阪神の球団史上初の連覇はあるか? “ノーチャンス”だった勝利の方程式が揺らいだ前半戦総括 正念場の後半戦で指名したい「投打のキーマン」

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藤川監督体制で2年目も堂々の首位争いを繰り広げる阪神。その前半戦には、さまざまなヒーローが生まれた(C)産経新聞社

未完の大器が迎えた覚醒の時 高橋遥人をなくして語れない前半戦

 2026年シーズンに球団史上初のリーグ連覇を目指す阪神は、前半戦を巨人と同率首位(50勝40敗)で折り返した。現状の他球団のチーム状況や戦力を見れば、後半戦は巨人との一騎打ちの様相となりそうだ。

 本稿では、前半戦を振り返りながら、勝負のシーズン終盤へ向けた展望を記していきたい。

【動画】誰が打てるんだ! 阪神・工藤が自己最速の163キロをマークしたシーン

 26年シーズンのここまでの戦いは、「高橋遥人」抜きでは語れないだろう。入団以来、5度に渡る手術を経験してきた未完の大器がついに覚醒の時を迎えた。

 9年目の今季は、春季キャンプから順調に過ごし、オープン戦でも停滞することなく登板を重ねてアピール。キャリア初となる開幕ローテーション入りを決めた。その後の無双ぶりを示す象徴的なマウンドとなったのが、自身初登板となった3月28日、開幕2戦目の巨人戦だった。

 序盤から相手打線を圧倒した高橋が許した安打は「3」、しかもすべて単打とつけいる隙を与えず、9回のマウンドへ。最終盤でも直球は150キロを記録するなど球威は全く衰えず今季初勝利を完封で飾ったのだった。のちに本人が「シーズン初登板であれだけ投げられたのはすごく自信になった」と振り返るように最初にして大きな分岐点となった一戦。その後は「球界最高の左腕」の名にふさわしい快投の連続で開幕から3か月連続で月間MVPを獲得した。

 すでに2019年を上回る自己最多のイニングを投げており、ここからは未知の領域に突入する。その状況で高橋が後半戦にどれだけのハイパフォーマンスを維持できるかはチームにとってもカギとなる。前半戦も基本的には中6日の登板間隔を守って起用されており、シーズン通してローテーションを担うことができれば、大型連敗を喫するリスクも回避できるはずだ。

 高橋も「やっとみんなが戦っている舞台まで戻ってくることができた」と話しており、主力として優勝に貢献したい思いは人一倍。個人タイトルも総なめにし、沢村賞も狙える背番号29が優勝争いでもキーマンになることは間違いない。

中継ぎ陣に離脱者や主力の不調など問題が重なった前半戦で、小さくない光を放った工藤(C)産経新聞社

空いた穴を埋める存在が出現する阪神の“伝統”

 先発陣は高橋の他に才木浩人村上頌樹も開幕から堅実な投球を続けてチームに貢献。一方で不安を見せたのが救援陣だった。

 昨季66試合に登板してブレークした及川雅貴が開幕から思うように状態が上がらず4月に2軍降格を経験。不動のセットアッパーだった石井大智も2月の春季キャンプ中に左アキレス腱断裂の重傷を負って長期離脱を余儀なくされた。優勝した昨季に1.96だった救援防御率は現時点で3.36。1点でもリードしていれば、7回から及川、石井、岩崎優と繋ぐ、相手からすれば“ノーチャンス”だった勝利の方程式の安定感は今季はやや揺らぐ。

 ただ、離脱者や不調で空いた穴を埋める存在が出現するのが、ここ数年の阪神ブルペンの良き“伝統”でもある。今季は若き剛腕の工藤泰成が台頭した。

 育成から支配下に昇格した昨季は不安定だった制球が今季は安定し、持ち味である直球を主体としたパワーピッチを確立。その魅力を誇示したのが、7月11日のヤクルト戦だ。1-0とリードした8回に登板した右腕は味方の失策などもあって無死満塁の大ピンチを背負った。なんとか2死までこぎつけたものの、対峙したのは相手主砲のドミンゴ・サンタナ。捉えられれば、逆転される窮地だった。

 しかし、ここで工藤は真価を発揮する。初球に球団の日本人投手最速となる163キロを計測してストライクを奪うと、最後は6球目の高めの直球で空振り三振に斬った。これには、現役時代に絶対的クローザーとして君臨した藤川球児監督も「自分が現役の時を思い出しても、いわゆる覚醒をするときは非常に大きな壁が目の前にある。こういうふうにして乗り越えていくんだというのが見て取れた。こちらもゾワゾワとした」と最大限の賛辞を送った。

 いまや守護神のラファエル・ドリスに繋ぐ役割を担うまでになった工藤を筆頭に、同じく160キロの速球が魅力の木下里都など経験を積んでいる若手リリーバーが優勝争いの中でも力を発揮できれば、ベテランのドリス、岩崎の負担も軽減できる好循環となる。

打線で「個」でフォーカスすれば脅威。一方で下位打線は火力不足な面も

 一方で打線はどうか。ここまで個人成績だけをフォーカスすれば、他球団との差は歴然。投手が高橋なら、野手は生え抜きの大砲コンビが前半戦のチームをけん引したと言って間違いない。

 4番の佐藤輝明は、開幕から長い不振もなく快音を連発。持ち味の長打も遺憾なく発揮してリーグ2位の21本塁打を放ち、打率は3割を優に超えるリーグ1位(.319)に位置している。そして、その佐藤を上回る本塁打を放っているのが3番を打つ森下翔太。前半戦の時点で昨季マークした自己最多23本塁打を上回る24本塁打を放っており、シーズン3割、40本塁打を狙える打者が2人いる中軸は脅威と言える。

 脇を固める面々も盤石だ。5番の大山悠輔は、すでに52打点を稼ぎ、勝負を避けられることもある佐藤の後を打つ者としてきっちり仕事をしてきた。4月26日の広島戦で受けた死球により左手首を骨折した近本光司の離脱こそあったが、高寺望夢の台頭もあって大きな穴とならず、中野拓夢も攻守で健在だ。

 ただ、下位打線が迫力不足なのは否めず代打陣も“切り札”になりえる存在が今年はいない。その意味で四国独立リーグの名門・高知から獲得したデルミス・ガルシアへの期待は高い。ここからスタメン起用もあるはずだが、勝負所で長打を望める助っ人の出番は増えてくるだろう。

 そして、もう1人。打線のキーマンに指名したいのが、ドラフト1位の立石正広だ。

 5月19日の中日戦で1軍デビューを果たし、同月22日からの敵地でのジャイアンツ戦では3連戦すべてに先発出場してプロ初打点、プロ初本塁打を放つなど14打数7安打、5打点と大暴れ。チームの同一カード3連勝に大きく貢献した和製大砲だったが、その後はプロの壁にぶち当たり、2軍落ちを経験した。

 今月18日に再昇格を果たした立石は、現在は左翼での先発が中心で、前川右京が右肩甲骨骨折から復帰すれば併用となりそうだが、同世代の2人が切磋琢磨してポジション争いをすれば自然とチームの底上げにも繋がるだけに、奮起を期待したい。

 個人を見れば、圧倒的な数字を残した主力が複数いる一方で、チームとしては快調に貯金を積み上げることができなかった印象も強い。巨人とほぼ横一線でスタートする後半戦。「個」の力で突き抜けるのか、それとも藤川監督が強調する「束になって戦う」スタイルを体現して差をつけていくのか。目が離せない連覇への挑戦だ。

[取材・文:遠藤礼]