「金属有機構造体(MOF)」の開発でノーベル化学賞を受賞した科学者がアメリカを離れ中国の研究所所長に就任

「金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks、MOF)」を開発した功績で、2025年にノーベル化学賞を北川進氏やリチャード・ロブソン氏とともに受賞したオマー・ヤギー氏がアメリカを離れ、中国のAI材料研究所の所長に就任することが明らかになりました。この動きは、ドナルド・トランプ大統領による科学予算の削減と、中国による優秀な研究者の誘致が行われる中で起こったものです。
Nobel Laureate in Chemistry Omar M. Yaghi joins Tsinghua University full-time-Tsinghua University
Nobel-winning materials scientist Omar Yaghi joins China’s Tsinghua University from the US | South China Morning Post
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3359430/nobel-prize-winning-materials-scientist-omar-yaghi-joins-tsinghua-university-us
Nobel-winning chemist leaves US to direct AI materials lab in China
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02143-x
MOFは金属イオンと有機分子を3次元構造に組み上げた多孔性材料であり、内部に多くの空間を持つことが特徴です。MOFの内部空間には特定の気体や液体などの物質が出入り可能で、「飲料水から微量有害物質を除去する」「砂漠の空気から水分を回収する」「排出された二酸化炭素を除去する」「燃料水素を貯蔵して自動車を走らせる」など、多方面での活用が期待されています。
ヤギー氏らはMOFを開発した功績により、2025年ノーベル化学賞を受賞しました。
2025年ノーベル化学賞を受賞した北川進氏らの「金属有機構造体(MOF)」は何に役立つのか? - GIGAZINE

By Ill. Niklas Elmehed © Nobel Prize Outreach
ヤギー氏の両親は現在のガザ地区から退避したパレスチナ難民であり、ヤギー氏は1965年にヨルダンで産まれました。その後、ヤギー氏は15歳で渡米して高校へ入学し、1990年にイリノイ大学で博士号を取得しました。
ヤギー氏は2012年にアメリカのカリフォルニア大学バークレー校の化学教授となり、ローレンス・バークレー国立研究所の所長も務めました。また、水蒸気や二酸化炭素の回収に使える材料を開発する企業・Atocoや、空気中の湿気を純水に変換する装置を開発する企業・WaHaなどを共同設立しています。
そんなヤギー氏がノーベル化学賞の受賞から1年もたたないうちにアメリカを離れ、中国・清華大学のAI材料研究所の所長に就任することが報じられました。ヤギー氏は以前から清華大学とつながりがあり、2022年には同大学の名誉教授に就任していましたが、これでついに常勤教授となります。
科学誌のNatureは、ヤギー氏の中国移住はトランプ大統領がアメリカの科学予算を削減し、国際的な研究協力関係を制限しようとする中で起きた事態だと指摘しています。実際にヤギー氏は2026年6月、科学系メディアのScientific Americanによるインタビューで科学界の現状について尋ねられた際に、「現在、多くの大学研究者が頼りにしている機関による助成金や科学研究への支援が削減されているため、状況はあまり芳しくありません」と回答していました。
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アメリカではトランプ大統領の就任以降、STEM(科学、技術、工学、数学)および医療分野の博士号取得者1万109人が職を離れたことがわかっています。
トランプ大統領就任以来アメリカ政府は理数工系や医療分野の博士号取得者を1万人以上失った - GIGAZINE

これに対し中国など一部の国々では、高度な技能や知識を持つ学者らを誘致するために積極的な投資を行っています。中国の一部の都市または省では、外国から中国に移住する研究者に一時金や月々の手当を支払うケースもあるとのこと。
中国は科学研究に潤沢な予算をつぎ込むことで海外の優秀な研究者や学生を誘致している - GIGAZINE

中国のイノベーションについて研究するオーストラリア・シドニー工科大学の科学政策研究者であるマリーナ・チャン氏は、ヤギー氏の決断の背景には「AI・化学・材料科学を組み合わせた新たな研究パラダイム」を構築したいというビジョンがあるのかもしれないと指摘しています。
Natureは、「中国は長年にわたり、科学分野における世界的なリーダーとなることを目指し、研究開発費の増額に継続的に取り組んできました。経済協力開発機構(OECD)の報告書によると、2024年の中国の研究開発費総額は年間1兆300億ドル(約167兆300億円)で、アメリカの1兆100億ドル(約163兆7900億円)を上回りました」と述べました。
