タイヤの達人がブリヂストンで訊いた「深い話」(前編:ゴムの技術) 引っ張っても千切れないのは天然ゴム?合成ゴム?
天然ゴムと合成ゴムと充填剤
ブリヂストンによる『ゴムの技術と走る実験室としてのモータースポーツ』と題した、メディア向け勉強会が開催されたので前後編に分けてレポートしたいと思います。
【画像】ブリヂストン『ゴムの技術と走る実験室としてのモータースポーツ』 全20枚
講義していただいたのは、同社執行役CIOの草野智弘氏と、執行役CPO兼グローバルモータースポーツ管掌の今井弘氏のおふたりです。

天然ゴム、合成ゴム、充填剤それぞれのチップを引っ張ってみます。 ブリヂストン
まずはひとつ目のテーマである、『ゴムの技術』の話から。
タイヤの材料は、タイヤ1本を考えてみると、その3/4が天然ゴムと合成ゴムと充填剤でできていて、残り1/4が鋼材や補強繊維、配合剤となります。
天然ゴムと合成ゴム、充填剤は、大雑把にそれぞれ1/4ずつと考えていいと思います。
タイヤに使われるゴムは、大別して天然ゴムと合成ゴムがあります。
天然ゴムは、パラゴムの木から得られるラテックスを凝固させて作ります。
合成ゴムは、まず、石油精製品であるナフサから、ゴムの元になる小さな分子(モノマー)である『スチレン』や『ブタジエン』を作ります。これらを化学反応(重合)することで『スチレン・ブタジエンゴム(SBR)』や『ブタジエンゴム(BR)』という合成ゴム(ポリマー)ができるのです。
千切れやすいのはどっちのゴム?
近年では、CO2削減の観点から脱石油化が注目されています。ですが、ことタイヤのゴムに関していうと、剛性ゴムと天然ゴムにはそれぞれ特性があり、天然ゴムだけのタイヤにはまだ課題が多く残っているため、すべてのタイヤを天然ゴム由来のタイヤにするのは難しいのが現状です。
その例としてブリヂストンが用意してくれたのが、3つのゴム片です。

タイヤを形成する成分を、改めていちからおさらい。 ブリヂストン
Aは天然ゴム。引っ張ると伸びるけれど千切れません(千切れにくい)。
Bは合成ゴム(SBRだそうです)。引っ張ると比較的簡単に千切れてしまいます。
Cは合成ゴム+カーボンブラックです。このゴム片は、強く引っ張っても千切れませんでした。
冒頭の、タイヤのゴムの構成で触れた充填剤が、ここではカーボンブラックに当たります。タイヤにカーボンブラックを入れる理由は、ここにあるのです。
千切れなければいい、という訳でもない
ところで、なぜ天然ゴムは引っ張り強度が高く、合成ゴムは弱いのでしょうか。
これが自然界の不思議なのですが、合成ゴムは、分子の並び方が全部同じ向き(100%シス構造)になっていて、よく伸び千切れにくいのです。

天然ゴムは引っ張り強度は高いものの耐摩耗性が悪いため、合成ゴムの配合が必要になります。 ブリヂストン
ところが、合成ゴムで100%シス構造を作ることはできないのだそうです。分子の並びがところどころ反対、あるいはひっくり返ったものが混じってしまい (トランス構造)、そこで分子が分断してしまうので、千切れやすくなってしまうのです。
充填材としてのカーボンブラックは、切れた分子同士をつなぐ役割を果たして、ゴムの強度を高めてくれる役割を果たしています。
それならば、わざわざ合成ゴムにカーボンを混ぜなくても、天然ゴムでタイヤを作ればいいじゃないか。そう思った人も少なくないでしょう。
ところが、天然ゴムは、引っ張り強度は高いのですが、耐摩耗性が悪いのです。つまり、ドライ路面でのグリップ性能は高いけれど、ウエット路面では低い特性を持っています。そのため、タイヤに求められるロングライフ性とか、ウエットグリップを確保するのが難しいのです。
そこで、カーボンなどの充填材を補強材として使った合成ゴムが必要になってくるわけです。
水平リサイクルのテストは成功済み
ブリヂストンのサスティナビリティに関する取り組みに、リサイクルがあります。
画期的なのは、『水平リサイクル』の取り組みです。

座学だけでなく、実際にゴムを手に取って体感できる、興味深い勉強会です。 ブリヂストン
タイヤは不可逆性の製品と言われており、原料に戻すことはできないというのがこれまでの常識とされていました。ですが、ブリヂストンは、使用済みタイヤのケミカルリサイクルによって、合成ゴムの原料となるオイルやカーボンブラックを取り出す実証実験を実施。テスト段階では、すでに成功しているのです。
現在、岐阜県関市の関工場の敷地内に、より規模の大きな使用済みタイヤの精密熱分解パイロット実証プラントを建設中です。
充填剤は、タイヤの構成材料の1/4を占める材料ですから、これを一部再利用できるというのは画期的なことなのです。
後編では、ブリヂストンが取り組むモータースポーツについてお伝えします。

