「万博のレガシーとして残してほしい」との声を受け、北東部の約200メートルについては保存し、大阪市が周辺を公園緑地として整備する計画が進められている。しかし、残されたリングを間近に見ると、万博開催時の輝きは薄れ、木材の一部が黒ずんで見える。
「黒く見えるのはカビですね。リングは、丸太ではなく、複数の木材を接着して一つにした“集成材”が使われています。接着剤で貼り合わせた部分などに湿気がたまり、カビが発生しているんです。
大屋根リングの建設には約350億円もかかっています。リングを含む会場建設費は、国、大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担していますから、当然、市民や国民の税金も入っています」
問題は、かかる費用は建設時だけでは終わらないことだ。
報道によれば、約200メートルを保存するための改修費と今後10年間の維持管理費には、計約55億円が必要になると試算されている。大阪市は、改修費にはチケットやグッズ販売などの収入から運営にかかった費用を差し引いて残った“運営費剰余金”を活用し、維持管理費にも剰余金や民間資金を充てる方針だ。一方、周辺の記念公園などの整備には大阪府・市が原則折半で負担し、国の交付金・補助金なども活用する方向だと報じられている。
「万博が終わった後も、リングを残すために改修費や維持管理費がかかり、さらに周辺整備には府、市や国の公費も使われることになります。そこまでして、何十億円もの費用をかけて一部を残す必要が本当にあったんでしょうか」
■「2億円トイレ」移設にさらに約1億円
さらに大屋根リングの隣へ目を移すと、万博開催中に通称“2億円トイレ”として物議を醸したデザイナーズトイレが残されていた。
「このトイレは、万博終了後に分解して譲渡する予定でした。でも、こうして引き受け手が決まらないものが残っています」
万博協会は閉幕後、施設を希望者へ“無償譲渡”する方針を示していた。建物そのものは無料でも、引き取り手が解体や運搬、再建築などの費用を負担しなければならないため、譲渡先探しは難航したという。
「万博の施設は仮設建築物ですから、別の場所でそのまま使えるわけではありません。移設するにはいったん解体し、移設先で使えるよう補強して再建築する必要があるんです」
そんななか、7月14日、大阪府がトイレの一部を引き取ることを決定した。河内長野市にある植物園「府立花の文化園」へ移設し、2027年春の供用開始を目指すという。
ところが、ここでも新たな公費負担が生じる。
「大阪府は、解体や運搬などの費用として約1億円の予算を計上しています。つまり、ここにもまた公費が使われるわけです」
しかも、“2億円トイレ”を丸ごと移設するわけではない。花の文化園の規模に合わせて縮小し、施設の一部のブロックだけを移築する計画だ。
「当然、移設しない部分をこのまま残しておくわけにはいきません。残された部分を解体するためには、また別の費用が必要になります」
約350億円を投じて造った大屋根リングを解体し、その一部を残すために、さらに費用をかける。約2億円を投じて造ったトイレは、その一部を移設するために約1億円をかけ、残った部分の解体にも費用がかかる――。
万博はすでに終わった。しかし夢洲を歩くと、その後始末と“レガシー”のために、閉幕後もなお税金が投じられ続けている現実が見えてきたのだった。
