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「久しぶりの孫との再会は嬉しいけれど、正直しんどい……」。そんな思いを抱える高齢夫婦は少なくありません。1年ぶりに帰省した長男一家をもてなした、73歳男性。にぎやかで幸せな5日間のはずが、一家を見送った後に妻へこぼした「本音」とは? 帰省に潜む、親子のリアルに迫ります。

待ち遠しかった長男家族帰省

「じいじ、久しぶり!」

昨年のお盆。東京郊外で暮らす佐々木健一さん(73歳・仮名)は、駅の改札で駆け寄ってきた小学3年生の孫を抱きしめました。

九州に住んでいる長男夫婦と孫2人が実家へ帰省するのは、約1年ぶりでした。滞在は5日間。健一さんは元地方公務員で、現在受け取る年金は夫婦で月26万円ほど。毎月の支出は16万円ほどに抑えて生活していました。

「大きな贅沢はできませんが、年金だけで何とか暮らせています」

そう話す健一さん夫妻は、帰省に合わせて少しずつ準備を進めていました。布団を干し、シーツを洗い替え、孫が好きだというジュースやアイスも冷蔵庫へ入れておきます。スーパーへ行くと、普段より買い物の量が急に増えました。牛乳4本、卵2パック、食パン3斤。肉や野菜もまとめ買いです。

「子どもはよく食べるから」

そう笑いながらレジを通りましたが、会計は普段の約3倍となる1万8,000円でした。それでも、このときは気になりませんでした。年に一度しか会えない大切な家族です。「好きなものを食べさせてやりたい」。その気持ちのほうが勝っていました。

帰省初日はただただにぎやかでしたが、2日目からは大忙しです。朝6時前には孫が起き始めます。朝食はパンだけでは済みません。卵料理にウインナー、サラダ、ヨーグルト。牛乳を切らさないよう、毎日買い足します。

昼はそうめんだけでは物足りず、天ぷらやおにぎりも並べました。

夜は焼き肉、手巻き寿司、カレー、唐揚げ。妻の和子さん(71歳・仮名)は、ほとんど一日中キッチンに立っていました。

「洗い物が終わったと思ったら、もう次の食事の支度です」

健一さんも車を出して買い物へ行き、荷物を運び入れます。せっかく東京に来たのだからと、大型テーマパークにも家族総出で行きました。家の中は常ににぎやかです。テレビの音量も、エアコンの設定温度も、夫婦2人の暮らしとはまるで違いました。

午後になるころにはすでにクタクタですが、そんな弱音は吐けない空気がありました。内閣府『第10回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』によると、老後における子どもや孫との付き合い方として「時々会って食事や会話をするのがよい」と答えた日本の高齢者は59.6%と、最も多くなっています。

一方で、「いつも一緒に生活できるのがよい」と答えた割合は前回の調査より減少し、14.0%にとどまりました。たまの帰省家族団らんの時間を楽しむ喜びは大きいものの、体力的な負担を考慮すると、日頃は夫婦2人の落ち着いたペースで暮らし、適度な頻度で交流を持つことが、理想的な家族との付き合い方といえそうです。

長男家族が帰ったあとの本音

そして5日目の夕方。長男一家を駅まで送り届けると、健一さん夫妻は家へ戻りました。玄関を開けた瞬間、静けさが家を包み込みます。洗濯物を片づけ、客用布団をしまい、冷蔵庫の整理を終えると時計は午後9時を回っていました。

健一さんはソファに腰を下ろし、大きく息をつきました。そして妻だけに、小さな声で言いました。

「1年ぶりに会えてうれしい。でも……正直、きつかったな」

和子さんは少し間を置いて答えます。

「私も同じこと思ってた。でも、あの子たちには絶対言えない」

この5日間のレシートを整理すると、支出は予想以上でした。食費が約5万4,000円。外食2回で2万2,000円。テーマパークに遊びに行った際の入園料や食事代、お土産代もすべて負担しました。その額、実に12万円――結局、健一さんの1カ月の年金受給額を超える支出となったのです。

健一さんは「年に1回のことだから」と自分に言い聞かせる一方で、「あと何年、同じように迎えられるだろう」と不安が押し寄せます。今のところ家計に赤字はないものの、同じことが来年も言えるとは限りません。いつまで夫婦ともに元気でいられるかという不安もよぎります。

厚生労働省『2025年(令和7年)国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の1世帯当たり平均所得金額は336.1万円であり、全世帯平均の575.2万円を大きく下回っています。さらに、日々の生活について「大変苦しい(21.0%)」「やや苦しい(31.1%)」と回答した高齢者世帯の割合は合計52.1%と、半数以上に上ります。限られた年金収入などでやりくりするなか、いくら可愛い孫や子のためとはいえ、一度に十数万円の出費が重なることは、将来の家計への不安を増幅させる切実な問題といえます。

孫の笑顔は何よりのエネルギーですが、無理をして持続できなくなっては本末転倒。「たまの帰省」を互いに笑顔で終えるために、今後は財布も体面も張り合わず、等身大で迎える勇気が必要なのかもしれません。