「歩きスマホ事故」で救急搬送、最多は10代“ではない”…脳のキャパオーバーで“生命の危険”増大も、処罰する法律なしの現状
先日、俳優の的場浩司さんが歩きスマホの歩行者とぶつかった経験から、あらためて歩きスマホの危険性について新聞紙上とテレビ番組内で警鐘を鳴らし、ネットで話題となった。
筆者も最寄りの駅前で、歩行者とフードデリバリーが派手に正面からぶつかった現場に遭遇したことがある。互いに「歩きスマホ」と「ながらスマホ」だった。
大きな怪我はなかったようだが、もし子どもや老人が相手だったり巻き込まれたりしたなら、大きな怪我や命の危険があってもおかしくなかった。
歩きスマホがいかに危険かは、データでもしっかりと証明されている。(ITジャーナリスト・井上トシユキ)
夏に目出つ、より危険な歩きスマホのスタイルこの夏、目立っているのは、片手に日傘やハンディファンで歩きスマホをする歩行者だ。陽射しや照り返し対策で日傘を深くさしての歩きスマホは、進行方向ばかりか周囲がほとんど見えておらず単純に危ない。
また、2023年に大阪で発生した歩きスマホの女性が気づかぬうちにストーキングされ、マンション内で襲われた事件は、別の側面で歩きスマホのリスクを示した。
SNSを見ても、歩きスマホによる対人、対車両の接触、衝突、転倒といった画像や動画があふれている。
横断歩道を歩きスマホで渡り歩道の段差に気づかず派手に転ぶ女性、ゲームをやりながら駅の階段を降りて段差を踏み外して転がり落ちる、路肩の駐車車両に激突する……。
投稿のために撮影していた方も歩きスマホだった可能性もあり、余計にタチが悪い。
実験・実態でも証明された歩きスマホの危険性歩きスマホは、画面に注意を集中させることで、目隠しをして歩行するのに似た状態となる。イヤホン・ヘッドホンまでしていれば、さらに耳を塞ぐことが加わる。
こうした外因性の要因だけでなく、脳内情報処理リソースの枯渇という内因性の要因によっても歩行時の安定性が低下する可能性がある、との実験結果を、2024年に京都大学と米国ノースカロライナ州立大学の共同研究グループが公表している。
視界を狭め、さらに脳内の処理能力を枯渇させる。もはや自ら正常に歩くことをより困難にしているのが「歩きスマホ」といえる。
冒頭の的場氏は、「俺、ちゃんと避けたもん。避けたけど、なぜか歩きスマホしてる人って、寄ってこない?寄ってくるよね?」と話していたが、歩きスマホは少なくとも、人込みを歩くのはNGといっていい状態。シンプルに極めて危険な行為なのだ。
データが示す、歩きスマホの危険度東京消防庁のデータでも、2021年(令和3年)以降の5年間で合計171人が歩きスマホによる怪我等で救急搬送されている。
その内訳は「ころぶ」71人、「落ちる」47人、「ぶつかる」46人がトップ3。症状については「軽症」が135人で約8割だが、生命の危険が強いと認められた「重症」は5人で100人に3人の割合で重大リスクに見舞われる結果となっている。
また、年代別では20代(31人)、50代(30人)がツートップなのだが、30代、40代、60代、70代がそれぞれ20人以上と、中高年にいたるまでまんべんなく搬送されている。一方で、10代が14人という数字は興味深い。
歩きスマホの“主犯”が、本来なら社会的な分別のついているはずの「いい歳をした大人と高齢者」ということだからだ。
これは、東京消防庁が救急搬送して認知した数字なので、先に挙げた状況からはこの何倍もの事故が歩きスマホにより起きていると容易に想像できる。
いまや小学生でもスマホを持つのが珍しくないとなると、今後もますます歩きスマホへの危機感のハードルが下がり続け、早晩とんでもない大事故が起きてもおかしくない。
総務省の情報通信白書や各種の調査では、13歳から19歳をはじめ20代から60代までの世代でスマホの所有率は90%を超える。70代でも80%強だ。
歩きスマホを罰する法律はないのが現状ところが、現状では歩きスマホを規制する法律はない。2020年7月の神奈川県大和市を皮切りに条例で歩きスマホを規制している自治体はあるが、具体的な罰則を定めているところはない。
たとえば京都では、京都府の条例により歩きスマホが規制されており、その効力は京都市内にも及ぶ。
しかし、罰則がないからか市内の繁華街や主要駅、寺社仏閣の周辺にいたるまで、観光客、地元民を問わず当たり前のように歩きスマホが横行しており、いつも辟易させられる。
また、観光客を含めて人が多い東京都心部の各区や他の政令市などでは、歩きスマホに対する啓発はしているものの、条例等による規制はないところがほとんどだ。
海外では罰金付きの条例も海外に目を向けると、およそ10年前の2017年10月、ホノルルのあるハワイ州オアフ島全域で、歩行者が道路を横断中にスマートフォンを含む電子機器類の画面を見る行為を禁止する「注意散漫歩行条例」が、最安約2400円から最高約1万6000円(1ドル160円で計算)の罰金つきで施行されている。
単純な歩きスマホの取り締まりではないのは、検挙ではなく危険行為の周知や注意喚起が主な目的だからだ。
現状についてハワイ州やアメリカのメディアを調べると、施行から最初の10か月で114件の違反があったとの報告以降、これといった情報が見当たらない。
施行から半年後、車道の横断直前までスマホを操作していた歩行者のうち約47%はそのまま操作しつつ渡ったと効果に疑問を投げかけるレポートもあったが(2018年3月、筑波大と富山大の実地調査)、現在のネット上の旅行案内には、ホノルルでの歩きスマホが激減したとの記載もあり、約10年を経て一定の効果があったとも受け取れる。
これまで見てきたように、日本でも対策は待ったなしだろう。とはいえ、全国的に実効性のある法律をつくるとなると、そう簡単でもないかもしれない。
それでもハワイ州オアフ島を参考に、啓発と注意喚起を目的とした強力なキャンペーンや全国的な運動を、政府や管轄する省庁が主導して「麻薬撲滅」のように展開することはできるのではないか。
今夏は酷暑とされるだけに、日傘やハンディファンは手放せない人が多いだろう。その時には、歩きスマホをしながらというのは自他ともにケガや事故の危険に晒していることをくれぐれも忘れないでいただきたい。

