「ファーストクライ 母子救命救急班」作中で描かれた普遍的なテーマ“人はいかに簡単にレッテルを貼ってしまうのか”【第5話レビュー】

次回 8月12日(水)よる10時から第6話を放送 日本テレビ系水曜ドラマ(毎週水曜よる10時放送)「ファーストクライ 母子救命救急班」。
数々の名作ドラマレビュー記事を手掛ける「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平氏は、8月5日(水)に放送した第5話をどう見たのか?第5話の場面写真とともに紹介する。
(※以下、第5話のネタバレを含みます)
本作は、富裕層向け“セレブ病院”の秘密裏に設立された「母子救命救急班」を舞台に、行き場をなくした妊婦たちを救い、新たな命の産声=ファーストクライを守るために奔走する、産科医療の最前線を描いたドラマだ。
今回の第5話では、新型インフルエンザの院内感染によって“セレブ病院”がロックダウンに陥り、さらに秘密裏に未受診妊婦を受け入れてきた「母子救命救急班」の存在まで明るみに出てしまうという、未曾有の危機が描かれた。


これは俯瞰した見方で、不謹慎な言い方になってしまうかもしれないが、まるで最終回かと思わせるほど、壮大なスペクタクルとスリルがこれでもかと詰め込まれた、実に見応えのあるエピソードだった。
しかし、このドラマが真に優れているのは、そうしたセンセーショナルな状況下においても、大味なパニックドラマへと流れることはなく、登場人物たちの細やかな機微を積み重ね、「母子救命救急班」というチームの結束をより強固なものへと育てていく点にある。
特に印象的だったのは、これまでチームを支えてきたコンシェルジュ・成宮(前田敦子)の存在だ。彼女の知られざる過去を掘り下げながら、すでに“大きな出来事”が進行する中で、さらに院内感染の発生源を追うという、要素過多になりかねない展開まで盛り込んでみせた。それでいて、成宮の“名探偵ぶり”を違和感なく発揮させ、謎解きミステリーとしての面白さまで成立させている。そして、その一連の流れは単なる事件解決では終わらず、彼女自身が過去を乗り越えた先にある親子の物語へと見事に昇華されていた。


また、その過程で専攻医・永坂(松島聡)の持つ、得も言われぬ不思議な魅力の正体を改めて浮き彫りにし、そのままラストの衝撃へとシームレスにつないでいく展開も実に巧みだった。さらに、近年の日テレドラマで定着しつつある“一コマ予告”も効果的に機能し、次回への期待を大きく高めていた。


とはいえ、今回最も秀逸だったのは、「わかりやすいレッテル」というテーマを、未曾有の危機の中で丁寧に描き切ったことだろう。
これまでも述べてきたように、テレビドラマには視聴者へ伝わる「わかりやすさ」が求められる。今回のように数多くの出来事が同時進行し、しかも群像劇となれば、「セレブ病院に通うVIP=強者」「助けられる未受診妊婦=弱者」という単純なレッテルで整理してしまうのが定石だ。限られた放送時間の中で、多くの人物や出来事を描かなければならないテレビドラマでは、それも一つの合理的な手法である。
しかし、このドラマはその定石を逆手に取った。
今回登場したのは、ネットカフェで暮らし、「父親候補は15人くらい」と語る風俗店勤務の未受診妊婦(工藤遥)と、彼女の幼なじみである“VIP”の妊婦(河村花)だ。陽菜は幼い頃から亜美に対して卑屈な感情を抱き、素直に心を開くことができずにいた。その小さな人間関係を“大きな事件”の只中へ丁寧に差し込むことで、物語は単なるパニックドラマではなく、より奥行きのある人間ドラマへと昇華されていた。


そして、今回最も恐ろしかったのは、新型インフルエンザそのものではなかった。院内感染によって始まった感染源探しと、“未受診妊婦を受け入れている”という噂を流した犯人探しである。
感染源を探そうとする人々の視線は、風俗店で外国人客と接していた陽菜へと真っ先に向けられる。そして、その視線はいつしか「誰が悪いのか」という犯人探しへと変わっていく。人は肩書きや職業だけで簡単にレッテルを貼り、偏見を抱き、他者を疑う。もしかすると、ウイルスそのものよりも、恐怖に駆られた人間の猜疑心の方が、よほど恐ろしいのではないか――。そんな人間の業を「感染源探し」という出来事に重ね合わせた視点は実に見事だった。
一方、“未受診妊婦を受け入れている”という噂を流した犯人は、神谷院長(真矢ミキ)の妊娠中の娘・香織(優希美青)だった。自らがこの病院で出産する立場になったからこそ、外部から未受診妊婦を受け入れることへの感染リスクを恐れたのである。つまり、この危機は外部からもたらされたものではなく、最も身近な存在から生まれた危機だった。
「未受診妊婦を受け入れる」という理念は、美しい理想だけでは成立しない。もしそれが自分や家族に関わる問題になったとき、本当に同じ選択ができるのか。「そんなリスクを負ってまで、自分の娘をこの病院で出産させるのか?」――このエピソードは、視聴者にもそんな究極の問いを突きつけた。
そして、そんな香織の心を動かしたのは、母・神谷の説得でも、「母子救命救急班」の面々の献身でもなく、混乱の渦中で力強く産声を上げ、生まれてきた命そのものの姿…最も尊く、清廉な命の誕生を目の当たりにしたことで、香織は初めて「母子救命救急班」の存在意義を実感する。その変化を、言葉ではなく“命の力”=「ファーストクライ」によって描いた点も、実にこのドラマらしい視点だった。

敵をつくって危機を乗り越えるのではなく、一つの命の誕生を通して互いの思いを理解し、チームとして前へ進んでいく。その姿勢こそが、「母子救命救急班」を単なる寄せ集めの組織ではなく、本当の意味で一つのチームへと成長させたのではないか。第4話まで積み重ねてきた結束が、この危機を経て初めて本物のチームへと変わったこと。それこそが、第5話が描きたかった最大のテーマだったように思う。
さらに、その「レッテル」というテーマは、神谷院長の“政界進出”にも重なっているようにも思える。
テレビドラマの文脈において、政界進出とは「金と権力のため」という、いかにも分かりやすいレッテルが貼られやすい題材だ。だからこそ、私も神谷に対して、いまだに邪念を拭い切れずにいた。しかし、これまで彼女は一貫して「母子救命救急班」を守ろうとしてきた人物でもある。今回も、その行動に救われる場面があり、改めて彼女を信じたいという気持ちが芽生えた。だが、その感情すら、私自身が勝手に貼ってしまったレッテルなのかもしれない――。そんな問いまで投げかけられた気がした。
さらに、混沌とした状況の中で、光井(比嘉愛未)の出生の秘密にも新たな波乱が訪れる。前回までは助産師・倉田(山村紅葉)が母親ではないかという疑惑が描かれていたが、今回は神谷こそが母親なのではないかという新たな可能性が浮上した。
パニック医療ドラマとしてのスリルを描きながら、その裏では「人はいかに簡単にレッテルを貼ってしまうのか」という普遍的なテーマまで描き切ってみせた第5話。そして、縦軸のミステリーもさらに加速していく。
今作は一体どこまで物語を用意しているのか。人の命を救う物語であると同時に、「母子救命救急班」という一つのチームが完成していく物語でもあることを、改めて実感させられた第5話だった。今後の展開からも、ますます目が離せない。
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<番組概要>
脚本:浜田秀哉
音楽:菅野祐悟
演出:大谷太郎 上田迅(ザ・ワークス)
チーフプロデューサー:松本京子
シニアプロデューサー:荻野哲弘
プロデューサー:森有紗
山田勇人 遠藤光貴 大垣一穂(ザ・ワークス)
主題歌:JUJU「夏蝉」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作協力: ザ・ワークス
製作著作: 日本テレビ
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