死ぬって意外に難しい。「介護」の先の「死」について−医師が教える「最高の最期」の迎え方(その3)

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2004年から介護老人保健施設の施設長を務め、日々多くの高齢者を診察されている医師の田口真子先生。現場での経験や切実な想いをつづったブログは、にほんブログ村の「高齢者福祉・介護」ランキングで1位を獲得して大きな話題に。この大反響を呼んだブログをベースにした『最高の最期』では、田口先生が現代社会に生きる私たちへ「ぜひ知っておいてほしい」と願うメッセージをまとめた1冊です。今回はその内容の一部をご紹介します。 【全3回の第3回/第1回を読む/第2回を読む】

本記事は、介護はどうしても避けられない? あなたにベストな介護施設はどうやって選ぶ? −医師が教える「最高の最期」の迎え方(その2)の続きです

死ぬって意外に難しい

昔と違い、若くして死ぬ人が減り、兄弟も減り、核家族化も進んで、私たちにとって死は身近ではなくなっています。また、誰かが死ぬときも家より病院でその死を迎えることが多く、亡くなるまでの過程、つまり、弱っていく、食事が摂れなくなる、眠っている時間が長くなるといったリアルな変化を共に体験することも減っています。

亡くなった、と言葉で聞く以上のことをあまり経験してなく、その影響か、死ぬことをイメージできない人が増えています。そのため、介護の先には「死」がある、ということを意識できている人は限られているというのが私の実感です。

残念なことですが、「介護が必要であること」は「死」が近づいているということでもあります。人間は必ず死を迎えます。そして、誰もが迎える死であっても、実は死ぬって意外に難しいのです。生まれる場所を選べないように、死に方、死ぬ場所、死ぬタイミングを完全に選ぶことはできません。

現在の「死に場所」は3つ

死に場所について考えてみると、「突然死ぬ」以外で可能性がある場所は病院、家、そして施設の3パターンでしょう。施設については第2回の記事でも概要をお伝えしましたが、自分はしっかり調べて納得のいく介護施設を見つけたから大丈夫、と思っている方もいるかもしれません。

しかし、実はその先に続きがあるのです。どんなに理想的な介護施設に入れたとしても、病気になれば病院に移らなければならなくなることがあります。治療が終わった後、元いた介護施設に戻れればいいのですが、医療的なケアが必要な場合は戻ることができません。介護施設で看取ることができる人は「老衰」の人です。

病気・ケガなどで目論見が外れることも

つまり、介護施設を選んだあと、何かあったときのための病院についても調べておいた方がいいのですが、希望通りの病院に入れるとは限りません。なぜなら、病気やケガなどの場合に搬送されるのは「急性期病院」ですが、自分が調べておいた病院が満床だった場合には別の病院に運ばれることになります。

また、「急性期病院」はだいたい3ヵ月ほどで出ないといけません。その後施設に戻れないとなると「療養型病院」へ移ることになります。「急性期病院」「療養型病院」までしっかり調べておくことは難しく、またできたとしても調べていた時点と実際のタイミングでは状況が変わっている可能性もあります。

私の施設はかなり積極的に看取りを行っている施設だと思いますが、それでも入院された人のうち3割近くは戻って来られません。入院先で残念ながら亡くなった人もいますし、吸引が必要、意識が戻らないなどの理由で施設に戻れず療養型病院に行った人も少なからずいます。

事前確認とはどういうことか〜最高の最期の準備のために

一方、「死に方」についてはほんの少しだけ選択の余地があります。つまり、介護の方針や延命治療の希望など、最期の時間をどう過ごすか、どう死にたいかをあらかじめ考えておくということです。

そして、選択できるところには迷いや後悔も生まれるわけですが、それらを少しでも減らすためにしておきたいのが「本人の気持ちの事前確認」です。『最高の最期』で触れた、事前確認しておいた方がいい事項について以下にまとめます。

最高の最期のために決めておきたい8つのこと

「本人」が何を大切にしたいかを考える

・少しでも長く生きたい

・住み慣れた場所で暮らしたい

・すぐ誰かが来てくれるところで安心したい

・苦しい治療はしたくない

・家族に迷惑をかけたくない

「家族」が何を大切にしたいか話し合う

・少しでも長く生きてほしい

・苦しまない最期を迎えてほしい

・自由に生きてほしい

・お金や介護はどの程度協力が必要か、協力できるのか

キーパーソンを決める

・キーパーソンを定め、意見が分かれたときはキーパーソンが決める

介護の方針を考える

・できるだけ在宅

・在宅介護、それが難しくなったら施設

・介護が必要になったらすぐ施設

在宅介護をするなら、ショートステイやデイ、訪問リハビリなどを利用し、ケアマネ以外にも相談相手を持っておく

延命治療を希望するかどうか決める

・心肺停止時、心臓マッサージや人工呼吸器装着を希望するか

希望する「最期の場所」を考える

・家、病院、施設、どこで迎えたいか

最後に「希望」や「決めたこと」は、その通りになるとは限らないことも知っておく

このような最終章のあらすじを、ほんの少しだけでもいいので元気なうちに書いておいてください。あなたの人生の最後の章が、誰かに丸投げされるものではなく、あなた自身の言葉と選択でリストとして残しておくことは「最高の最期」のための大切な準備となるのです。

介護中のご両親がいる方へ

最後に、現在介護中のご両親がいる方へ、『最高の最期』より一部抜粋してお届けします。

お別れの時が近づいているとき、ご家族にできることは何でしょう。みなさん、何かをしてあげたいけれど、どうしてあげればよいかわからない、とよくおっしゃいます。

ひとつは、時間の許す限りで良いので顔を見に行ってあげてください。長時間の面会は疲れるかもしれませんが、短時間であれば何度でも会いたいものです。

「会いに行ってもずっと寝てるんですよ」

「私のことが誰かわかっていないようです」

と言うご家族もいます。でも、それでも良いのです。ずっと寝ていても(寝ているように見えても)温かい気持ちや声は伝わっているものです。

会いに行ったら、優しく声をかけてください。歌を歌ったり、思い出話をしてあげてください。感謝の気持ちを伝えたり、大好きだよと言ってあげてください。

難聴でも、聞こえていなくても、です。たとえ返事がなくても、目を開けてくれなくても、音楽や言葉を聞いたとき、脳は元気だったころと同じような反応を示しているという研究結果もあります。

そして優しく手や足を触ってください。

「眠っているのに、触って起こしたら可哀そうですか」

と言われますが、気にせず、触りたいと思うなら触れてあげてください。包み込むようにそっと手を握るだけでも良いのです。

触る、という行為は生き物にとって愛を伝える最も原始的な方法です。皮膚感覚は死の間際まで残っていて、触れることによって痛みを緩和したり、幸せな気持ちを呼び起こすと知られています。何をするのでもなく、ただ黙って横に座り、手を握ってあげてください。

人は必ず死にます。そしてその死に際し、私たちができることは、ただ同じ時間を共有し、そっと寄り添って見守ることだけです。じたばたせず、残された時間をどうぞ大切にしてください。

3回にわたり『最高の最期』の内容について紹介しました。紙面では、Web版では収まりきらなかったエピソードや背景などもさらに詳しく描かれています。ご興味のある方は、ぜひ本紙もあわせてお手に取ってみてください。

田口 真子(Mako Taguchi)

神戸大学医学部卒業。循環器専門医として複数の病院に勤務した後、2004年カネディアンヒル介護老人保健施設(老健)の施設長となり、介護が必要な高齢者を日々診察している。5老健を含む13の介護系施設を運営する医療法人社団創生会理事長。ブログ「介護のお医者さん22年目! 介護とうまくつきあっていこう」が高齢者福祉・介護ブログ村ランキング1位。

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