【竹内 謙礼】売上1591億円で過去最高のドトールだが…”スタバ化”挑戦の顛末が物語る「厚い壁」と「本当の強み」
前編記事〈売上3401億円で絶好調…なのに"売却検討"の日本のスタバ、日米の明暗を分けた「価値」〉では、絶好調の日本スタバを支えているのが、じつは「空間を使わないテイクアウト客」であり、その土台に「サードプレイスという空間価値」があることを見てきた。
空間があるからこそ、割高なドリンクもプレミアムとして売れる――。この構図を、まったく逆の側から体現しているのがドトールだ。
ドトールが展開する「スタバを意識したカフェ」
「空間代」とは真逆の「ドリンク代」というポジションを得たドトールも、日本のスタバ同様、業績は好調だ。運営するドトール・日レスホールディングスが発表した2026年2月期の連結決算は、売上高が前の期比7%増の1591億円、純利益が5%増の72億円となり、いずれも過去最高を記録している。今後、物価高で節約志向が高まれば、「ドリンク代」というコスパの良さを求めて、さらに利用者が増えていくことが予想される。
ミラノサンドなど食事系のフードが手ごろで、コーヒー一杯のついでに小腹を満たすにはちょうどいい。
また、ドトールの多くの店舗では、タバコの煙や匂いが完全に遮断されたブースを設けており、昔ながらの日本の良き喫茶店の文化を引き継ぎ、確実に“スタバ以外”のお客の心をつかんでいる。
そんなドトールも、スタバのような「空間代」を狙ったカフェを展開しているのをご存じだろうか。
「エクセルシオールカフェ」は、座席のスペースにゆとりを持たせて、椅子の座り心地も向上させた、ドトールの上位ブランドの店舗である。コーヒーもエスプレッソマシンで淹れる濃厚な「カフェラテ」や「カプチーノ」が主役に据えて、価格を100円〜150円ほど高く設定。明らかにスタバを意識したカフェを、1999年に東京港区にオープンした。
「空間代」でカフェを展開する厚い壁
しかし、四半世紀以上経った現在、ドトールのIR情報によるとエクセルシオールカフェの店舗数は129店舗に留まっている。公式サイトの店舗検索で調べたところ、東京には82店舗構えており、都心部の展開はうまくいっているようだが、大阪府は4店舗、福岡県は1店舗、北海道はいまだ店舗数が0という状況を考えると、「空間代」でカフェを展開する壁は、思いのほか厚かったと言わざるを得ない。
後発で日本市場に乗り込んできたスタバに対して「焦り」があった面もうかがえる。スタバを強く意識するあまりロゴまで似せてしまい、2000年にスタバ側から不正競争防止法を理由に、ロゴの使用差し止めを求められる事態にまで発展した。最終的にはエクセルシオールカフェがロゴの帯の色を変更することで和解が成立したが、この事案からも、ドトールの迷いが垣間見えてしまう。
米国のスタバは「空間代」という強みを過小評価して、効率化に走り過ぎて「高すぎるコーヒー店」になって失速した。一方、ドトールのエクセルシオールカフェは、「ドリンク代」の強みを捨てたことで、「中途半端に高いコーヒー店」になり、所得の高い都心部でしか支持されないお店になってしまった。
この2つの事例のように、トレンドやブームに振り回されてしまうと、大切にしてきた企業の「強み」を見失ってしまうケースは少なくない。業績が悪化すると、自分たちの「強み」をマンネリだと誤解し、今までやってこなかった新しい取り組みをビジネスチャンスだと思い込んで、失敗するケースは多々ある。
たとえば、流行っているからと言って、SNSに人とお金を投資しても売上が伸びなかったり、畑違いの新規事業が長期にわたって利益が出なかったり、経営者の焦りを「チャレンジ」という言葉に変えて、迷走する企業は思いのほか多い。
日本のスタバとドトールの“勝ち方”は、自分たちの「強み」に磨きをかけることが、業績の回復につながる一番の近道であることを証明している。
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