「誰が出ても同じように強い」森保監督が掲げた理想には届いていなかった。ブラジル戦で露呈した日本の現実【識者コラム】
中3日でのブラジル戦は想像を超えて選手たちを疲弊させ、指揮官を悩ませたようだ。
故障者が相次ぐ日本代表で、開幕後の最大の朗報は田中碧の救世主のような躍動だった。だが肝心なブラジル戦ではスタメン起用に踏み切れず、グループリーグでは違いを生み出してきた中村敬斗や鎌田大地も途中で退くことになった。ワールドカップ1試合の疲労は、本人も気づかないうちに重く蓄積していくそうだ。たぶん優勝を狙うなら、こうした連戦のトライ&エラーの積み重ねも必要になる。
十分なデータを積み上げ、番狂わせを起こす準備も万端で臨んだはずである。しかも今大会のブラジルは過去に例を見ないほど凡庸で、モロッコ戦などはワンサイドと言っていいほど制圧されていた。ヴィニシウスだけが王国の流れを引き継ぐクラッキだが、攻め残りの特権を有しプレッシングに来ることもない。ブラジルのカルロ・アンチェロッティ監督は、若いラヤンを信頼していたが、縦への仕掛けはなく切り返してからのクロスだけなので、ラフィーニャの不在も日本には追い風になったはずだ。
日本の先制ゴールは鮮烈だった。ハイドレーションブレイクまでは、まったく攻撃の形を作れなかったが、佐野海舟がダニーロのパスをインターセプトすると単独で切れ込みミドルシュートを突き刺す。
ブラジルがカウンターに出ようとする矢先で、佐野のボール奪取時に立ちはだかるのはカゼミーロのみ。佐野がドリブルでかわしてもブラジルのCB2枚は揃って後退したので遮るものはなかった。王国の攻撃から守備への切り替えの緩慢さを突いたゴールで、1982年に黄金のカルテットを擁すブラジルを倒したイタリアのエンツォ・べアルゾット監督の指示を思い出す。
「ブラジルの自信満々に多用してくる横パスを狙うんだ」
もちろんシチュエーションは異なるが、せっかくイタリア人の指揮官を迎えても、ブラジルには修復し切れない弱点が残されているのかもしれない。
しかし振り返れば、日本が築いたビッグチャンスは、それが最初で最後だった。特に後半に入るとブラジルは布陣に幅を持たせて揺さぶり、左右からクロスの雨を降らせる。自陣深く閉じ込められた日本は、必死にはね返すしかなくなり、カゼミーロの同点弾を導いたのは完全にフリーになったガブリエル・マガリャンイスの高精度な左足だった。
一方、森保一監督は、66分に両WBをアタッカーからDFに交代したので、そこからはスウェーデン戦のデジャヴとなった。日本は深い位置で5−4のブロックを築くので、最前線の上田綺世は完全に孤立し、敵陣に運ぶのは前田大然のスピード頼みの状況に陥る。スウェーデン戦は引き分けの状態を“守れば”良かったが、この試合は勝たなければ大会を去ることになる。攻撃の起点を失った日本が、どこかで力尽きるのは必然の流れだった。
結局、アタッカーとCBに人数を割いた今回の代表は、勝ち切るバリエーションを用意できなかった。久保建英の故障などのアクシデントはあったが、2戦目に起用した鈴木唯人も以後出場機会がなくシャドーの人材が不足。後藤啓介、塩貝健人、さらにはなぜか遠藤航に代わりに追加招集した町野修斗もジョーカーとして使いこなせなかった。また早々に4バックの選択を外してしまい、ブラジル戦のように5バック状態で自陣に押し込まれてしまうと打開策がなかった。
日本の躍進を牽引して来た三笘薫、南野拓実、遠藤、久保を欠きながら4試合を戦い抜けたのは貴重な収穫で、鈴木彩艶などは世界の頂点を捉えつつあるしれない。しかし残念ながら「誰が出ても同じように強い」と指揮官が掲げた理想には届いていなかった。
文●加部究(スポーツライター)
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