上司の「なんか違う」に三流は引き下がり、二流は食い下がる…真意を瞬時に引き出す”一流の切り返し”
※本稿は、川岸宏司『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和書房)の一部を再編集したものです。

■まずは自分の感情を飼いならす
会議で上司にこう言われたとします。
「この企画、全然ダメだね。やり直して」。
準備に3日かけた。中身を見てもいない。何がダメなのかすら言わない。当然、腹が立つ。帰り道に頭の中で繰り返すのは「あいつ、なんなの」という一言。
愚痴って発散するか、黙って飲み込むか。どちらにしても、何も残らない。
でも私はある時期から、この瞬間を「言語化のトレーニング」に変えるようになりました。
方法はシンプルです。「なぜあの人は、あんな言い方をしたのか」を、相手の立場から本気で考える。私はこれを「完全憑依」と呼んでいます。
■「なぜこの人は、こんな言い方をしたのか?」
そもそも、怒りはほかの感情と性質が違います。
悲しみは「自分が傷ついた」と認めた上で生まれる。不安は「わからない」と自覚した上で生まれる。でも怒りだけは、「自分は正しい」と確信した状態で発火します。
私自身、20代前半まではよく怒っていました。理不尽な取引先、筋の通らない上司。正義の味方のつもりでブチギレていました。しかも、怒っている本人には自覚がない。
悲しみや不安の感情には名前をつけられても、怒りには名前をつける気にすらならない。

だからこそ、視点のスイッチが要ります。自分から、相手へ……の切り替えです。
上司の「全然ダメだね」に、相手側から入り込んでみます。なぜこの人は、こんな言い方をしたのか。仮説を3つ、頭の中で並べる。
2.企画の方向性が、まだ共有されていない経営方針とズレていた(でも方針自体を部下には言えない立場だった)
3 .そもそも言語化が苦手で、「ダメだね」以外の語彙を持っていなかった
3つ目を考えたとき、「あの人、感情の言語化ができていないだけでは?」と、ちょっと笑えてきませんか?
■相手を変えるのではなく自分が変わる
こうなると、景色が変わります。「理不尽な攻撃」だと思っていたものが、「相手の言語化力の限界」に見えてくる。
敵が消えるわけではない。でも、敵の解像度が上がる。解像度が上がれば、動き方も変わります。
「次は企画を出す前に、方向性だけ30秒で確認しよう」
「あの人には結論から3行で見せたほうが刺さる」
怒りをぶつけて相手が変わった経験、ほぼないはずです。でも、相手の行動原理を言語化できれば、自分の動き方は変えられます。

■感情を分解して言語化する
もう1つ、知っておくと楽になることがあります。それは、怒りは単体の感情ではないということです。あの上司のダメ出しを解凍してみると、
「人前で否定された」→ 屈辱
「評価が下がるかもしれない」→ 不安
というように、中から3つの別々の感情が出てくる。この段階で、不思議と怒りのボリュームは半分以下になっています。
この分解した感情に、さらに憑依の仮説をぶつけてみます。
屈辱→「『配慮して個別に呼ぶ』という選択肢を持っていないのかもしれない」
不安→「あの一言は“評価を下げる宣言”ではなく、“早めに突き返して本番までに直させる”という、むしろ評価を守ろうとする行動だったのかもしれない」
こうやって分解して言語化すると、怒りは「相手への理解」に変換されていきます。
誤解しないでほしいのですが、許す必要はありません。理解と許しは別物です。理解は戦略です。相手の行動原理がわかれば、次に自分がどう動くかを選べるのです。
■焦点のボヤけた言葉を翻訳する方法
感情の言語化で鍛えた力は、ビジネスの現場でも役立ちます。
会議で、次のようなよく聞く言葉があります。
「状況が悪い」「雰囲気が微妙」「チームの士気が低い」
わかります。わかるのですが、それ、何も言っていないのと同じですよね。
「状況が悪い」は感情で言えば「なんかモヤモヤする」と同じレベルで、状態を伝えているだけでは、誰も動けません。状態には「主語」と「動き」がないからです。相手目線に立つと明確かと思います。
私も人のことは言えませんが、だからこそ対策を講じました。状態を次のように動詞に変換するのです。
「雰囲気が微妙」→ 誰が、何をしたから微妙なのか?
「士気が低い」→ いつから、何がきっかけで低くなったのか?
これだけでビジネスの言語化力は一段上がります。

■「次」につながる3つの質問
フレームワークは驚くほど簡単。自分にたった3つの質問を投げるだけです。「誰が?」「何をした?/何が起きた?」「いつから?/どのくらい?」。主語、動詞、数字。この3点が揃った瞬間に、「状態」は「事実」に変わります。
【変換後】「今月の新規問い合わせが先月の半分になっている。SNSの投稿頻度が週5回から週1回に落ちた先月あたりから減り始めた」
【変換前】「最近チームの雰囲気が微妙」
【変換後】「先週の朝礼で田中さんと鈴木さんがお客様対応の方針で揉めて以来、2人が直接話さなくなった」
【変換前】「お客さんの反応が悪い」
【変換後】「先月の商談10件中、2回目のアポが取れたのは2件だけ。初回の提案時に、相手の課題を聞き切れずにこちらの説明を始めてしまっていた」
違いは歴然です。変換後は「じゃあ、次に何をするか」がすぐに議論できます。変換前は「で、どうする?」と聞いても、また「うーん、厳しいですね」で終わるのが目に見えていますよね。
状態を動詞に変えるとは、イメージ化すると「写真」を「動画」にすることです。止まっていた場面に動きが入ることで、原因と対策が見えてくるのです。
■上司の曖昧な返答を「逆言語化」
最後に、ビジネスで最も厄介な言葉を扱います。
「うーん、なんか違うんだよね」

上司から資料を差し戻されたとき、こう言われた経験は誰にでもあるはず。「どこが違いますか?」と聞いても「いや、全体的に……なんか」としか返ってこない。
私も経営者としてこの「なんか違う」を部下に言ってしまうことがあります。だからこそ断言できますが、「なんか違う」は、上司の言語化力不足です。
かと言って「上司が悪い」で終わらせてもあなたの仕事は前に進みません。だから、あなたのほうから翻訳する技術を身につけてほしいのです。
これを、私は「逆言語化」と呼んでいます。通常の言語化は自分の頭の中を言葉にする作業。逆言語化は、相手の頭の中を言葉にする作業です。
■「そうじゃない」を言葉に“させる”
コツは、「こういうことですか?」と仮説を投げること。「なんか違う」であれば、その裏に隠された3つの“ズレ”を想定して質問します。
2.抽象度のズレ:「もう少しざっくりした全体像がほしいですか? それとも具体的な数字が必要ですか?」と聞く。
3.思考の順序のズレ:「結論から先にお伝えしたほうがよかったですか?」と聞く。論理は正しいのに、説明の順番が上司の思考パターンと合っていないケースです。
仮説が正解なら「そうそう、それ」と返ってくる。間違っていても「いや、そうじゃなくて……」と、否定の中に本音が出てくる。
「そうじゃない」を言語化するほうが、「何が正解か」をゼロから言語化するよりはるかに簡単なのです。
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川岸 宏司(かわぎし・こうじ)
株式会社DIL 共同創業者
読書と言語化が大好きな経営者。学歴なし・月収14万円から1冊の自己啓発書との出会いをきっかけに、本でビジネススキルを学ぶ。現在は、株式会社DILを含む複数の会社を経営し、各種SNS顧問・デザイン・書籍プロデュースの業務を担う。2020年開始のXでは読書術・言語化術を発信し、5年で10万フォロワーを突破。著書に『1%読書術』(KADOKAWA)、『耳を鍛えて4倍速読』(ダイヤモンド社)、『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和出版) がある。
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(株式会社DIL 共同創業者 川岸 宏司)
