記事のポイント
テニス選手の試合中のジュエリーは、競技中も映り続けることから、ラグジュアリーブランドの新たなマーケティングの場となっている。
メジュリなどは選手の意見を商品開発に反映し、「プレーできる耐久性」を日常使いの価値へとつなげる訴求を進めている。
ウィンブルドンはブランド露出だけでなく、ジュエリーの耐久性や品質を世界中へ証明する商品テストの場にもなっている。


ロシアのテニスプレイヤー、ミラ・アンドレエワ選手のブレスレットが、7月1日のウィンブルドン・センターコートでのプレー中に切れたとき、真珠が芝生の上に散らばり、試合は一時中断された。

テニスの妨害(ヒンドランス)ルールでは、自分のジュエリーが壊れたことを理由に、選手がそのポイントをやり直す権利は認められていない。落ちたものが危険を生じさせ、相手選手がただちにプレーを止めた場合にはレットがコールされることがあり、そのあとコートを片づけるためにプレーを短時間中断できる。

この場面は、ジュエリーのもっともよく知られた起源のひとつを想起させた。米国のクリス・エバート選手が、ジョージ・ベデウィ(George Bedewi)のダイヤモンドのラインブレスレットを失って全米オープンの試合を中断させ、それがきっかけでこのスタイルが「テニスブレスレット」として知られるようになったのだ。

エバート選手は当時、自身でその瞬間を商業化することはしなかったものの、結果としてテニスブレスレットというカテゴリーの創出に貢献した。それから40年以上が経過した2022年、彼女はジュエリーブランドのモニカ・リッチ・コーサン(Monica Rich Kosann)と組み、「The Tennis Bracelet-CE Collection」という13点からなる公式ダイヤモンドコレクションを立ち上げた。

それ以来、動きをテーマにしたジュエリーは大きく進化してきた。アンドレエワ選手のブレスレットは特定されておらず、伝統的なダイヤモンドのスタイルには見えなかった。

しかし、7月1日のその破損は、ラグジュアリージュエリーブランドが新たな約束を売り込んでいるさなかに起きた。その約束とは、グランドスラムのタイトルを争うようなプレッシャーの下でも、ラグジュアリーなジュエリーは目立ち、外れず、そして魅力的であり続けられるというものだ。

コート上で映り続けるジュエリーという好機



テニス界は何年も前からラグジュアリーとの距離を縮めてきた。。7月頭、大坂なおみ選手は、試合用ウエアにルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)やタグ・ホイヤー(TAG Heuer)といったブランドに加え、東京を拠点とする八木華氏のような独立系デザイナーとも組んでいる。

アンブッシュ(Ambush)のデザイナー、ユン・アン氏が手がけた彼女にカスタムされたナイキ(Nike)競技用ルックには、大きなリボンや取り外し可能なスカートがあしらわれていた。

一方、イタリアの男子プロテニス、ヤニック・シナー選手は、グローバルなグッチ(Gucci)のアンバサダーとしてグッチのダッフルバッグを持ち歩いており、同ブランドはその関係を土台に、より幅広いテニスコレクションをデビューさせた。さらに、シナー選手と、米国のココ・ガウフ選手、ポーランドのイガ・シフィオンテク選手、そしてアンドレエワ選手は、いずれもロレックス(Rolex)とのパートナーシップを誇示してきた。

ジュエリーは、ブランドにコート上の大きなビジネスチャンスをもたらしている。腕時計は重量が増え、手首のスペースを占有してしまう。また、デザイナーズバッグは試合がはじまれば見えなくなるが、ネックレスやイヤリングは、選手がサーブし、反応し、喜びを爆発させるあいだもカメラのフレームの中に残る。

女子ツアー全体を通じて、ジュエリーはいわばユニフォームのように身につけられてきた。大坂選手はミキモト(Mikimoto)のパールを、ガウフ選手はヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)のパールとコーチ(Coach)のイヤリングを身につけ、エマ・ラドゥカヌ選手はティファニー(Tiffany & Co.)を着けてプレーし、サバレンカ選手は以前カルティエ(Cartier)を身につけていた。

ブルガリア出身のグリゴール・ディミトロフ選手でさえ、試合中にヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)のアルハンブラのブレスレットを重ねづけしていた。

ジュエリーブランドにとっての機会は、その既存の行動を、手の届きやすい商品からファインジュエリー、ハイジュエリーへと導く経路に変えることにある。

「サーブができるなら、日常を生きられる」



「それを着けてサーブができるなら、それを着けて日常を生きられる」と、メジュリ(Mejuri)の創業者兼CEOであるヌーラ・サキーハ氏はGlossyに語った。創業11年のこのブランドは、過去5年で規模を3倍にし、現在は世界で60を超える店舗を展開している。

メジュリは、スポーツとアスリートのパートナーシップの取り組みである「メジュリ・プレイ(Mejuri Play)」を、2025年の全米オープンの頃に、米国のエマ・ナバロ選手を最初のテニスアンバサダーとして立ち上げた。以来、より大きな選手陣、テニスに特化した商品、そしてウィンブルドン、カナダ・オープン、全米オープンにまつわるイベントを通じて、プレイを拡大してきた。

7月初旬には、60ドル(約9000円)のスターリングシルバー製「ボーイフレンド・ボールド・ブレスレット」から、7100ドル(約106万5000円)の天然ダイヤモンドのテニスネックレスまで、プレーコレクションをさらに充実させた。

「我々は、彼女たちがどうプレーしているか、どう動いているかを考慮に入れている。これはスポーツだけの話ではない。仕事に行くこと、ジュエリーとともに生きること、ジムに行くこと、やりたいことを何でもすること、それらにまつわる話なのだ」とサキーハ氏は語った。

スポーツのパートナーシップにおいて、メジュリはより軽いスターリングシルバーとソリッドゴールドのピースに焦点を当て、ピースをデザインする際にはアスリートたちにフィードバックを求めている。

サキーハ氏によれば、ある選手は、大きなドロップイヤリングについて、その構造ゆえにプレーの妨げにならないので気に入ったと語ったという。

「我々がデザインの専門知識や製造の専門知識をもたらす一方で、商品の機能性を(選手たちと)常に共創するという考え方が大好きだ」とサキーハ氏は語った。

ハイジュエリーへ導く「コート上の見せびらかし」



そして、そうしているのはこのブランドだけではない。マテリアル・グッド(Material Good)は、はるかに高い価格帯で同じ発想を売り込んでおり、グランドスラムを観戦するラグジュアリーな買い手を狙っている。

ウィンブルドンに向けて、同ブランドはベラルーシのアリーナ・サバレンカ選手のためにエメラルドとブラウンダイヤモンドを使った特注のジュエリーセットを制作した。このコレクションには、3万2700ドル(約490万5000円)のアンクレット、4万7200ドル(約708万円)のイヤリング、そして問い合わせで購入できるネックレスが含まれる。

このジュエリーは、観客席や放送で注目を集めることを意図している。その結果、コート上での一種の「みせびらかし(自己顕示)行為」が実現した。

ピースはサバレンカ選手の力強さと自信をラグジュアリーなイメージへと変え、その一方で、ポイントの合間、チェンジオーバー、試合後のクローズアップの際に、マテリアル・グッドに繰り返しの露出をもたらす。

研究によれば、その効果は身につけている本人にも及ぶ可能性があるという。ノースウェスタン大学の3部構成の研究では、権威と結びついた服装が注意のミスを約50%減らすことが示されており、これはサバレンカ選手の7万9900ドル(約1198万5000円)超のジュエリー一式が、心理的な鎧としても、ステータスの象徴としても機能しうることを示唆している。

その可視性は、ビジネスにもつながっている。「サバレンカ選手とのパートナーシップを通じて我々を見つけ、我々のアトリエでハイジュエリーの顧客になった人たちがいるし、その逆もある」と、マテリアル・グッドのマーケティングおよびファインジュエリー担当ディレクターのテレサ・パニコ氏は語った。

ブランドにとって、その帰属(アトリビューション)は、コート上のロゴではなく、コンテンツによって達成される。

メジュリは、選手の「スタックチェック」動画や、アンバサダーをタグづけする大会の投稿を通じてカスタムのピースを明らかにし、一方のマテリアル・グッドは、緊迫した試合の写真と商品のクローズアップ、プレスへの提供、そして再投稿されたメディア報道を組み合わせる。

プレー中はそのジュエリーが個人の私物に見えても、ソーシャルメディアを見れば、どこのブランドか一目でわかる。

「サバレンカ選手のような人物のためにデザインすることは、ファインジュエリーがどうあり得るかを我々に再考させてくれた。我々は、ジュエリーが美しくあるためには華奢で繊細でなければならないという思い込みに挑み、身につける人とともに動き、本物の激しさのもとでも耐えるものを作り上げた」と彼女は語った。

その自信を支えるのは「作り」だ



しかし、アンドレエワ選手の真珠がこぼれ落ちる場面で見たように、その自信は依然として作りに左右される。

「ジュエリーが外れずにしっかりフィットすると信頼していいが、メンテナンスを忘れてはならない」と、ジュエリーブランドのイヤリー(Yearly Co.)の創業者兼クリエイティブディレクター、アン・ウィリアムズ氏は語った。

「ソリッドゴールドは比較的やわらかい素材なので、高級な留め具であっても、24時間365日の着用や衝撃の大きい着用によって、時間とともにゆるむことがある」。

ウィリアムズ氏によれば、露出した爪よりも、低く抑えられた保護的なセッティングのほうが、一般的に衝撃にうまく耐えるという。メジュリのステーションブレスレットとネックレスは、低く抑えられたゴールドの縁取りの中に個々の石をセットしている。

マテリアル・グッドはより目立つアプローチを取っているが、そのサバレンカ選手向けのピースも同様に、エメラルドとブラウンダイヤモンドをたっぷりとしたゴールドで縁取っている。

「だからこそ、ソリッドゴールド、丁寧な作り、そして修理を保証する会社が重要になるのだ」とウィリアムズ氏は語った。

そういうわけで、ウィンブルドンのようなコートは、メジュリやマテリアル・グッドのようなブランドにとって、キャンペーンであると同時に商品テストの場でもある。

テニスはジュエリーブランドに、稀有な持続的な注目度をもたらすが、同時に、留め具、セッティング、そして耐久性の主張を、ライブの精査のもとにさらすのだ。

[原文:Luxury Briefing: How Wimbledon players became fine jewelry brands' ultimate ambassadors]

Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)