売って引っ越すこともできない⋯「新築なのに事故物件」に当たってしまった【家族のその後】
〈「妻がいなくなった」遺体を自分が建てた“新築物件の下に埋めた”のに…妻を殺した大工の「完全犯罪」はなぜバレた?〉から続く
妻を殺害し、自分が建築中の「他人の新築マイホーム」に遺体を埋めた大工の夫。男の企てた完全犯罪はあっけなく露見したが、念願の新居を突如“事故物件”にされてしまった無関係な家族の悲劇は終わらない。
【写真】この記事の写真を見る(2枚)
事件が解決しても、彼らには「売却時の告知義務」や「賠償の壁」という残酷な現実が待っているからだ。後編では、そんな理不尽すぎる事故物件の裏事情に加え、不動産にまつわる複数の奇妙な事件を紹介する。
放火殺人犯の部屋から発見された「同居人のミイラ化遺体」の不可解な謎。そして、トランプ前米大統領が“世界最高のギャンブラー”と絶賛した日本人富豪の凄惨な未解決殺人事件──。事故物件サイト管理人・大島てる氏の著書『大島てるの怪談部屋 ヒトコワ事故物件』(彩図社)より、日常に潜む“人間の怖さ”をお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty
◆◆◆
新築なのに事故物件
しかも、もし「この家にはもう住めないから、売り払って新しいところに引っ越そう」と考えたとしても、実行に移すのは簡単ではありません。
今度はその家族が「この家ではこんな事件がありました」と、事故物件であることを告知しなければならないのです。物件としての価値は大きく下がるでしょうから、望む金額で売るのは難しいはずです。
悪いのは犯人だが…
しかし、不動産業者が悪いわけでもありません。不動産業者は事件を知らなかったのですから、告知のしようがありません。悪いのは全て犯人。
犯人に損害賠償請求をすることはできるものの、刑務所に入って服役することになった犯人にどれだけ支払い能力があるのか。泣き寝入りになる可能性が高いはずです。
もちろん、こんな事件はそうそう起こりません。ですが、新しく建物が建つということは、そこにあった何かが、何らかの理由でなくなったということです。
建設中に遺体が埋められることは滅多にないでしょうが、孤独死や火災をきっかけに建物が解体され、新しい建物が建つこともあります。となると、建物は新しくとも、“土地”にはそれなりの前歴があるのかもしれません。
殺人犯の自宅から見つかったのは「ミイラ」
遺体が腐敗し、異臭を放つことで近隣住民が気づいて通報、発見される。
事故物件ではよくあるパターンです。ただ、なかには腐敗せずミイラ化した状態で発見される遺体もあります。数は多くありませんが、大島てるにも炎のマークをクリックすると、「ミイラ」と書いてある事故物件が複数あります。
「ミイラなんてあるわけないだろ、エジプトじゃないんだから」といったコメントがつくこともありますが、現代の日本でも、条件次第で遺体はミイラ化します。
ミイラ化は、死後に乾燥して細菌の活動が弱まり、腐敗しなくなった遺体に起こるそうです。したがって、脱水状態の人が亡くなった場合などは、日本でもミイラ化は起こり得ます。肉体で最も腐敗しやすい内臓が遺棄されたりした場合にも、ミイラ化は起こり得るとのことです。
新神戸で見つかった「ミイラ化遺体」の正体は…
今回の現場は、兵庫県神戸市。新神戸駅前で、ミイラ化遺体が見つかりました。発見のきっかけは、市内の工場で起きた火災です。
平成24(2012)年9月下旬、火災現場の工場で、男女が死亡しているのが見つかりました。
警察が遺体を調べてみると、59歳の男と58歳の女性であることがわかりました。さらに遺体の身元を捜査すると、男は少し前の5月に工場をクビになっていた、元従業員であることがわかります。
ここから、男はクビになった腹いせとして建物に放火して折り合いの悪い元同僚の女性を殺害し、自らも命を絶ったのではないかと考えられました。
翌日、警察は捜査を進めるため、男のマンションへと向かいました。住人の男はすでに死んでいます。部屋には誰もいないと思うのが普通でしょう。しかしそこには、ミイラ化した女性の遺体があったのです。
なぜ男の部屋にミイラが?
どうやらこの遺体は、男と交際・同居していた60代の女性であり、病死した可能性が高いことがわかりました。女性の遺体がミイラ化したのは、おそらく偶然です。
遺体が腐らないように男が手を加えたわけではなく、たまたま腐敗するよりも先に乾燥が進み、ミイラになったのでしょう。ミイラ化したことで腐敗は進まず異臭を放つこともなかったため、発見されなかったわけです。
とはいえ男はしばらくの間、ミイラとなった交際相手と同居していたことになります。いくら異臭はないからといっても、普通の精神状態ではありません。そもそも普通の精神状態ならば、クビになった腹いせとはいえ、もとの職場に火をつけたりはしないでしょうが……。
「29億円稼いだ」世界最高のギャンブラーのその後
ドナルド・トランプ米大統領が、かつて自著のなかで「世界最高のギャンブラー」と最大級の賛辞を送った日本人がいます。不動産投資家、柏木昭男氏です。
柏木氏は、ラスベガスやアトランティックシティなどのカジノにおいて、莫大なお金を稼ぎました。平成2(1990)年1月にはオーストラリアのダーウィンにあるカジノにて、バカラで約29億円もの大金を稼いだと言います。
この人物を、トランプ氏が自伝のなかで紹介していたのです。
私はトランプ氏が大統領を目指す前から、著作を何冊も読んでいました。アメリカ人経営者の成功譚を読んでいたのに、マイケル・ジャクソンやマイク・タイソンといった有名人との交遊と並んで、突如として日本人の名前が登場したので、驚いて記憶に残っていました。
トランプ氏は平成2(1990)年2月に、自身が経営するカジノに柏木氏を招いたそうです。先ほどの29億円の件の翌月ですから、その噂を聞いて興味を持ったのでしょう。そこでも柏木氏は約8億7000万円も勝ったそうで、大敗を喫したトランプ氏は資金難に陥ることとなりました。このような経験から柏木氏を「世界最高のギャンブラー」と評しています。
ただ、トランプ氏はその5カ月後に再戦を挑み、今度は約15億円の勝利を収めたそうです。その後、柏木氏はさまざまな勝負に負け続け、最後は十数億円以上の借金を抱えたと言います。
借金を抱えた男が「死体で発見」
実はこの柏木氏、平成4(1992)年1月に自宅にて首や胸などを刺され、殺されています。
この最期についてもトランプ氏は「東京のど真ん中にある大豪邸で、日本刀のような刃物で切り刻まれて殺された」という趣旨の記述をしていました。ただ、私はこれを読んだときに違和感を覚えました。土地の限られた東京に、そんな大豪邸があっただろうか、と。
実際の事件現場は、東京都内ではありません。山梨県の河口湖畔にある“柏木御殿”と呼ばれる豪邸でした。トランプ氏はバブル期に日本の不動産事業に関わっており、実際に来日もしていますが、車での移動中にどこまでが東京都内なのか判然としなくなっていたのでしょう。翻訳者も原文に忠実に訳した結果、場所の誤認がそのまま残ってしまったようです。
この事件は、十数カ所を刺されるという凄惨なものでしたが、恨みを持つ人があまりに多すぎたためか、いまだに犯人は捕まっておらず、平成19(2007)年に公訴時効を迎えました。借金が原因の殺人と見る人もいますが、なにせ犯人が見つかっていないので詳細はわかりません。
事故物件となった柏木氏の豪邸はどうなったのか?
かつての豪邸は⋯
私が現地を訪れた際、かつての豪邸は、立派な高級温泉旅館となっていました。
人が死んだ土地を誰かが買って宿泊施設にする場合、土地の売買の際には事故物件であると告知する義務があります。一方、開業したあとに利用する客に対しては、告知義務は生じません。今その旅館は、柏木氏のことなど知りもしない人が泊まっているのでしょう。
柏木氏の豪邸は規模が大きく、丸ごと旅館に転用してもなお、敷地内に増築する余裕がありました。それが結果的に、事故物件であることが伝わりづらくなっています。
この件についてもう一つ私が注目したのは、旅館の名前です。旅館の名前には、“寺”という文字が含まれているのです。寺の字は地名とは関係がありませんし、同所は旅館であって、宗教施設ではありません。
凄惨な事件が起きた土地が、祈りや鎮魂を想起させる寺の名を冠している。私は命名者に何らかの畏怖や意図があるのではないかと感じて、感慨深く思いました。関係者も同様ではないでしょうか。
ちなみに豪邸時代も、広すぎてお寺だと勘違いされたこともあるそうです。
(大島 てる/Webオリジナル(外部転載))
