800兆円規模と言われる人型ロボット産業でイーロン・マスクが「最大の危機」に見舞われる可能性

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工場や家庭で人と共に働く「ヒューマノイド(人型ロボット)」への期待が高まっているが、「本当に必要な作業」をこなすレベルには到底達していないように思える。「本格的な実用化までには、かなり時間がかかりそうだ」ということになろう。

【前編を読む】10兆円規模に急成長する「人型ロボット市場」の未来を決めるたったひとつの重要論点 より続く

問題は「いつの日か」ではなく「いつ」

結局、「すべてはタイミングの問題に帰する」とロボット専門家の間では考えられている。

中国製や米国製、あるいは日本製を問わず、次世代の人型ロボットがいずれは(上述した)本当に必要な「面倒で汚い」作業をこなせる段階に到達することは決して不可能とは言えない。それは「10年前は出来なかった作業が今では楽々こなせる」という研究開発の進捗ペースを注意深く観察していれば、(たとえ専門家ではなくても)誰でもそう思うだろう。

しかし、それが「いつ実現されるか(=消費者に喜んで買って貰える製品になるか)」となると、これは逆に誰にも正確には予想できないだろう。仮にスタートアップをはじめとするロボット・メーカー側が「今から2、3年後には実用化(商品化)できる」と見込んでいたとして、それが実際には10年以上もかかるとすれば、このスタートアップはそれまでに経営破綻してしまうかもしれない。

この点において、興味深いのはイーロン・マスク氏がCEOを務めるテスラの動向だ。同社は今、従来のEV(電気自動車)から今後は自動運転や「オプティマス(Optimus)」と呼ばれる人型ロボットなど、AI関連の製品へとビジネスの軸足を大きく移そうとしている。

同社は2026年つまり今年中にはオプティマスの初期製造を開始し、まずは大口の法人顧客に試験導入する計画だ。そして来年(2027年)には、一般消費者向けの市販化を目指している。つまり半ば現実離れしたスピード感をもって、ヒューマノイド事業を進めているのだ。

テスラとFigure AIのどちらが先を進んでいるか?

しかしロボット産業のアナリストやロボット工学者など専門家の見立てでは、現時点のオプティマスは(前掲のデモ動画で紹介されていた)Figure AI製の人型ロボットと比べて実作業の遂行能力で及ばないという。

実際、それを裏付けるようにFigure AI製のヒューマノイドは既に独BMWの米サウスカロライナ工場で約11か月間に渡って試験導入され、その間ゆうに3万台以上のクルマの(簡単な)溶接作業に当たるなどの成果を残している。

これに対しテスラの「オプティマス」は未だ社内テストの域を出ず、他社工場の「生産ラインに組み込まれて製品製造に関与する」というレベルに達していない。仮に、この段階で本当に今年から来年にかけて人型ロボットを商品化・発売するとすれば、それは明らかに時期尚早、かなり無理のあるスケジュールと見られても仕方がない。

テスラ、つまりマスク氏はこれまで新製品の投入時期をしばしば先送りすることで知られてきたが、仮に今回はそれをしないで予め立てた計画通りにオプティマスを製品化・販売したとすれば、いったい何が起きるだろうか?

それは恐らくテスラの短期的な株価上昇とそれに続く市場の混乱だろう。確かに同社による「自律型ヒューマノイドの量産・発売」という人類史上初の偉業によって、同社の株価ひいては株式市場は当初熱狂するかもしれない。

テスラの社運を賭けた「AI事業への転換」は危うい

しかし実際の製品(オプティマス)が一般家庭や企業の工場等に出回って使われるようになると、恐らく厳しい現実に直面することになるだろう。単に「実作業で使い物にならない」というだけでなく、家庭・工場内での人型ロボットによる人身事故や器物破損などの恐れもある。

かつて2015年にテスラが業界に先駆けて「オートパイロット」と呼ばれる事実上の「自動運転」機能(公式には運転支援機能)をリリースした際も「時期尚早」と批判された。案の定、それから間もなく「死亡事故」をはじめ人身事故が多発し、テスラは未だに被害者家族による訴訟や規制当局による厳しい調査に悩まされている。

今回のヒューマノイドでも、拙速に投入すれば同様の事態に陥りかねない。オプティマスの発売で一旦急騰したテスラの株価は、間もなく暴落する危険にさらされるだろう。

また新製品の無謀な早期投入は、Figure AIやUnitree Roboticsなどライバル企業に対し「何が上手くいき、何が駄目だったか」を教える格好のケーススタディになってしまう。結果として、「ヒューマノイドという新規市場を開拓したのはテスラだが、その果実を奪うのはライバル企業」という最悪の事態も招きかねない。

テスラがEVから(人型ロボットなど)AIへの事業転換に社運を賭けているのは誰もが知るところだが、今後マスク氏が現実に即した舵取りを行えるかどうかに、その社運がかかっていると言えるのだ。

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