西武ライオンズ「黄金時代を知る男」 立花義家打撃コーチが語る“打撃向上のワケ”と復活への手ごたえ
「戻ってくることができますか?」
’24年は最下位、’25年は5位と近年低迷が続いていた埼玉西武ライオンズ。しかし今シーズン、チームの打撃陣は確かな変革を遂げ、好調を維持している。
その立役者の一人が、昨季から復帰した立花義家打撃コーチ(67)だ。
’23年から韓国・サムスンライオンズのコーチをしていた立花コーチに、埼玉西武ライオンズから打診があったのは韓国リーグでのプレイオフ直前だった。
「戻ってくることができますか?」
と球団からの連絡を受け、18年ぶりに古巣への帰還を果たした。
「まさかライオンズに戻ってくるとはまったく考えてませんでした。とにかく、自分が今までやってきたことをやるだけ」
と語る立花コーチに、打撃好調の理由とチームに足りない“黄金時代のピース”について話を聞いた。
低迷期を脱し、ここまで打撃が向上した理由について立花コーチは
「昨年の経験が多少は生きてきている。基本的には一軍のピッチャーに慣れてきたということ」
と、選手たちの経験の蓄積を第一に挙げる。
技術的な指導もさることながら、最も重視しているのは打席での“踏ん切り”だという。
「打席に立って『ああでもない、こうでもない』ってやる暇はないんです。だから、このコースに来る、この球が来ると“踏ん切り”をつけていけるかどうかが一番大事なんです。一軍だから基本的には突貫工事していかなきゃいけない。今日は『手だけ振る』を意識してなどという話をします。150キロの球が来るわけだから、何個も指示を出しても間に合わない。目で見たときに手が走っているかどうか、そのためにこういう考え方をしようと伝えています」
また、チームの意識を変えた大きな要因として、FAで加入した桑原将志選手(32)と石井一成選手(32)の存在による「選手層の厚みと競争」を挙げる。
「残念ながらこれまでキャリアをそんなに積んでいない選手が多かった。そこに絶対的なレギュラーでやってきた桑原くんや石井くんが入ってきてくれた。それで若い選手たちが『食い込んでいかなきゃ』と思うようになれば。その方法とかを自分は教えてあげたい」
とくに4月21日にケガする前までは打率3割を超えるなど、前半のチームを牽引してきた“ガッツマン”桑原選手については、
「打ちにいく姿勢がやっぱりすごい」
と絶賛する。
おじいちゃんと孫が喋っているよう
「見ていくんじゃなくて、打ちにいく。空振りもファウルもありますけど、ああいう姿勢は絶対大事。“待って待って”という姿勢では、あっという間に追い込まれちゃいますから」
今シーズンのライオンズを象徴するのが、若い力の躍進だ。
かつてはファンからドングリの背比べをモジって「ドングリーズ」と揶揄されることもあった若手外野陣の中で、交流戦で最多安打とMVPを獲得し、一躍チームスローガン“打破”の象徴となったのが長谷川信哉選手(24)だ。立花コーチはキャンプ初日の時点で彼の変化を見抜いていた。
「今年のキャンプ初日、室内練習場で打っているのを見て、去年とは明らかに違うなと。『いい打ち方してるね』と言いました。懐が深いから手が抜けていく感覚。手が使えるから、縮んで伸びたり、小さく振ったりができる。昨年までは身体がついていくから反対方向にポップフライだったんですけど、今年は手が走るから打った方向にホームランにできるんです」
また、2番打者として3割を超える(7月15日現在)素晴らしい打撃成績を残している滝澤夏央選手(22)についても、
「夏央はもともと振る力がある」
と評価する。
「足が速いからって無理してショート方向にばっかり打つ必要はない、引っ張ってもいいんだよと昨年話したんです。引っ張っちゃってオーバースイングになったら、今度はショートやサードに打とうと考えればいい。そうやって自分の中で作り上げていったら視野が広がる。そんな話をしています」
若手たちと熱心にコミュニケーションを取る姿は、SNS上では
〈おじいちゃんと孫が喋っているよう〉
と話題になることもある。そこには一軍のレギュラーとしての自覚を促す厳しさも含まれている。
ある日、ヒットが出ず落ち込んでいる滝澤選手が、試合後のハイタッチをスルーしようとしたときに呼び止めたエピソードを明かしてくれた。
「『それはダメだろ』と。試合に出ること自体がもう責任を果たしているんだから、チームが勝ったことに対してはちゃんと喜びなさいと話しました。夏央だけでなく長谷川もそうですけど、出場している若い人たちはチームを背負って立たないといけない。自分が打てなかったからといって、そういう態度はダメ。後々のことを考えてそういう話をしました」
さらに、今季のライオンズの特徴として、捕手陣の打率が非常に高い点が挙げられる。古賀悠斗選手(26)、柘植世那選手(29)の打撃が向上したことに加え、ドラフト1位ルーキーの小島大河選手(22)が加入した相乗効果も大きいという。
田淵さんがガンガン引っ張って
「キャッチャーは本当にやることが多くて大変だから、基本的には『楽しく打ってくれ』と話をします。バッティングに関して細かいことを言うことはないです。今は古賀にしても小島にしても打順上位を打っていますからね。小島はタイミングを取るのがうまくて、変化球も真っすぐも同じようにスイングできる。その中で我慢ができるから数字が残せるし、目がいい。彼の打席は見ていて楽しみですよ」
かつて選手として埼玉西武ライオンズの黄金時代を経験し、’04年から’07年のコーチ時代にはカブレラ選手や和田一浩選手が抜けていく中で、中島宏之選手や中村剛也選手(42)、栗山巧選手(42)ら若い力が台頭していく姿を見てきた立花コーチ。今のライオンズが再び黄金期を築くために何が足りないのかを問うと、迷わず「経験」と「チームを引っ張る意識」だと答えた。
「黄金期といわれる時代は、ここで負けちゃいけないっていう時に勝っていた。今の選手たちはそれをまだ経験していない。自分の現役時代は、田淵(幸一)さんら実績のあるベテランが一回りくらい上で、ガンガン引っ張ってくれて、とにかくそこについていった。その中でレギュラー争いをして、なんとか食い込もうと。隣にいる人が一軍だと俺は上がれないんだって思ってやってましたから」
立花コーチが現役選手としてライオンズにいた1977年~1991年は、根本陸夫、広岡達朗、森祇晶という“名将”が監督としてチームを率い、リーグ優勝8回、日本シリーズ7回制覇。まさに“黄金時代”だった。
「今はチームをガンガン引っ張ってくれる人がそんなにいない。桑原くんが来てくれて、源田壮亮(33)も頑張っている。だけど、西川愛也(27)とか渡部聖弥(23)、滝澤、長谷川とか、若い彼らがすでにレギュラーなんです。つらいかもしれないけれど、そういう若い人たちが経験を積んで、チームを引っ張る意識を持ってもらいたいですね」
チームの雰囲気自体はけっして悪くない。それどころか
「今年は控えの選手がよく声を出していて、全員が試合に集中しているから、代打や代走でもすぐに結果が出せている」
と、ベンチの結束力には手応えを感じている。
最後に「ライオンズの黄金時代は再び来るか?」と尋ねると、立花コーチは力強い眼差しで結んだ。
「本当に強くしたいです。やっぱりライオンズは『強い』というイメージですから。自分たちはそのプレッシャーの中でやってきましたし、練習からプレッシャーがありました。それをはねのける強い意志を持たなくちゃいけない。だから若い選手たちには、そういう気持ちを持たなくちゃいけないよと話しているんです。内面的に強くなれば、ライオンズはもっともっと強くなりますよ」
今シーズンで2000本安打を達成した“レジェンド”栗山が引退する。チームを引っ張るベテランの背中と、それを追い越すほどの勢いをみせる若手の力が結集したとき、他チームを“打破”してパ・リーグ、そして日本の頂点にライオンズが立っているはずだ――。
取材・文:荒木田 範文(FRIDAYデジタル芸能デスク)
