記事のポイント
ファッションスクールではAI活用が進む一方で、学生の雇用不安やクリエイティブ職の将来への懸念が高まっている。
FITはAI利用を3段階で管理するガイドラインを導入し、専門授業や企業連携を通じてAI時代に対応する教育体制を整備している。
一方で教育現場では「クリティカルシンキングの欠如」が課題視されており、人間ならではの判断力や問題解決能力の重要性が再認識されている。


AIはすでに、消費者側とビジネス側の両面で、ファッション業界の多くの領域に影響を及ぼしている。しかし、誰もがこの動きを歓迎しているわけではない。

ここ数週間、大学の卒業式で祝辞を述べる講演者がAIに言及し、出席した学生から野次やブーイングを浴びるという出来事が何度か起きている。こうした否定的な反応の多くは、新卒者がまさに労働市場に加わろうとしているそのときに、AIが雇用を奪おうとしているという感覚に動機づけられている。

これはイェール大学の研究者によっても裏付けられている見解だ。

今日の卒業生は、明日には業界を形成していくリーダーとなる。そこで、Glossyは、複数のファッションデザインスクールのファッション教育者に話を聞き、この力学がファッションでどのように展開しているのか、AIが教室でどう使われているのか、そしてファッションの人材のパイプライン(供給源)がどうなっているのかを尋ねた。

FITが定めるAI利用「3つのレベル」



ニューヨーク州立ファッション工科大学(以下、FIT)の新学長ジェイソン・シュップバック氏にとって、AIに関する学生たちの期待や不安を管理することは、彼がこの分野において見出している「クリエイティブなキャリアが過小評価されている」という、より大きな変化の一端にすぎない。

シュップバック氏は、FITが独自に、ここ数カ月のあいだに広範な調査を通じて集め、今週公表したデータを引用した。それによると、アメリカ人の87%が、高等教育の費用がクリエイティブ業界を目指す学生にとっての障壁になっている。同様に、米国の成人の71%が、AIによってクリエイティブ産業で雇用を見つけることがより難しくなったと答えている。

「それでもクリエイティブ産業は、ファッションも含めて経済の1兆4000億ドル(約210兆円)を占めている。製造業よりも、建設業よりも大きい」とシュップバック氏は述べた。

「我々はFITをクリエイティブなキャリアの実験室にし、学生たちがその分野に進むために必要なスキルを身につけさせたいと考えている」。

シュップバック氏によると、AIはファッションにおける浪費やサステナビリティの欠如と並んで、学生がこの業界に対して抱く最大の懸念のひとつだという。

そのためFITには、AIの利用、責任、適応を意味する「AI Usage, Responsibility and Adaptation」の頭文字をとった「AURA委員会」という新しい組織が設立された。職員、管理者、教員で構成されるこの委員会は、学内におけるAIの利用に関するポリシーやガイドラインを策定している。

ほかのガイドラインのなかでも、この方針は教室でのAI利用を3つのレベルに分けて定めている。AI利用が自由に奨励される「オープンコース」、教員の指示により限定された一部のケースでのみAIが許可される「コンディショナルコース」、そしてAI利用が禁止される「クローズドコース」がある。

ほかにも、「CT380:AIアシステッドデザイン」のような授業や、頻繁に開催されるイベントのスタイリングへのAI活用などを専門テーマにしたマイクロコース、そしてGoogleやIBMといった訪問企業とAIの可能性について議論する場も設けられている。

「新しいテクノロジーが状況を揺るがしている、非常に激動の瞬間(フロシィ・モーメント)だ」とシュップバック氏は述べた。

「いまは、すべてが宙に浮いている。我々は皆、一緒にそれを学んでいる。雇用が失われること、知的財産が盗まれること、終末的なシナリオへの現実的な恐怖がある。物事が正確にどこに落ち着くのかはわからないが、これから数年のうちに何らかの形に落ち着くだろう。我々はそれに備えようとしている」。

パーソンズとアドビの協業「Not Generated」



ほかの教育機関も同様に、こうした大きな変化に向けて学生を準備させようとしている。たとえばパーソンズ美術大学は2026年、アドビ(Adobe)と「Not Generated」という共同イニシアチブを立ち上げた。

パーソンズの教員とアドビのクリエイティブチームが、AIによって変化するクリエイティブの状況に関する研究で協働している。これはすでに、AIの利用に関する全学的なシンポジウムにつながっており、パーソンズの学生が新しいAIのプロトタイプにアクセスして実験することを可能にした。

「パーソンズの学生は皆、すでにアドビのクリエイティブエコシステムを使って作業しているため、我々は基礎的なスキルを超えて、次に来るものに焦点を当てることができる。つまり、生成AIがどのように学生のクリエイティブな声を広げ、その作品の質とインパクトを高め、責任ある人間中心のデザインへのアプローチを前進させられるかだ」と、アドビのデザイン担当シニアバイスプレジデント、エリック・スノーデン氏は述べた。

AIが生む「クリティカルシンキングの欠如」



しかし、教室でのAI活用には欠点もある。ミズーリ州セントルイスにあるスティーブンス・インスティテュート・オブ・ビジネス・アンド・アーツ(Stevens - The Institute of Business and Arts)で、ファッションメディアリレーションズマネジャーを務め、かつてファッション分野の教授でもあったAK・ブラウン氏は、自身の教室でのAIの台頭には明確な悪影響があったと述べた。なお、ブラウン氏は2025年12月にスティーブンスを退職している。

「教室でのAI活用は、恵みであり呪いでもある。しかも多くの場合それが同時に起こる」とブラウン氏は述べた。

「業界が実際に進んでいる方向性と比較して、カリキュラムのギャップを分析するのに本当に役立った。そうした俯瞰的な視点が、現実の成果につながった。その一方で、学生たちはクリティカルシンキングを静かに蝕むような形でAIに頼り、その多くは教授には見抜けないと思い込んでいた。だが、我々にはわかっていた」。

これはファッションビジネスで高まりつつある懸念だ。AIが「クリティカルシンキングの欠如」を生み出しており、企業がもっとも重視するようになるのは、AIには提供できない種類の高度な戦略的意思決定だ、というものだ。

シュップバック氏は、これこそファッションスクールがもっともうまく対応できることだと述べた。

「私は2026年サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)に参加したが、CEOたちは新卒者がどうやってクリティカルシンキングを学ぶのかを心配していた。私は身構えてしまった。それこそ我々がやっていることだ。我々の教員は毎日起きて、学生にソフトスキル、クリティカルシンキング、高いレベルで問題に取り組む方法を教えている。それが彼らの仕事だ」とシュップバック氏は述べた。

[原文:Fashion Briefing: How fashion schools are adopting AI and addressing the 'critical thinking gap' among new graduates]

Danny Parisi(翻訳、編集:藏西隆介)