″孤立死ビジネス″の現場を行く…事故物件を専門に扱う「成仏不動産」を訪れる人々の意外な共通点
昨年の発生件数は2万2000件を突破
誰にも看取られず、自室でひっそりと亡くなる孤独死。なかでも発見まで8日以上経過していたケースを「孤立死」といい、日本の高齢化に伴い、その数が増加の一途をたどっている。
内閣府’26年4月14日に公表した「令和7年孤立死者数の推計」によれば、’25年の孤立死件数は昨年より366人増えて2万2222人で、8割が男性だった。
東京・浅草の住宅街にある古ぼけたアパート――1階にあるその部屋は、玄関ドアの隙間に異臭の漏出を防ぐためのビニールテープが厳重に貼られていた。特殊清掃員がテープを剥がすと、異臭が廊下に漂ってきた。
扉を開けると、玄関の上がり口に大きなバスタオルが1枚敷いてある。そこが遺体の発見場所だ。腐敗した体液が広範囲に流出していたようで、布を敷かなければ足を踏み入れるのがためらわれる状況だった。
部屋は6畳のワンルーム。壁のカレンダーは去年の8月のまま止まっていた。小さなテレビの傍らには首元の伸びた肌着。窓際には日焼けして変色したテレビ誌『ザテレビジョン』が山積みになり、冷蔵庫にはウーロン茶とポカリスエット、味の素、醤油などが残されていた。
床に積み上がった日本年金機構の通知書から推察するに、部屋の主の月収は12万〜13万円。北関東の出身で地元の中学を卒業後、大工や工員として働き、最後の約20年間はアルバイトなどで生計を立てていた68歳前後の男性だという。テーブル上の釜飯のデリバリーのチラシから、男一人の孤独な晩年が目に浮かんだ。
孤独死現場の処理など「特殊清掃」を手掛ける株式会社ネクストの佐倉賢次郎社長によれば、孤立死は一人暮らしの人だけに起きるわけではないという。
「奥さんが認知症になり、ご主人が面倒をみていたご夫婦がそうでした。ご主人が先に亡くなってしまい、残された奥さんは認知症で状況がわからず、結局、10日ほどそのままになっていたのです。
また、3階に子供、2階に父親が住む2世帯住宅では、親子の交流がなかったのでしょうね、部屋の中で父親が亡くなっていたのに子供は2〜3週間気づいていませんでした。家族と住んでいるのに孤立死になる……どちらもここ数年の話です」
「殺人事件は半額になる」
同じ屋根の下にいても防げない孤立。近年の特徴として、50代〜60代の現役世代の孤立死増加がある。
「亡くなられる方は重い介護を受けている人ばかりではありません。デイサービスもヘルパーも利用していない健常者が孤立死したケースもあります。元気な人が急に病気になって倒れても、一人暮らしで毎日誰かが家に来るわけではない場合、どうしても発見が遅れてしまうのです」(佐倉氏)
孤独死・孤立死問題が深刻化する中で、新たなビジネスが誕生している。事故物件を専門に扱う不動産サービス『成仏不動産』だ。サービス開始は’19年4月。運営するマークスライフ株式会社の代表取締役・花原浩二氏によれば、物件の多くが孤独死や自死が発生した部屋だ。
「葬儀会社様からの情報のほか、介護現場や病院、士業の先生からのご紹介もあります。ほかに多いのが不動産会社から物件を紹介されるケースです。
『なぜそんな物件を買うのか?』と不思議に感じる人がいらっしゃる一方で、『安いのならいいじゃない』と考える方も一定数いらっしゃる。売り上げは好調です」
花原氏によれば、販売価格は「亡くなり方によって上下することが多い」という。
「一般的に孤独死・孤立死だと相場から1割前後安くなる傾向があります。自死は2割前後、殺人事件が起きた物件は半額になるケースも多いですね。近年の不動産価格上昇は事故物件にも及んでおり、ワケあり物件の価格も地価相場に伴い底上げされる傾向にあります」
所有者や遺族にとって、事故物件は精神的にも経済的にも重荷となる。
「孤立死の場合、臭気が残ったままでは売れません。自分たちで専門業者に頼んで清掃し、床を修復してからでないと市場に出せない。所有者様は売却前に多額の費用を負担せねばなりません。その点、弊社の場合は現状のまま買い取るので、売り主様は持ち出しゼロで手放せます。特殊清掃やご遺品整理の後、住職を呼んでのご供養も行います」
花原氏の記憶に刻まれているのは、ある30代の夫婦と幼い娘が暮らしていた戸建ての事例だ。夫がうつ病で自死したその家は、妻によって隅々まで綺麗に清掃されていた。
「『これだけ大切に使われていたなら、次の買い手も必ず評価してくれます』と伝えたら、奥様がワッと泣かれたんです。心に抱えていたものが少しだけ解放されたように見えました。残された家族からすると思い出の詰まった大切な家。奥様が旦那様の死後も家を綺麗に保っていたのはそのためだと気づいてからは、物件への向き合い方が変わりました」
メディアで大きく報じられた殺人事件の現場が事故物件として舞い込んだこともある。数年前、関東某所で弟が兄を殺害するという凄惨な事件が発生した。その″事件現場″すら、投資用と割り切った客が購入し、現在は生活保護受給者が入居しているという。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、単独世帯の割合は’20年の38.0%から、’50年には44.3%にまで上昇する。全世帯の半数近くが一人暮らしとなる未来は、すぐそこまで来ている。
取材・文:甚野博則(ノンフィクションライター)
