(※写真はイメージです/PIXTA)

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NISA制度が開始した2024年1月以降、日本では投資の垣根が一層低くなりました。低金利、円安、給料の据え置きなどもあり、慎重派の日本人にも「少しずつでも投資を」という意識が広がっています。ただし、多くの人が注目しているのは「新NISA」。2025年12月末時点で2,820万口座を突破しました。一方で、同じく儲けが非課税であり、節税というメリットも加わる「iDeCo」は“原則60歳まで引き出せないから”と、スルーされがち。加入者数も2026年5月時点で約398万人と、増加しているもののNISAに比べれば小規模です。そんな中で、「私はiDeCoを優先していきます」と語る、会社員の大森さん(仮名・52歳)。その理由とは? FPの青山創星氏が解説します。※口座数と加入者数は金融庁及び国民年金基金連合会の公表データより。

「全員が新NISAでいいのか?」50代会社員が首をかしげるワケ

「全員が『新NISAを優先』には少し違和感があります。40〜50代から投資を始めるなら、むしろiDeCoを優先した方がいいと思いますけどね」

投資をするなら新NISAで”という空気感がある中で、会社員の大森雅之さん(仮名・52歳)は、そう主張します。大森さんの総資産は2,000万円超。現在はiDeCoと新NISAの両方を活用しています。

大森さんが投資を始めたのは2018年4月。その年の1月に「つみたてNISA」(旧NISA制度)がスタート。投資セミナーに参加したことをきっかけに、つみたてNISAを利用して全世界株の投資信託を積み立て始めました。

しかし、当時のつみたてNISA投資上限は年40万円まで。「少ないな」……そう感じた時に注目したのが、当時つみたてNISAと並列して紹介されることの多かった「iDeCo(個人型確定拠出年金)」でした。

NISAiDeCoも、運用で増えた分に税金がかからないメリットは同じです。でもiDeCoは、掛金がまるごと所得控除になることが、NISAにはない強みだと知って。といっても、セミナーで聞いた話の受け売りなんですが。余剰資金もあったので、得できるならやってみようかなと」

iDeCoで月2.3万円を積立・約7年半の結果…「引き出せないことも強み」

2019年1月、大森さんは月2万3,000円(上限)を積み立て始めました(注1)。当時は会社に「事業主証明書」を書いてもらう必要があり、頼むのが面倒だったといいます。

「金額も少ないし、これじゃ、なかなか広まらないだろうなと思ったのを覚えていますよ」

大森さんは、つみたてNISAiDeCo、さらに課税口座も使って投資を広げていきました。しかし、「大したことがない金額だ」と思っていたiDeCoでも、実際にはそのメリットが想像以上に大きかったとか。

iDeCoを始めて約7年半。積立額(拠出額)は約207万円ですが、ファンドの価格上昇率は年平均約20%で、評価額は約465万円と2倍以上になりました。節税できた額も累計でおよそ62万円です」

NISAでもiDeCoでも商品が同じであれば、運用益自体は変わりません(iDeCo手数料は考慮せず)。しかし、iDeCoの場合は掛金の所得控除ができます。大森さんの年収は約720万円。節税の恩恵は年収が高いほど大きくなり、この節税できた分を再投資に回せば、さらに利益が増えていくのです。

「若い人にはiDeCoは不人気でしょう。60歳まで引き出せないですからね。でも、定年がリアルに見える年だったら、『引き出せないお金』があったほうが、むしろ確実に貯まるじゃないですか。私の世代は年収が上がっている分、税金も高い。だから、iDeCoを優先して節税したほうが得だと思っています」

50代前後は、「流動性のなさ」という最大のデメリットが自然と薄まる時期でもあります。さらに、「事業主証明書」を会社に頼まなければならないという当初のハードルも、2024年12月の改正でなくなりました。だからこそ、大森さんは“あくまで個人的な考え”としたうえで、冒頭のような疑問を呈しているのです。

NISAiDeCo 10年間でのシミュレーション比較

NISAiDeCoでは、具体的にどれぐらいの差が出るのでしょうか。大森さんが仮に月2万円ずつ、同じ商品で10年間投資をした場合のシミュレーションを比較してみましょう。

■シミュレーション条件:同じ全世界株の投資信託を月2万円ずつ10年間積み立て、利回りは公的年金の運用実績(GPIF・2001〜2025年度)並みの年4.67%。60歳定年・再雇用で年収が下がる前提。

NISAの場合:元本240万円が約306万円に育ちます。運用益約66万円は非課税です。

iDeCoの場合:運用部分は、口座管理手数料を引いた分やや少ない約299万円。ただし年24万円の掛金がまるごと所得控除になり、大森さんなら10年間の節税額は約67万円(60歳以降は年収が下がり節税率も低下)。戻った税金をその都度再投資すれば10年後には約83万円分となり、合計約382万円になります。

同じ商品、同じ利回りでも、手元に残る額には約75万円の差。「掛金の所得控除」というiDeCoだけの武器の効果です。

もっとも、実際に投資をする場合、本来は一人一人の実態に合わせてしっかりシミュレーションをしなくてはなりません。iDeCoは原則60歳まで引き出せないうえ、受け取れる年齢になってからも「いつ・どう受け取るか」で手取りは変わるからです。

しかも、所得控除で軽くなるとはいえ、受け取るときには課税が原則です。これは出口の税金を脇に置き、「入り口」の節税効果を見るための、大森さんの年収を元にした試算だという点には注意が必要です。

2027年、iDeCoの枠は月6.2万円へ拡大

大森さんは現在、iDeCoで月2万3,000円を積み立てながら、2024年1月に旧NISAから切り替わった「新NISA」でも月5万円積み立てています。しかし、今後について「いったん新NISAをやめるかもしれません」という発言も。

その理由の1つが、2027年1月からのiDeCoの制度改正です(注2)。

2027年1月からはiDeCoの掛金の上限が上がり、会社員の上限は現在の月2万3,000円から月6万2,000円に拡大(企業年金がある場合、それと合算して月6万2,000円まで)。つまり、年間では74万4,000円までが所得控除の対象となり、節税のメリットも大きくなります。

iDeCoだけで年74万4,000円投資できるようになるので、新NISAはそれ以上の資金があるときに使う形がいいかなと。余剰資金がたくさんあればいいのですが、ちょうど息子の大学進学にもお金がかかる時期。残念ながら、しばらくはiDeCoだけで手一杯かもしれません」

どちらを優先するかは人それぞれ、万人向けの正解はない

iDeCoの制度改正を控え、特に定年が視野に入ってくる40代後半以降にとっては「iDeCoが主役、NISAはサブ」という考え方も人によっては現実的になり得るでしょう。ただし、iDeCoには独自の注意点もあります。

それは、出口でかかる「税金」です。iDeCoは受け取るときに課税されます。一時金で受け取る場合は「退職所得控除」という大きな非課税枠を使えますが、会社の退職金と同じ時期に受け取ると、この枠を分け合うことになります。しかも2026年1月からは、受取時期をずらして枠を二重に使う条件が「5年→10年」へ厳しくなりました(注3)。退職金の多い人は、受け取り方の設計が必要です。

たとえば、退職所得控除の枠に収まる分は一時金で、収まらない分は年金形式で受け取り、「公的年金等控除」というもう一つの非課税枠を併用するのも一つの手。特に公的年金を受け取り始める前なら、この枠をiDeCoの年金にまるごと使えます。

また、枠がいくら広がっても「60歳まで引き出せない」というデメリットは変わりませんし、途中で積み立てを休止しても手数料だけは引かれ続けます。

一般的にはiDeCoのメリットをより活かせるのは、自営業や会社員でも退職金や企業年金の薄い人などです。2つの制度は併用できるので、住宅購入や教育費など、60歳より前に使う可能性がある資金はいつでも引き出せる新NISAを優先するなど、バランスを考えながら両方を使うのもよいでしょう。

そもそも、NISAの生涯枠1,800万円とiDeCoの枠を両方埋められる人は、ごく少数派です。投資は枠を埋めるゲームではありません。どちらも、生活を圧迫しない「できる範囲」で使ってこそ。自分の年齢・年収・目的から優先順位を考えることが、いちばんの「得」なのかもしれません。
 

(注1)企業年金のない会社員のiDeCo掛金上限は月2万3,000円(年27万6,000円)。

(注2)iDeCoの拠出限度額の引上げは2026年12月施行(掛金への反映は2027年1月引き落とし分から)。企業年金のない会社員は月2万3,000円→月6万2,000円に。企業年金がある場合は、企業年金の掛金と合算して月6万2,000円まで(厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」)。

(注3)退職所得控除の重複調整ルール:iDeCoの一時金を先、退職金を後に受け取る場合、従来は5年以上空ければ重複調整が働かず、iDeCo退職金がそれぞれの退職所得控除を互いに削り合わずに使えたが、2026年1月からは10年(前年以前9年内が調整対象)に延長。退職金を先に受け取る場合は「前年以前19年内(20年ルール)」が対象で変わらない(国税庁 No.2735)。

※本文中の試算は特定の条件下での概算シミュレーションによるもので、将来の運用成果を保証するものではありません。また、特定の制度や商品の利用を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行なってください。

青山創星
ファイナンシャル・プランナー