【イオンモール爆発事故】犠牲従業員への「補償」はどうなる?再入館を認めた企業に問われる「安全配慮義務」を弁護士が解説
専門店の従業員7人が巻き込まれたイオンモール熊本(熊本県嘉島町)での爆発事故で、新展開があった。
イオン(千葉市)は8月5日、外部の専門家で構成する事故調査委員会を設置し、原因究明と再発防止に向けた調査を進めている。そして11日、現時点での調査の内容を明らかにした。
発表によると、事故当日の経緯は以下の通りだ。
・7月28日午後4時27分ごろ:地震が発生し、避難誘導を開始。
・同午後5時ごろ:避難誘導が完了。イオン側は安否確認システムを通じ、専門店の店長と従業員宛に「本日の営業中止」と「帰宅」のアナウンスを一斉に配信した。
避難後に「車の鍵や携帯電話などの貴重品を取りに行きたい」「レジを締めたい」といった再入館の要望が寄せられ、現場の判断で個別に再入館を認めていた、という事実が判明したのだ。
この結果、事故に遭ったのは負傷者26人、死者7人。このうち雑貨店「ハピタ」では、営業部長が売上金を金庫に戻すよう指示を出し、一度屋外へ避難していた従業員2人が店舗に戻って犠牲となった。
■焦点となる被災従業員への「補償の在り方」
ここで問題となってくるのは、イオンモール熊本の爆発事故で亡くなった、あるいは負傷した従業員に対する「補償のあり方」だ。芝綜合法律事務所の弁護士・牧野和夫さんは次のように指摘する。
「イオンモール熊本の爆発事故で亡くなられた、あるいは負傷された従業員の方々は、会社の指示ある、なしにかかわらず、業務遂行中やそれに伴う状況で被災していますので、政府が運営する労災保険(労働災害補償保険)の支給対象となる可能性が極めて高いです。雇用形態は正社員、契約社員、パート・アルバイト等、雇用形態を問わず、すべての労働者に適用されます」
業務中の事故で労災が認められるためには、事業主の支配・管理下にあるかを示す「業務遂行性」と業務と傷病の間に因果関係があるかを示す「業務起因性」が問われる。
今回のケースは、シフト時間中であり、地震発生後の利用客の避難誘導、店舗の解錠・施錠、安全点検作業、または事業者・責任者の管理下での一時立ち入り(貴重品回収や点検等の許可・指示含む)を行っていた状況であることから、亡くなった従業員は事業主の支配下にあったとみなされる。
台風や地震などの天災が引き金であっても、ガス爆発や建物崩落など事業場内の設備に起因して被災した場合、業務災害と認定されるのが一般的だという。
「労働災害(労災)」は仕事や通勤が原因で起きたケガや病気の総称。業務災害はその中の一つで、勤務時間中や仕事が原因で起きたトラブルを指す。これにより、亡くなられた従業員の遺族へは、遺族補償給付(遺族補償年金・一時金)と、葬祭料(葬祭給付)が支給される見通しだ。
■労災とは別に問われる「安全配慮義務違反」
「次に問題となってくるのは、会社の指示や管理体制に落ち度があったのかどうかです。『安全配慮義務違反』があったと認められる場合は、労災保険の給付とは別に、会社側に対する民事上の損害賠償請求の対象にもなり得ます。労災補償(労災保険)と会社への損害賠償請求は、どちらか一方しか選べないものではなく、併用して請求できます。ただ同じ損害について二重に受け取ることはできず、労災保険で支払われた分は会社への賠償額から差し引かれます」(牧野弁護士、以下同)
「労働契約法第5条」に基づき、事業主(企業)は従業員の生命や安全を守る配慮を行う義務を負っている。地震そのものは自然災害だが、以下のような点があった場合、「安全配慮義務違反」が問われ、労災保険給付とは別に企業側に対する民事上の損害賠償請求が生じる可能性が高まる。
「地震直後のガス漏れや構造物の倒壊など、『二次災害の危険性』を予測できたかどうか。立ち入り制限や退避指示を徹底すれば事故を防げたにもかかわらず、私物回収や現場点検などのための再入館を認めた・指示した判断に落ち度(過失)があったか。という二点が検証されることになるでしょう」
仮に企業の避難誘導基準や再入館の判断に落ち度、過失があったと認められた場合、企業側は遺族や被災した従業員に対し、労災保険ではカバーしきれない慰謝料や逸失利益などの損害賠償責任を負う可能性がある。
過去の東日本大震災などの裁判例でも、天災後の避難指示や二次災害対策の落ち度について、企業の安全配慮義務違反が認められたケースがある。
たとえば、東日本大震災で地震発生後、津波注意報・警報が発令されていたにもかかわらず、津波の被害に巻き込まれた3つの事例が有名だ。
一つは教習生らを送迎バスに乗せて海岸方向、または津波浸水想定区域へ送迎し、教習生らが津波に巻き込まれて死亡した元自動車学校の事件。
同様に大震災発生直後、幼稚園のバスで園児らを送り届ける途中で津波に遭遇し、園児が死亡した私立幼稚園の事件。
地震発生後、校庭に約50分間留まり、その後の避難移動中に小学生たちが津波に巻き込まれた「大川小学校」の事件。これら3件の事件ではいずれも、学校・幼稚園側の安全配慮義務違反が認められた。
一方、店舗の屋上避難した行員らが津波に流された「七十七銀行女川支店事件」では、「当時の情報では屋上への避難判断もやむを得ず、津波の規模を具体的に予見することは困難だった」として、安全配慮義務違反は認められなかった。
また、福島第一原発事故後の東京電力(東電)についても、過酷な災害環境下や復旧作業中における労働者の被ばく・死亡事案において、安全配慮義務違反や労災認定が争われた裁判例が複数存在する。
「労災認定されたケースはありますが、元請・施設所有者である東電本体への安全配慮義務違反での損害賠償請求まで認められるハードルは、予見可能性(過失の有無)の点で非常に高かったのが裁判の傾向です。今回もし遺族側が提訴に踏み切ったら、予見可能性(過失の有無)の点でハードルは高いでしょう。東電のケースと同様に、各専門店の直接の雇主だけでなく、商業施設を管理・統括する事業者、イオンモール側にまでどこまで安全配慮義務、現場管理の責任が及ぶかが争点となります」
グループ会社のイオンモール(千葉市)の大野恵司社長は「会社の責任です」と謝罪し、イオンは遺族に対して法的責任の解明を待たずに早期に補償する方針を固めているが、具体的な補償内容は明らかにしていない。遺族の同意を得られるのかどうかは未知数だ。
想定外のことが起こる災害大国・日本。企業にはいま、「想定外の備え」と、従業員の命を守る判断力が求められている。
