望海風斗&坂本昌行、“ステージ”とは「生きる実感をくれる場所」 トップを走り続ける原動力を語る
■望海風斗が寄せる、ファニーへの共鳴
持ち前のユーモアと根性でコーラスガールから大女優へと駆け上がるファニー・ブライスと、その夫でギャンブラーのニックの人生を描く本作。舞台版に引き続きファニーを演じたバーブラ・ストライサンドが主演を務めた映画版(1968)はアカデミー賞主演女優賞を受賞するなど、映画史に残る名作となった。ブロードウェイでは初演以降リバイバルされてこなかったが、2022年に半世紀以上の時を経てブロードウェイに凱旋。大ヒットを収めた同作が、豪華キャストによって日本でも上演される。
――伝説的ミュージカルとして、今なお圧倒的な支持を集める『ファニー・ガール』。ファニーとニックとして、オファーを受けた感想を教えてください。
望海:『ファニー・ガール』という作品や、劇中の素晴らしい楽曲は知っていましたし、王道のミュージカルに挑戦できる機会はそう多くはありません。若くエネルギッシュな時期のファニーから演じていくことになるので「大丈夫かな…」という不安もありましたが、人生を積み重ね、夢を追い続けた先に何があるのかという、ファニーの半生を生きられるなんて、本当に光栄なことです。オファーをいただけて、とてもうれしかったです。
坂本:リア・ミシェルがファニーを演じた(ブロードウェイに凱旋した)『ファニー・ガール』の映像を(YouTubeなどで)見させていただいて、これは大変な舞台だなと。自分の半生やその時々の感情を歌で表現するって、かなりパワーがいることなんですよね。僕も『ザ・ボーイ・フロム・オズ』という作品をやった時に、そう実感したことがあって。でも望海風斗さんがファニーを演じると聞いて、これはすばらしいものになるだろうと思いました。僕はまずファニーが輝けるように、足を引っ張らないようにしないといけないという思いでお引き受けしました。
――演じる役の魅力について、どのように感じていますか。
望海:たくさんありますが、一番はファニーの自分のやりたいこと、信じることに向かって突き進む力に惹(ひ)かれています。子どもの頃には誰しもが持っているものかもしれませんが、大人になるにつれていろいろと諦めていくことも多い中で、ファニーはピュアな心やまっすぐな情熱を持ち続けられる人。そこは本当にステキだなと思います。
――周囲が夢の実現は到底無理だと感じている中でも、女優として輝くために力強く進んでいくファニー。ステージに立ち続けている望海さんにとって、共感するところも多かったでしょうか。
望海:多かったですね。私が10代で宝塚音楽学校に入った時も、周りの誰もが“受かるわけがない”と思っていました(笑)。高校の先生に「受けてきます!」と言って送り出してくれた時も、“また来年もこの高校に通っているだろうな”と感じていたと思います。誰も信じていない中、自分だけは“絶対に宝塚の舞台に立つんだ”という気持ちが強かった。10代で何も知らないからこそ、それだけの根拠のない自信を持てたのかもしれません。特に“これができる”と感じられるものはなくても、“好きだ”という揺るぎない思いをもとに合格して舞台に立っているイメージだけを持って突き進んでいました。
坂本:僕が演じるニックは、プライドが高くて、ギャンブラーで、ハンサムで…と周囲からいろいろな評価を受ける人ですが、僕はその中でも“人を引き寄せる力がある”というワードが気になっていました。それってどういうことなんだろうと思った時に、きっとピュアな人なんだろうなと感じて。言葉を変えれば、子どもっぽいということなのかもしれませんが、いろいろなことに挑戦して、失敗して、相手を傷つけたとしても、その根底にあるのはニックのピュアな思い。それがあるからこそ、進む方向にワクワクしている。目指しているものは違っても、ニックはファニーに自分と似たものを感じたのかなと思っています。
――スターになっていくファニーに対して、妻との格差に焦りを感じるようになるニック。彼の葛藤について、どのように感じましたか。
坂本:愛する女性をサポートしようと思っていたけれど、ファニーが売れていくことに反比例するように、ニックはどんどん下がっていく。そういったジレンマは必ず出てくると思うし、彼女に対して手放しに「おめでとう」と言えないところにニックの人間味を感じています。
■初対面の感想は? お互いが語る、役者としての魅力と信頼
――お2人は今回、初共演となります。宣材写真&動画の撮影で初めてお会いしたとのことですが、その時の印象やこれまでに持たれていたイメージがあれば教えてください。
望海:坂本さんは、多方面でたくさんの人々を魅了されてきた方。舞台を拝見していた勝手なイメージで、(大きな声で)「やあ!」「どうも!」といった感じでお越しになるのかなと思っていたら、ものすごく紳士的で、温かくて。
坂本:イメージとは真逆でしたね(笑)。
望海:あはは! そうなのです、そのお姿にとてもホッとしたんです! すごく気を遣ってくださって、いろいろなお話をしながら場の空気をほぐそうとしてくださったりとお優しいので、申し訳ないなと思いながらも甘えさせていただきました。
坂本:ステージを観ていると、役者さんの人となりが見えてきたりするじゃないですか。望海さんの舞台をいくつか観たことがあるんですが、すごく役に真摯に向き合っていて、素直で純粋な表現をされる方だなと思っていました。そして月並みな言葉で申し訳ないですが、“うまいなぁ…”って(笑)。出るべくして出てきた方だと感じています。
――お互いの目からご覧になって、“演じる役柄と重なるな”と感じるようなところはありますか。
坂本:“歌・ダンス・芝居”の三拍子がそろっている上に、ユーモアを持たれている。ファニーにぴったりの方だと思います。
望海:坂本さんと撮影で初めてお会いした時に、ファニーがニックを見てハッとする感覚が理解できた気がして。その時の気持ちを大事にしたいです。坂本さんは、ギャンブラーな部分など、ニックと重なる要素をまったく持っていないとおっしゃっていて…。
坂本:1ミリもありません(笑)。
望海:そうおっしゃっている坂本さんが、本来のジェントルな姿からどのように役として変わっていくのか。今からお稽古場で見られるのが楽しみです。
――望海さんがおっしゃるようにハッとする魅力などとても重なるように思いますが、坂本さんは、年齢や経験を重ねたからこそできるニック像についてどのように感じていますか。
坂本:僕は実年齢と俳優のレベルが伴っていないなと、ふと気づいたことがあって。だからニックを演じることにも、自分の中ではちょっとビビっているんですね。子どもの頃は“55歳”というとおじいちゃんだと思っていましたが、なってみるとおじいちゃんではないし(笑)。大人の男を演じるとなると、もっと中身を成長させていかなければいけないなと思うこともあります。ただ1人でもがいていてもしょうがないので、稽古場で演出家の方の話を聞き、共演者の皆さんとセリフで会話をする中で、自分なりのニック像を作り上げていきたいなと思っています。
望海:私も、ファニー役ではいろいろな挑戦があるので今からビビっています(苦笑)。でも共演者の皆さんもすごく明るい方ばかりなので、楽しく賑やかにお稽古が進んでいくと思うと、これからがとても楽しみになっています。
■ステージは生きる実感をくれる場所――望海風斗と坂本昌行の原動力
――ファニーの歌う「パレードに雨を降らせないで」は、聴く人の心を鼓舞するような楽曲でもあります。望海さんは、これまで同曲を歌ったことはありますか?
望海:コンサートで歌わせていただいたことがあります。宝塚を退団してから、自分の決意表明ではないですが、“これからの新しい道を突き進んでいくんだ!”という思いを重ねて歌いました。この曲は技術的にも難しいですし、内容的にも気持ちがないと歌えない曲です。当時、“挑戦”という意味も込めて選曲しました。皆さんにとっても知っている曲であり、勇気を与えてくれる1曲だと思うのでドキドキしますが、ファニーとしてこの曲を歌えることを楽しみにしています。
――ファニーと同じく、お2人も数々のステージで多彩な世界を観客に届けています。お仕事に臨む上で、原動力になるのはどのようなものでしょうか。
望海:もちろん観ていただくお客様に楽しんでもらいたいという気持ちがありますが、やっぱり“自分のために立っている”と思う部分もあって。“私がもっとも生きている! と実感するのは、舞台に立っている時間なんだ”と、コロナ禍で舞台に立てなくなった時に感じました。皆さんも同じだと思いますが、お仕事に挑む上では楽しいだけではなく、苦しみもあるもの。でもそのどちらも味わえるというのは、本当にすごいこと。そう思いながら、舞台に立っています。
――2021年に宝塚を退団されてから、意識の変化はありましたか?
望海:宝塚を退団してからは、常に自分探しをしているようなところがありますね。出会う役、出会う作品に、いろいろなことを教えてもらっています。私は小さなころから宝塚に入ることしか考えていなかったので、その先の人生について思い描いていなかったんですね。そういった意味でも、今はいろいろな方に出会えることがものすごく楽しいです。
坂本:いろいろな作品、役者さんと出会えること。そしていろいろな役と出会い、他の人になれるというのは、なかなか他の職業ではできないことだと感じています。作品が変わるごとに自分ではない人になり、普段では言わないようなことを平気で口にしてみたり。そういった経験ができるのは、とても面白いですね。望海さんがおっしゃったように苦しみも経験することで、明日には昨日の自分とは違う、成長した自分に出会える。そうやって考えさせてくれる仕事でもあるなと感じています。あとはもう、単純に好きなんですね。辛くてもやっていられるというのは、そういうことだと思います。
――では最後に、お2人の人生において“欠かせないと思うもの”について教えてください。
望海:“人と関わり合うこと”です。人との関わりを通して、それまで知らなかったことを知ることができたり、“こういう考え方もあるんだ”と発見もできる。宝塚を退団してからは、作品ごとにカンパニーが変わるので、“終わったらさよなら”というのがすごく寂しくもありました。でもそれでまた新しい出会いがあるんだと思うと、だんだん楽しみになってきました。またプライベートでも誰かと食事をしたり、お話したりするのが好きなので、やっぱり私にとって人と関わることは欠かせません。
坂本:子どもじみたワードになりますが、とにかく“楽しむこと”です。難しいことを難しい顔をして考えていたら、“難しい”しか残らないものですよね。でもそれを違う側面から見て笑ってみたら、“意外とこれも悪くないかも”と思えたり、緊張している自分も俯瞰して楽しんで見てみたら、意外と笑えたりするものだと感じています。とりあえず楽しむことから始めるのは、とても大事なこと。苦しんだり悩んだりしていると下しか向けないものですが、辛い時こそ上を見てみるようにしています。
(取材・文:成田おり枝 写真:上野留加)
ミュージカル『ファニー・ガール』は、東京公演が日生劇場にて9月8日〜9月29日、大阪公演が梅田芸術劇場メインホールにて10月9日〜10月18日、福岡公演が博多座にて10月24日〜11月1日、愛知公演が御園座にて11月10日〜11月15日上演。

