住宅型有料老人ホームで相次ぐ訪問看護の不適切事案、政府が進める適正化策の落とし穴と制度の死角

写真はイメージ(mapo/イメージマート)
近年の医療・介護制度では、生産年齢人口が激減する「2040年」を視野に入れた見直し論議が本格化している。これまでは人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上を迎える「2025年」を意識した制度改革が目指されていたため、一つの節目を迎えたことになる。さらに、最近の物価上昇で医療・介護事業所は経営難となっており、これまでとは違う施策も展開されようとしている。本連載では、「分水嶺」を迎えつつある医療・介護制度の見直し論議や現場の動向を追う。
本稿では、今年の特別国会で成立した改正介護保険法のうち、利用者の相談に応じる給付である「ケアマネジメント」に関わる部分を取り上げる。
今回の法改正では、医療的ニーズの高い中重度者を受け入れる一部の住宅型有料老人ホーム(以下、住宅型)を対象に、新たな相談支援の類型が創設されるとともに、利用者から料金を徴収することが決まった。この見直しの背景を理解する上では、「現在は利用者負担を取っていないケアマネジメントの有料化論議」「住宅型を対象にした訪問看護の不適切な事案の適正化」という2つの流れを意識する必要がある。
本稿では後者に着目し、住宅型のケアマネジメント有料化が浮上した背景や不適切とされる事案の概要、さらに適正化策の難しさなどを考える。
住宅型と訪問看護の組み合わせ、不適切事案を生む仕組みとは
今年(2026年)の特別国会で成立した改正介護保険法等では、中重度な要介護者を受け入れている一部の住宅型について、相談支援業務が「登録施設介護支援」という仕組みに変わるとともに、その費用が有料化されることになった。
こうした制度改正の背景を理解する上では、住宅型を舞台にした不適切とされる訪問看護の事案を踏まえることが欠かせない。そのイメージを整理すると、図表1の通りになる。

つまり、がん末期など医療的ニーズの高い高齢者や患者を住宅型で受け入れつつ、併設されている訪問看護ステーションがサービスを提供する方法である。サービスの名称は公式に定められているわけではないため、名称は「ホスピス型住宅」「ナーシングホーム」「緩和ケアホーム」「医療特化型有料老人ホーム」などさまざまである。
要するに、不適切とされる事案は「住宅型」「医療保険適用の訪問看護」の組み合わせで起きており、「住宅型」「訪問看護」の仕組みを説明する必要がある。以下、「住宅型」「訪問看護」の順で詳細を検討したい。
まず、住宅型を一言で評すると、高齢者を受け入れる住まいである。しかし、高齢者の住まいは非常に複雑であり、短い文字数で説明するのは困難である。
ここでは大枠で理解するため、住まいの機能が介護保険のサービスと一体的に提供されているタイプと、高齢者の住まいに対して外部の介護サービスが提供されるタイプに大別したい。さらに、以下では分かりやすく説明するため、便宜的に前者を「一体提供タイプ」、後者を「分離タイプ」と呼ぶことにする(制度の正式名称ではないことはご了承いただきたい)。
このうち、一体提供タイプの典型例としては、主に重度者を対象とした特別養護老人ホームのほか、老人ホームとサービスが一体的に提供される「特定施設入居者生活介護」(以下、特定施設)などが該当する。ここで提供されているケアマネジメントも住まいと一体的に提供されており、その費用は施設向けの報酬に含まれている。
これに対し、本稿で取り上げている住宅型とは、住まいとサービスが切り離されている分離タイプであり、高齢者の住まいは「自宅」と同じ扱い。提供されるケアマネジメントや訪問看護サービスも「在宅サービス」扱いとなっている。
もう一つの訪問看護も複雑に入り組んでいる。一般的に訪問看護は介護保険の適用だが、がん末期や難病の患者向け訪問看護は医療保険の適用を受けるため、今回の不適切とされる事案は医療保険で起きている。
こうしたビジネスモデルを病院や在宅ケアと比較すると、その特色が一層、明確になる。つまり、病院の場合、病棟に入院する複数の患者に対し、医師や医師の指示を受けた看護師が対応している。いわゆる病院における集団的なケアである。
一方、訪問看護や訪問診療などの在宅ケアでは、自宅に住む患者・利用者に対し、医師や医師の指示を受けた看護師などが医療やケアを提供している。いわゆる自宅を中心とした個別的なケアである。
これに対し、前出の図表1のスタイルでは両者を組み合わせたような形になっており、集合住宅に入居する患者・利用者に対し、外付けのステーションから看護師が訪れている。つまり、制度的には在宅ケアなのに、実態は病院のような集団的なケアに近いスタイルとなっている。
過剰な訪問看護や不正請求も、制度の隙間で何が起きたのか
もちろん、このスタイル自体、特に問題があるわけではないし、終末期の患者の看取りを支える優良なホスピス型住宅なども少なくない。
しかし、不適切とされる疑いは共同通信によるスクープで明るみに出て、同社の配信を受けた地方紙では、
「パーキンソン病専門の住宅型の入居者に対し、夜間に1人の看護師が数十秒から数分で状態を確認した場合でも、複数人で約30分訪ねたことにして報酬を請求している(2024年9月3日『中国新聞』)
「全国に展開する住宅型を舞台に、必要性に関係なく、全入居者に対して1日3回訪問するなどの水増し請求が常態化している」(2025年3月24日『北海道新聞』)
といった実態が報じられている。しかも、こうしたビジネスモデルは巧妙に制度的な不備を突いている。
例えば、住まいの面で見ると、一体提供タイプの特定施設の場合、さまざまな規制が設けられている。具体的には、事業者は開設に際して、自治体の指定を受ける必要があるほか、費用を抑制するため、新規参入を規制している市町村も多く、新設が認められないケースも少なくない。
これに対し、住宅型に対する規制は特定施設ほど厳密ではないし、人員基準や設備基準も一体提供タイプの特定施設と比べると、総じて緩い。
さらに介護保険サービスに関しても、一体提供タイプの場合、住まいの機能とサービスが一体化されており、1日当たりの定額払いであり、どんなにサービスを提供しても、受け取れる報酬は大きく変わらない。
一方、分離タイプの住宅型は「自宅」扱いであり、訪問看護サービスの報酬は出来高払い、つまりサービスを提供するほど事業者の収入が増える構造となっている。このため、住宅型には過剰なサービスを通じて、収益率を高められる構造が内在している。
このほか、介護保険では要支援・要介護度別に定められた区分支給限度基準額(以下、限度額)が定められており、これを超えると全額が自己負担になるため、過剰サービスにブレーキが掛かるが、医療保険の場合、要介護度別の限度額のような給付の上限は存在しない。
サービスの実態に関する行政の監視の面でも不備が見受けられる。つまり、介護保険の適用サービスでは、普段から介護保険の保険者(保険制度の運営者)である市町村の運営指導などが入る。
これに対し、不適切とされる事案は医療保険の適用であり、厚生労働省の地方出先機関である厚生局が管轄するものの、マンパワーが十分とは言えず、介護ほど頻繁に指導が入っているわけではない。
要するに、さまざまな規制をかいくぐった「抜け穴」で成り立っているビジネスモデルであり、筆者は「悪い意味で念入りに考えられたビジネスモデル」と認識している。
政府が登録制度とケアマネ有料化へ、訪問看護の適正化策とは
こうした不適切とされる事案は共同通信の報道で明らかになり、厚生労働省の適正化策に関する検討は2025年夏以降、急ピッチで進んだ。
結局、医療的ニーズの高い中重度者を受け入れている住宅型について、登録制度を導入することで、行政の監視を強化することが決まった。
さらに、先に触れた通り、こうした住宅に関する相談支援業務を「登録施設介護支援」という形で切り出した上で、その費用に関して利用者から負担を徴収することも決まった。今後、対象施設や費用の値段など具体的な内容について、厚生労働省は2027年度介護報酬改定の検討過程で詰めるとしている。
このほか、2026年6月から新しい体系が始まった診療報酬でも、適正化が図られた。例えば、同じ建物に住む利用者に対して一斉に提供するタイプの訪問看護について、サービスを提供するほど受け取れる報酬を増やせる出来高払いではなく、1日当たりで評価する包括払いの報酬体系も導入された。
しかし、これで話はとどまらない。国の適正化策が新たな弊害や混乱を生み出す危険性があるためだ。例えば、住宅型の利用者に対し、相談業務やケアプランの作成に当たっていたケアマネジャー(介護支援専門員)は外部から来ていた。このため、外部の目が入ることを通じて、不適切なケアを防ぐ抑止力になっていた面があった。
これに対し、登録施設介護支援の導入と有料化を通じて、ケアマネジャーは利用者から料金を徴収することになり、事務が煩雑になる。その結果、ケアマネジャーが住宅型の業務引き受けを避けるようになり、かえって不適切な事案が発生しやすくなる危険性がある。
さらに、規制が新たな規制を生み、優良な事業者だけが影響を受ける事態も予想される。実は、同様の事象は高齢者の賃貸住宅である「サービス付き高齢者向け住宅」でも起きた。
具体的には、サービス付き高齢者向け住宅が2011年度に制度化されると、一部の事業者が訪問診療や訪問介護などを過剰に提供するようになった。サービス付き高齢者向け住宅も住宅型と同様、分離タイプ、すなわち住まいとサービスが切り離されているにもかかわらず、住宅運営の事業者とサービスを提供する事業者が連携し、過剰なサービスを提供するような不適切な事案が現れた。
そこで、厚生労働省は単価を引き下げる見直しを講じたが、一部の事業者はサービスの提供量を増やすことで、売り上げが減らないように調整している。
これに対し、厚生労働省が報酬の見直しなど別の適正化策に踏み切ると、一部の事業者は影響を緩和する対策を取り、さらなる適正化策が検討されることになる。こうして「適正化策→影響を緩和する現場の対策→新たな適正化策→影響を緩和する現場の対策……」といった悪循環が始まる。まさに中国のことわざで言う「上に政策あれば、下に対策あり」である。
その結果、制度が複雑になり、手続きも煩雑になるが、悪質な事業者は手を変え品を変え、制度の悪影響を緩和しようとするため、優良な事業者だけが影響を受けてしまう危険性がある。
今回の登録施設介護支援とケアマネジメント有料化などの適正化策についても、同様の展開になるのかどうか、注視する必要がある。
なぜ住宅型が急拡大したのか、背景にある医療の受け皿不足
このほか、不適切とされる事案が起きた遠因も意識する必要がある。住宅型と訪問看護を組み合わせたビジネスモデルは急拡大しており、現場のニーズを汲み取っていると考えることもできるためだ。
特に、筆者は「医療的ニーズの高い人の在宅ケアが不十分なため、受け皿として機能している可能性」を見逃せないと考えている。しかも、これは近年の平均在院日数や病床の削減を目指す政策が影響している可能性がある。
広く知られている通り、人口比で見た日本の病床数は世界有数であり、平均在院日数の長さも以前から問題視されている。そこで、近年の制度改正では病床数や平均在院日数の適正化が強く意識されており、退院した後の「受け皿」のような形で、在宅医療のテコ入れも図られている。
しかし、不適切とされている事案を見ると、がん末期やパーキンソン病などの難病の患者を対象に起きており、医療的ニーズの高い人の受け皿になっている可能性が示唆される。
実際、厚生労働省の資料を見ると、入居者の平均要介護度が3以上の住宅型は2014年時点で35.6%だったが、2024年調査で46.1%まで上昇した。このほか、住宅型では退去者数に占める「死亡による契約終了」の比率も増えており、2014年調査で36.6%だったのに対し、2024年時点で55.3%に伸びている。
こうした数字を踏まえると、看取り対応も含めて、医療的ニーズの高い人の在宅ケアが政策的に後手に回っていることが事案の遠因になっていると言える。2026年度診療報酬改定では、重度者に対応している在宅医療に関する加算が引き上げられたのも、こうした配慮であろう。
以上、今回は住宅型のケアマネジメント有料化を巡る制度改正の経過や背景などを検討した。不適切な事案への適正化策は当然とはいえ、良質な事業者が影響を受けないか、注視する必要がある。
さらに、医療的ニーズの高い人の受け皿が不足していることが不適切とされる事案の背景となっている以上、単に適正化策を講じても、利用者は行き場所を失い、「医療難民」が生まれることになる。角を矯めて牛を殺すような結果にならないような配慮が欠かせない。
筆者:三原 岳
