「謝りましたけど!」対策マニュアルを盾に客を威圧…急増する「逆カスハラ」とモンスター店員の実態
急増する「逆カスハラ」とは
近年、カスタマーハラスメント(以下カスハラ)対策への取り組みが活発化している。街中でカスハラ防止の啓発ポスター『STOP!カスハラ』を目にすることが増え、刑事罰を盛り込むなど独自のカスハラ防止条例を制定する自治体が全国で急増。今年10月には業種や規模を問わずすべての企業でカスハラ防止措置が義務化される。
だが一方で新たな問題が浮上している。「逆カスハラ」だ。
逆カスハラとは従業員が顧客に対し一方的に対応を拒否して顧客に不利益を与えたり、暴言を吐いたり威圧的態度を取ったりして顧客を不快にさせる行為のこと。日本ハラスメント協会代表理事の村嵜要氏によれば、ここ一年で逆カスハラといえる事例が増えているという。
「例えば、顧客の正当なクレームに対して『お客様も悪いですよね』といった不必要な言葉を口にしてしまう従業員がいます。本人にその意図はないかもしれませんが、相手を不快にさせる余計な一言でしかなく、逆カスハラにつながります。
また、アパレル系のお店で顧客を上から下までなめ回すように見るとか、高級ブランド店で顧客の格を見定めるような目線で接するといった従業員の高圧的な態度もネットで度々問題視されています」
先日、筆者は飲食店でこんな光景を目の当たりにした。
30〜40代の女性客が会計の際、注文時の不手際を店員本人に指摘すると、店員は不満げながら一応は謝罪。客は店を後にしたのだが踵を返し、ほかの店員に先の店員の態度の悪さを訴え始めた。すると先ほどの店員が「謝りましたけど!」と強く反論したのだ。客は「あなたのその態度が問題なのよ」と逆上。つかみ合いに発展しそうな勢いだったが、間に立った店員が必死になだめ事なきを得た。
双方が激情型の特殊なケースだとは思うが、何より驚いたのは、客の怒りを逆なでする店員の強気な態度だ。
マニュアルを盾にする店員たち
現代では “お客様は神様”ではなく“客と従業員は同等の立場”が共通認識。カスハラ増加とともに顧客が怒るのは従業員のせいではなく“顧客が悪い”とされる風潮が高まりつつある。「カスハラには毅然とした態度で対応する」といったカスハラ対応マニュアルも周知されている。それだけに村嵜氏は「従業員が強気に出やすくなっている」と分析する。
「一昔前であれば、顧客を怒らせたらそれは従業員の責任で、上司からは接客態度に問題があると厳しく評価された。そのため顧客の怒りを鎮静化するためにもまずは謝罪し、その場を素早く収めることがある意味常識でした。
ところが現代では従業員が謝罪すれば顧客に自分の正義が正しいのだと勘違いさせ、カスハラを誘発しかねない。そうした不安のほうが大きいため、どの企業も安易な謝罪は避ける傾向にあります。
また、例えば『顧客から不必要な時間を拘束されたときはこれ以上対応できないと伝えていい』『暴言を吐く顧客が現れたら上司に対応を代わること』『コールセンターで顧客との話が長引いたときは電話を切っていい』など細かなマニュアル整備が企業ごとに進められています。こうしたマニュアルを盾に従業員が強気に出やすくなっているというのはあると思います」
先にも書いたように今年10月にはすべての企業にカスハラ防止措置が義務化される。村嵜氏はこうした義務化により逆カスハラがさらに増えるはずだと警鐘を鳴らす。
「カスハラ対応は企業の責任になるわけですから、今まで以上に従業員は強気に出やすくなる。気の強い方であれば、例にあるような『謝りましたけど!』と顧客に反論したり、高圧的、威圧的な態度や言葉を吐いたりといったケースはもっと増えるのではないでしょうか」
サービス低下の隠れ蓑に?
“カスハラ”の文字を目にすることが増え、小心者の筆者は自身の言動もカスハラと思われる可能性はゼロではないと思うようになった。
例えば商品の問い合わせをする際、こちらの飲み込みが悪く突っ込んだ質問をすると、それまで愛想がよかった店員までたちまち怪訝な表情や声に変わることがある。イレギュラーな質問が相手の警戒心を高めているのがわかり、クレーマー扱いされたくなくて疑問を解決する前に諦めることが増えた。
こうした企業の対応について村嵜氏はこう見る。
「カスハラが横行していることで特に若い従業員には強い警戒心を持つ人もいて、単に商品について聞かれただけでも過剰に反応してしまうのでしょう。経験が浅く商品知識が乏しいと、余裕がなくなり意図せず逆カスハラになってしまうケースもあると思います。
また、企業にとって重要なのは “カスハラが起きやすい状況を生まないこと”。そのため顧客対応をあえて一律化する傾向にあります。
サービスに個人差が生じると、あの従業員はできるのになぜこの従業員はできないのかと、顧客の要求がエスカレートしてカスハラにつながります。マニュアル通りでそっけない対応になるとしても、なるべく従業員の個性が出ないように一律化する必要があるのでしょう」
カスハラ対策を重視することで顧客対応が一辺倒になり、個別の事情に柔軟に向き合えなくなっているということだと思うが、別の見方をすれば、カスハラ対策という大義名分のもと、サービスの画一化や縮小は仕方がないと開き直っているようにも受け取れる。
従業員を守ることは大切だが、顧客の真っ当な意見や正当な要求さえも拒否する強気の従業員が増えればサービスの質は地に落ち、企業の評価は下がるばかりだと思うのだが。
「不当と思われる要求に対してなら、これ以上の対応はできませんと毅然とした態度で示すことは必要です。しかし前例がないから、マニュアルにないからといった理由で対応できないと判断すれば結果として顧客が不利益を被ることになります。
サービスを提供する側は、想定外のことや把握していないことを言われたとしても、できないと決めつけず柔軟に対応していくことが求められていると思います」
とはいえ企業にとって急務はカスハラ対策。逆カスハラまで意識して策を講じる企業は皆無だという。
「“逆カスハラ”という言葉自体、さほど浸透していないため企業は後れを取っています。ただでさえ商品やサービスに不満があってもカスハラと誤解されたくなくて我慢している方はたくさんいますから、強気の従業員から高圧的な態度を取られたら、たちまち不満は爆発しSNSで拡散・炎上しかねません。
そのとき初めて企業は逆カスハラを問題視し、行き過ぎた態度は取らないよう注意を促すことになるのではと思います。
記事を読んだ方は、会社からのアナウンスがなくても“逆カスハラ”になっていないかを自ら問いかけ、自発的に気を付けていただきたいなと思います」
賢い客の「正しいクレーム術」
では顧客側は、正当な要求をサービス提供側にどう伝えればいいのか。
「なるべく感情をのせず、淡々と伝えることが大切です。相手に警戒されている、または会話が嚙み合わないと感じたときは、時間や日を空けて別の従業員に話すのも作戦でしょう。大事なのはできるだけヒートアップするきっかけを作らないことです。飲食店で言い合いになったケースのようにお互いにヒートアップしてしまうと、どうしても顧客側が“カスハラのリスク”を背負うことになり非常に損です。
伝える前の心構えとして持っておきたいのは、相手がどんな態度に出てもこちらは冷静に会話を続けるということ。そう気持ちを引き締めておくと、相手が感情的になってものせられずに済みます。
接客業に就いている方であっても自身が顧客になることはあるわけですから、両者の立場に立って想像してみてほしいですね。どちらの立場でも間違うことはありますし、言いすぎてしまうこともあります。そうした自分のミスを素直に受け止め、いつでも訂正できるよう日ごろから自身の器を大きくしておくことが求められている。
簡単ではありませんが、1人1人がカスハラに対する意識を持つことで、完璧には無理でも少しは防げる社会へとつながっていくと思います」
▼村嵜要(むらさきかなめ) 日本ハラスメント協会代表理事。ハラスメント専門家。東京都の2022年度「ハラスメント防止対策推進事業」アドバイザー。パワハラ・セクハラ・カスハラ・フキハラについてTVの報道番組などで解説。ハラスメントをテーマにしたテレビ番組では数多くの事例提供や再現ドラマの監修も行っている。著書(共著)に高等学校家庭科の副教材『生活デザインガイド2024』(大修館書店)。
取材・文:辻啓子
